帰らないの? 九郎さんルート・9月 3

〜 SASUGA特別編 ・ 3 〜










  「OK! それじゃ、ここからのMCは俺、有川将臣がお送りするぜ! って、オン・エアはされて無いけどな。
   そしてこれまたオン・エアされないのに無駄に豪華なゲスト!
   解説はSASUGA2連覇に輝いたばかりの源九郎! よろしく!!」


  「ああ、将臣。こちらこそ、よろしく頼む」


  「OK では早速だが、第1ステージの攻略ポイントをよろしく!」


  「ぽ、ぽいんと??」


  (攻略上の注意箇所。ここがやっかいだぁ、とか、ここでこんなふうに力を加減した方がいい、とか)


  (ああ、そうか。分かった)


  「OK、分かってくれたみたいだから、もう一度。第1ステージの攻略ポイントをよろしく!」


  「最初の飛び石はこう、ガッと走り出して、パッパッパッと気合いで抜けて」


  「まったく理解不能な解説、サンキュゥ。聞いたこっちが悪かった。
   ではトップバッターは、梶原ぁ朔ぅ!
   しっかり者の妹キャラだが、そのポテンシャルは望美にひけを取らないと専らの評判!
   我らが朔! ヒァウィゴォ!」










スタート地点でランニングシューズの紐を結びながら、会場内に響き渡る将臣のMCを聞いていた朔が呟く。


  「将臣殿……、なんだか恥ずかしいわ」


  「景気づけだと思ってね、朔」


  「景気づけ?」


  「将臣君としては、精一杯の応援のつもりなんだから」


  「そうなの? …フフ、そうね、望美」


  「でしょ。頑張ってね」


  「ええ、望美」




  「それにしても兄さん、格闘技のリング・アナウンスみたいに叫ばなくてもいいだろうに……」


  「譲殿」










  「さあ、準備ができたみたいだ。応援団もスタートエリアから離れたぜ。
   それじゃぁ、OK! スタートだ!」



ピ! ピ! ピー!



  「スタートのブザーと同時に綺麗にスタートした!」


  「ああ、綺麗な前傾姿勢で加速も十分だ」


  「お!? いきなりまともな解説サンキュ! アッと言う間に『七段飛び石』を綺麗に飛び抜けた!」










  「お、おい、あの娘速くないか?」


  「ああ、SASUGA ANGELSチャンピオンと同じくらいじゃねぇか」


  「まさかぁ…? いくらなんでも…」


  「おい! カメラのチーフに大至急連絡しろ。撮り、再開だって!」


  「え? いいんですか?」


  「この素材観て、カメラ回さない方がテレビ屋じゃ無いって! 早くしろ!
   責任はディレクターおれが持つから。それからお前、編制と照明、呼んでこい」


  「了解!」


  「こいつはひょっとすると、ひょっとするかも……」










  「さあ! 早くも『ローリング丸太』を通過した!」


  「ここは勢いをつけなくては!」


  「『クォーターブリッジ』を走り抜けて『ジャンプハング』!」


  「そこだ! 跳べ!」


  「OK! がっちりロープを掴んだぁ!!」


  「足下を確認して、慎重に着地さえ出来れば! ああ!」


  「おぉっと! バランスを崩し……ラッキー! なんとか堪えたぜ! 朔! ナイスだ!」


  「次は、階段を降りる手前から加速をしないと」


  「さぁ! 女性陣には第1ステージ最大の難所『そり立つ壁』だ!」


  「あぁ、勢いが足りない!」


  「九郎の言う通りだったぜ! 残念だが、朔、いったん戻って仕切直しだ!」










セットのコースと並行して走りながら応援している一団が叫ぶ。
その中でもひときわ大きな声で望美が叫んだ。


  「加速加速!」


  「分かったわ」


  「ガンバレ! 朔!!」


  「はい! 譲殿! 行きますっ!」










  「九郎の言う様に、今度は階段の上から走り込んだ!」


  「その斜面の急角度を恐れるな!」


  「加速したぁ! 行けぇ! 跳べぇ!」


  「そうだ!」


  「ナイス! 綺麗に両手で掴んだ! おぉっっと! そのままの勢いで身体を横にして」


  「乗った! 成功だ!」


  「OK! 体操の鞍馬を観てるようだぜ!
   おぉっと朔! タイムが迫ってる! すかさず立ち上がって『ターザンロープ』だ!」


  「跳べ!」


  「ロープを掴ん! あぁ!」


あぁ!!


