帰らないの? 九郎さんルート・9月 5

〜 SASUGA特別編 ・ 5 〜










ピ! ピ! ピー!


  「さあ! 注目の望美のスタートだぜ!」


  「朔同様、綺麗な加速だ」


  「七段飛び石を綺麗に走り抜けて、ローリング丸太にしがみついた!」


  「乗馬の要領で内股を締めるんだ!」


  「一回転! 二回転! あ!!」


  「危ない!」


ローリング丸太のガイドレールが支柱から外れかかって、ぐらついた。
回転する丸太にしがみつきながら、望美はなんとかバランスを保とうと必死だった。


その時だった。


そのガイドレールを固定した者達がいた。
回転しながらも、その中で一番の大柄な人物がリズヴァーンであることが分かり、叫んだ。


  「先生! ありがとうございます!」


  「問題ない」










  「さすがだな」


  「事前に望美の危機を察知して、修理してたって? 出来すぎじゃん!」


  「ヒノエ?」


  「オレの見せ場を一つ、先生に持っていかれちまったね」










  「見たか!? 将臣! 緊急修理の手際の良さ、さすが先生だ!」


  「ホント、サプライズな登場の仕方だぜ」


  「五回転! 六回転! 大丈夫だ、望美の回転が安定した」


  「OK! 後は、落ち着いて着地しろよ」










  「望美もやるね。あのバランスを立て直すなんて、さすがはオレの神子姫様だね」


  「ああ、神子はすごい」


  「さ、オレ達もそろそろ準備をするか」


  「え? オレ『たち』? わ、私もなのだろうか?」


  「おいおい、何言ってるんだい、敦盛? 当然じゃん」


  「当然……なのだろうか…」


  「じゃ、お前は靴を履き替えておくことだね」


  「ヒノエは? 何処に行くのだろうか?」


  「ちょっと、……ま、準備運動、かな」


  「準備運動……」


遠離るヒノエに向かって、敦盛がささやく


  「ヒノエ……悪い笑顔が、弁慶殿にそっくりだな」










  「あの外人さん、さっきからあそこにいなかったか?」


  「さあ……」


  「それに、何で第2ステージをバラしに行ってた班と野外セットの保全係までいたんだ?」


  「さっき、眼鏡の高校生が何人か連れて行きましたけど」


  「何で? 何で分かったんだ? あそこのボルトが緩んでるって」


  「とにかく、助かった」


  「次のスタートまでにその他の箇所のチェックを急げ! これ以上の不具合や故障はTBB制作班の恥だからな!」


大道具製作班、野外セット補修班、その他手の空いている現場スタッフは全員ローリング丸太の修理に飛び出した。










  「何者だ、あの娘は」


  「ひょっとするとひょっとするぞ、これは……田山さん」


帰り支度をしていたSASUGAオールスターズの面々が、モニターに映る望美を観ていた。


  「速い」


  「ハイパーレスキューの武田でもそう思うのか」


  「ええ。彼女、素人じゃないですよ」


  「と言うと?」


  「クォーターブリッジから走り込みの姿勢
   踏み切ってジャンプハングのロープへのグリップ時の体重移動、
   水の上の着地地点へのダイビングのタイミング、
   どれをとっても何の躊躇いも無い、スムーズな流れだ」


