帰らないの? 九郎さんルート・9月 

〜 SASUGA特別編 ・ 15 〜










アンステーブルブリッジを飛び下りた勢いそのままに、バランスタンクまで駆け抜けた。
そして、まるでそこに樽など無いかのように、将臣は平然とバランスタンクに飛び乗ったのだった。


   「危ね…」
   「無茶………じゃ、なかったみたいですね」


   「まったく、驚かせてくれるぜ」


   「船長でも驚くんですね」


   「走ってきたそのスピードのままバランスタンクに飛び乗る奴ぁ、初めて見たぜ」


SASUGAオールスターズでさえ驚いたのだった。


樽というには多少角ばったタンクなのだが、だからこそバランスがとりづらく、
普通はヨロヨロと、サーカスの玉乗りピエロよろしく慎重に転がしていくものなのだが、
将臣はまるで平坦な地面を走り続けるようにタンクを操り、向こう岸に駆け込んだ。


   『バカっ速! どんだけ〜! 危なげもなくバランスタンク、終わっちゃったよ!』


   『アハ…、藤森君、言葉遣いぃ』


   『ウワァオ。そうだったYO、ありがと亜紀ちゅわん。
    カコ良ぃ彼氏はメタルスピン』


   『将臣君、さすがだね〜、ハハハ〜』


   『将臣! 右側から回り込むように跳びつけ!』


   「分かってるぜ! 俺も伊達に10年以上SASUGAを観てたわけじゃぁ、無い!」


将臣は、「無い」と言うのと同時に躊躇なく数m先のチェーンに向かって跳んだ。


   ガシャ!


派手な音をたてて、メタルスピン全体が悲鳴をあげた。


   「よ! うおっ!」


第1ステージのクォーターブリッジばりにチェーンを掴んだ将臣は、外側に大きく振り回された。


   『いかん! その鎖は滑るんだ!』
   『将臣君〜〜』
   『きゃ〜! 亜紀、見てられな〜い』


   「なんてな、ハハハ」


   「将臣君!?」
   「将臣殿!」
   「兄さん! まったく! 真面目にやってくれ!」


   「分かった分かった。ったく、3人同時に怒鳴るなっての」


そう言いながら将臣はメタルスピンを飛び下りて、
第2ステージの最終関門となるウォールリフティングに向かった。






   「さあ、あの兄ちゃんのホントの力はどんなモンなんだ。見せてもらおうか」


   「本当の?」


   「永野さん、どういう事です?」


   「山元、お前だったらメタルスピン、片手でできるか?」


   「無理に決まってますよ」


   「でも、あいつ右手で握っただけで、左は遊んでたぜ」


   「え? あれホントに冗談だったんすか!?」


   「さぁな。マジでヤバかったのか、余裕のパフォーマンスなのか」


   「ホントは危なかったんじゃないかな。
    滑るチェーンも、自分の体重の衝撃も、遠心力も、冗談にしては
    片腕のリスクは大き過ぎるでしょう。
    バランスをとるのも余計難しくなるはずだし」


   「それとも、ホントの大馬鹿なのか」






   『もう大丈夫だ。次の「壁挙げ」は、将臣なら問題ない』


   『うわぁお! それはどうして九郎すわん♪』


   『将臣は異世界むこうでは大太刀を振り回して』


   『向こう〜? 向こうってどこYO??』
   『九郎! わぁ〜わぁ〜!!!! あはは〜あはは〜〜』


   『オオダチって何〜? 亜紀に教えて〜』


   『「オレタチ」、「俺たち」。ね〜「俺たち」!
    あっちでもこっちでもど〜っこでも「俺たち」、将臣君に振り回されてぇ〜
    モ〜〜大変ってね〜、九郎ぉ〜、ね〜〜』