派手な水しぶきを上げて、背中から水面に落ちていく朔の姿を誰もが想像した
その瞬間


  「さ、朔〜〜!」


と、水面で朔の身体をキャッチしたのは、景時だった。


  「あ、兄上……?」


  「怪我は? 朔、怪我は〜〜?」


  「大丈夫です……」


  「良かった〜〜 お兄ちゃん、慌てちゃったよ〜〜」










  「OK、OK! 兄妹で、愛と青春の旅立ちチックなアホな絵をサンキュー!」


  「朔の失敗は、腕だけであの綱を掴みにいこうとしたことが敗因だ。
   身体全体で綱にしがみつくようにしなければ」


  「真面目にアドバイスしてくれてサンキューな! 後続の景時! よく聞いとけよ!」


  「御意〜ってね〜〜。アハハハ〜」






景時に抱きかかえられて、何処も濡れずに地面に下ろされた朔は、走り寄る望美と譲に向かって


  「ああ、あの縄梯子を昇れば『ごうる』だと、そう思って気を緩めてしまった……
   まだまだ鍛錬が足りないわ……私は……。そんな自分が悔しい……」


いつ来たのか、リズヴァーンが優しく告げる。


  「『己を知る』。確実に修業は成果をあげていると思いなさい。後は焦らないことだ」


  「リズ先生……、はい」










  「凄ぇ……」


  「やるねぇ〜」


調整室で山のようなモニターを前にして、ディレクターとカメラ・チーフは呟いた。
湘南の喫茶店だかレストランだかのマスターに過ぎない人間が、
いったいどうやったら、『ターザンロープ』から落下する彼女が着水するまでの1秒にも満たないであろう間に、
脇で応援していたはずの場所から、あの池のほぼ中央の落下地点まで到達できるんだ?


ほんの数分前に、(『SASUGA』甘く見てると怪我するっちゅぅの。ディレクター、何で止めないんだよ)
と思っていたスタッフは、誰もが今、彼女の、そしてその兄・梶原景時の身体能力の高さに驚いていた。
カメラ・チーフは我に返り、マイクに向かって言った。


  「2カメ、3カメどうだ?」


  《こちら2カメ、バッチリ》


  《3カメ、OKっす! 絵になる娘だったね》


  《チーフ》


  「誰?」


  《副調整室のリモコン・カメラと俯瞰カメラです。こっちでも撮ってますから。
   それとハンディー班4人とも、『クォーターブリッジ』駆け抜けた辺りで飛び出して行きましたから
   うまくすれば『そり立つ壁』辺りから撮ってるかと》


  「よっしゃ! みんなカメラマンプロだねぇ」


  《調整室・ディレクターから中継各班へ。繰り返すディレクターから中継各班へ。
   よく聴けよ。今の彼女、『ターザンロープ』到達時までのタイムは歴代女子3位だ!
   こいつはひょっとすると特番ものだぞ。


   まさかとは思うが念のために第2ステージ、解体作業は延期して、
   はずしたものはナット1つまで本番さっきの状態に戻してくれ。
   悪いが、あと1時間、きっちり頼む。


   プロデューサーにも話は通したからな。
   ハンディ各員、テープの尺を確認しておいてくれよ。
   照明・効果、急いで本番用に準備。
   音声、局アナは帰っちまったけど、今やってる素人のMCと九郎の声、録音しておいてくれ。
   各ステージ補助要員、スタンバってくれ。


   いいかみんな! 本番だと思ってくれ》




緑丘スタジオ、野外特設セットが再び活気を取り戻したのだった。











09/08/07 UP

NEXT→

←SS TOP