  「初めてあのコースを走ると、少なからずビビるもんだけどな。
   こりゃあ、ビギナーズ・ラックだけじゃ説明つかないですね」


  「気持ちが負けないんだ……。確かに素人じゃないかもな」


  「着地のバランスも絶妙だよ。見習いたいね。俺、前回の春、あそこでバランス崩してズッコケて」


  「まさかの第1ステージ敗退でしたものね、山元さん……」


  「……、そうだったな」


  「何? 田山さん、武田君も! やだなぁ、真面目に受け取らないでよ。ここは笑うところでしょ」


  「何の訓練も受けていない初めての女性では遠心力か重力のどちらかに負けるものだ」


  「脚力も握力も申し分ない」


  「しかも野郎に比べて体重が軽いのも有利だな」


  「九郎の仲間は、どいつもこいつもただ者じゃ無ぇな」










  「さあ、いよいよ走り込んで、そり立つ壁!」


  「そこだ! 踏み込め!」


  「手をついて! 翔んだ! いや、駆け上がっちまったのか!? おいおい、重力っていうのを無視してねぇか?」










  「副調整室サブ! タイムは?」


  「こちら副調整室。そり立つ壁クリアまでのタイムはプラス3秒!」


  「え? 『プラス3』って?」


  「今回の九郎のタイムに、です」


  「まさか……」










  「行け行け行け! 前2人が落ちてるターザンロープだ!」


  「『じゃんぷはんぐ』の要領だ!!」


  「え!? お? 九郎、今、何て?」


  「何だ、将臣! こんな時に!」


  「お前、今『ジャンプハング』って言ったよな」


  「そこだ! 飛びつけ! よし!!!」


  「九郎、もう一度言ってみろよ」


  「『じゃんぱはん……』『じゃんぽはn……』、ああ! どうでもいいだろう! それより、望美に注目しないか!」


  「そうだった! ミステリアスな九郎の言動へのツッコミはまたにして、今は望美だ!
   ターザンロープを難なくクリアして」


  「なるべく上だ! なるべく上の縄梯子に飛び移れ!」


  「九郎の声が聞こえたのか、ターザンロープから無茶にも見えるジャァァンプ!! 
   OK! ロープクライム上段をガッチリとキャッチ!!」


  「時間は十分に残っている! 望美、落ち着いていけ!」


  「ああっと慣れない縄梯子に、もたついている! あと3段だ! 手を伸ばして足をかけて」


  「落ち着け! 落ち着け!」


  「あと1段! あっと! 足がロープから滑った!」


思わず立ち上がる九郎


  「何をやっているんだ! 望美! 落ち着けっ!」


将臣もマイクを掴んだまま、椅子を蹴倒して立ち上がり叫ぶ


  「OK! 頑張れ! 望美!」


  「上の板に手を着け! そうだ! そこで」


  「ジャンプだ!!!」


  「乗った!」


  「ボタンだ! ゴールだ! 走れ!」


  「飛び込め! 押せ!」


  「ゴール! ゴール! タイムは!」


  「……よくやったぞ、望美」


  「残り時間は……! 14秒03!」










  「やったよ!! 朔! 景時さん! みんな!」


望美は赤いボタンの隣でガッツポーズをして、叫んだ。










  「じゃ、お先」


  「田山さん! 帰るんですか?」


  「ああ、明日も鉄工所のバイトだから」


  「でも、これ、観ていかないんですか?」


  「ここまで観ただけで十分だ。これ以上観るよりも……」


  「『これ以上観るよりも』?」


  「フッ、じゃ、お先に」


  「田山さん?」


田山の後ろ姿が見えなくなってから、船長・永野が呟いた。


  「一刻も早く帰って筋トレしたい気分なんだろう」


  「え? それって…」


  「こいつらが出てきたら、オールスターズなんて霞んじまうぜ」


  「そんな……」


  「俺も帰りますわ」


  「武田さんも?」


  「いや、俺の有給休暇は今日までなんでね。明日からはまた新人引き連れて、救助訓練で」


  「御苦労さん」


  「船長は?」


  「こんな面白い連中、ちょっといないからな。俺は観てくわ」


  「僕も」


  「大丈夫なのか、コンビニの地域統括マネージャー」


  「ええ、僕は明日まで有給申請して来てますから」


  「さすが、そつないね」


  「城鳥が観てたら、何て言うかな」


  「次回、出てきますよ」


  「城鳥が?」


  「ええ、文吾さんも、それから多分、彼女達も」










  「14秒03!」


  「歴代女子1位!? 本当かよ!」


  「それどころか、トータル歴代9位だぜ!
   しかもその内、九郎が1位と2位、マネージャー山元が3位と6位、
   レスキュー武田が4位と5位の記録ホルダーだから、実質6位だ」


  「何者だ? 彼女」


  「九郎の…? あれ? 俯瞰カメラの映像、カットしました?」


  「いや? どうした」


  「エラーですかね。画像、消えました」


  「信号は」


  「生きてます」


  「おかしいな……」


  「あれ? リモコンカメラも」


  「画像が出ないのか?」


  「い、いえ」


  「じゃあ、どうしたんだ?」


  「空を映したまま動かなくなってしまって…」


  「まったく! どうしたっていうんだ」


  「修理、指示出ししますか?」


  「当然だろう!」


  「……」


  「どうした?」


  「修理班、内線電話に誰も出ません」


  「あ、ローリング丸太…」


  「確か、手の空いてる者は全員行けって」


  「……そうだった」


  「僕、行ってきます」










  「やれやれ、あと2つか。弁慶おっさん、準備運動にしては、ちょっとハードなんじゃない?」











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