   『さあ! 将臣が到着したぞ!』


   『御意ぃ〜……って、聞いてないんだ、張本人は……トホホ。もう、たいへん』






将臣は重量30sのウォールリフティングに滑り込み、手をかけた。


   「せい! あ、やべぇ」


30sの壁が、持ち上げられたというよりは、軽く投げ上げられて、上の梁に派手な音を立てた。






   「おいおい、一番軽い30sとはいえ、あの壁あそこまでブン投げた奴、いたか?」


   「パワーのアメリカさん達でもいないですよ」


   「だよな」


   「どんな腕力なんだ?」


   「いや、彼の場合は腕力以上に腰と足の使い方が巧いんです」


   「ま、どっちにしても、どんなトレーニングしたらあんなこと出来るようになれるんだ?」


   「知りたいですね、本当に」






   「将臣君! SASUGAのセットを壊さないでよ」


   「壊して無ぇだろう! よ!」


また派手に40sの壁を放り上げた。


   「もう一丁!」


そう言いながら50sの壁も軽々と持ち上げて、
ガッツポーズをしながらゴールの赤いボタンを押した。


   「真面目に走ればもっと速…、……嘘ぉ!」
   「に、兄さん……」


   「え? 望美、どうしたの? 譲殿も??」


   「18.99秒……」


   「朔! 将臣君、第2ステージの新記録だよ!」


   「やったな、兄さん」


   「ああ、将臣殿! おめでとうございます」


電光掲示板が100分の1秒掲示になった途端、一般客はほとんどいない
つまりSASUGA出場者とその関係者だけの会場内に、衝撃が走った。


   「おいおい、第2ステージ最速記録、あっさり塗り替えやがったぞ」


   「残り時間18.84秒を!?」


   「源君とジェームズ・マックが同タイムで今日記録したばかりだったのに」


   「やれやれ、九郎はまだしも、アメリカさんの大学生って方がまだマシだったぜ」


   「ええ、日本の高校生よりはショックが少なかったですね」


   「日本人でも力がSINOBI WARRIORより上になれるんですね。
    ホント、彼は何者です? そんなに急いでいたようには見えなかったんですが」


   「いちいち観客席の仲間の、野次やら声援やらに突っ込み返したりしながら
    遊び半分、というより話しながらの競技だったんですよね」


   「そう見えますが、でも、それだけ肺活量、というか心肺機能が尋常じゃないんでしょうね。
    よく考えてみれば、ダブルサーモンラダーは7秒ちょっとだし、
    テーブルブリッジは信じられない方法で一瞬だったし、
    バランスタンクやメタルスピンへの走り込みは、躊躇もタメもあったもんじゃなかったし、
    ましてウォールリフティングは……」


   「要は、無駄な時間が無かったってことだろ。
    ったく、九郎の仲間だな」


   「出た! 船長、今日何度目ですか?」










   「ハンディ小谷!? ちっ! これもオカケかよ! どうなってんだ!」


高瀬は、番号を登録してある同僚のカメラマンたちに電話をしまくっていた。
先ほど連絡を携帯にしてきたクレーン第2カメラの笹沼さえ出ない。


連絡用インカムは電源が落ちたのか、大分前からウンともスンとも言わない。
冷静に考えれば、SASUGA始まって以来、いや緑丘スタジオ始まって以来の異常事態なのだが、
出てくる選手出てくる選手、とんでもないパフォーマンスをみせるので、
撮影に集中しないとカメラアングルからすぐにフレームアウトしそうになるのだ。
つい携帯を再びポケットにしまい、カメラにむかうことになるので、連絡が疎かになる。
SASUGAを第1回放映から撮り続けている古参のプライドにかけても
と、つい意地になって、本来撮らなくてもいい範囲までカメラを回していた。


   「昨日の打ち合わせで、2本撮りなら2本撮りって言っといてくれよ」


クレーン第3カメラの高瀬は、第2ステージが始まってからも懸命に
選手達(と高瀬は信じている)を撮り続けていた。
しかし本来クレーン第3カメラは『そり立つ壁』から『ターザンロープ』にかけての選手を
サイドから撮影するように組まれているクレーンである。
ほぼ真横、距離にしたら100m近く離れている第2ステージは
そろそろ第3エリアの鉄骨が邪魔になってきた上に、
装備した望遠レンズの性能的にも、撮れなくなってきた。
そこでやっと、落ち着いて携帯を取り出せたのだが……。
     !

携帯に目を落としていた高瀬の視線の隅に、何かが


そう思ったのは、4時間後にクレーンが下された後のことだった。






   「お休み、カメラマンさん」


クレーンの突端にたたずんで、ヒノエがウインクをするのだった。


   「へぇ、王子の骨董屋の商品、結構いいじゃん」














11/10/06 UP

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