遙かなる時空ときの彼方へ 3.5

     シャニと足往の大冒険! 1











ゴゴゴゴ!



皆の乗った船が激しい水の流れに押し上げられて、際限もなく昇っていく



シャニと足往は互いに顔を見あわせては、

これから先がどうなるのか分からず、不安と期待で引きつった笑顔を浮かべていた。



後ろに座したアシュヴィンとナーサティアも、予想の付かない事態に緊張しているようだ。



目の前が明るくなり、視界が開ける

と、同時に船自体が急速に落下する



浮遊感



落下感



   「きゃぁぁぁぁ!」



   「………………っ!」



   「落ちるぅぅ!!」



   「はははは、そう来たか!」











話は12時間ほど前に遡る











早朝の鎌倉、波の穏やかな七里ヶ浜



   「兄上、今日は日曜日ですから、いつもより少し多めに仕込みをしておいてくださいね」



   「そだね〜♪ もう夏休みだから、観光客の方も増えてきたしね〜〜♪」



   「ええ、昨日はスイーツも甘味も夕方には売り切れてしまって、その後のお客様n」





ズガン!!!!!



突然、至近距離に爆撃でも受けたような衝撃が走る。

落雷! 閃光と轟音で本能的に身はすくむものの、それでも2人は、とっさに身を屈めていた。



   「さ、朔ぅ〜、大丈夫かい?」



   「兄上こそ、お怪我は?」



   「雷……かな??」



   「ええ……? でも外は雲一つない晴天で…」



2人して窓の外を見る。

そこには、朔の言うとおり、雲一つ無く晴れ渡った7月の湘南の空と

サーファーが見たらガッカリするような波の穏やかな、凪の海とが広がっていた。



そして、駐車場を走って店に向かってくる2人の子供の姿も



   「あら? どなたかしら?」


と朔が言う間も無く、dragon noirこの店の入り口の扉が開き、カウベルが軽やかに鳴る。



   「お兄ちゃん! いる!?」



   「譲殿!!」



   「お兄ちゃん?」



   「あの〜〜〜、君達、誰かな〜〜〜??」



   「お前なんかに用は無いよ。おにいちゃんに用があるんだ!」



   「おじちゃん誰?」



   「お前…、おじちゃ……、ガ〜〜〜〜〜〜ン!」



   「譲殿に御用事なのでしょうか?」



   「そうだよ。用も無いのにわざわざ来るわけないじゃない」



   「お姉ちゃんは誰?」



   「ああ、子供達が勝手に入ってきてしまいまして、申し訳ありません」



後から入ってきた、2人の子供の保護者と思しき男性が入ってきて、穏やかな口調で言う。



   「こちらに有川譲君はいらっしゃいませんでしょうか」



   「譲君なら〜〜」



   「あの、どういった御用件でしょうか?」



   「ああ、申し遅れました。俺は風早と申します。奈良県の県立高校の教員を」



   「あ!!」

   「あ!!」



   「その御様子では、俺のこと、御存知なのですね」



   「え、ええ。譲殿から…」



   「『譲殿』…? ああ、では、あなたが梶原朔さんですね」



   「はい」



   「お噂は譲君から」



   「え? 譲殿から…、ど、どのような」



   「あなたの為に、我々の世界でも命を賭してくれたようなものですからね」



   「え? ええ……!?《わ、私の為?? 譲殿…》」



   「朔〜〜」



   「何ですか、兄上?」



   「この人の声、どっかで聞いたことがあるような」



   「! 兄上に似ていらっしゃるのです」



   「えぇ〜〜! お、俺ぇ〜〜!!」



   「ええ、ですが、こちらは高校の先生で、しかも神様ですからね。

    兄上などと比べては、失礼すぎてバチが当たります」



   「そ、そうだね〜〜〜……、トホホ」



   「ねぇ! 風早の質問に答えてよ。お兄ちゃんはどこなの?」



   「シャニ、お行儀良くする約束でしたね。

    それに、こちらの女性は有川君の奥様ですよ」



   「え! お姉ちゃん、お兄ちゃんに『とまどい』されたの」



   「足往、それを言うなら『つまどい』だよ!」



   「つ、妻問……」



朔は見る見る真っ赤になっていく。

自分でも分かるくらい真っ赤になった耳を自ら押さえて、言う。



   「ゆ、譲殿なら、今日は日曜ですから、そろそろこちらに」



   「来るんだ!」



   「わ〜〜い、早く来ないかな」



   「申し訳ありませんが、こちらで待たせていただいても…」



   「え、ええ♪ どうぞ、まだ開店前ですから」



と、言い終わらない内に、厨房側の扉が開き



   「お早うございます、景時さん。頼まれてたもの、ここに置いておきますよ。

    すみません、ちょっと遅れちゃって。また、ここのところ夢見が悪くて寝不足…」



慣れた動作で調味料の類をストッカーに整頓し、厨房から店内に目を向けたところで



   「!!」



踵を返すように厨房側の扉から外に出て行こうとする譲に、朔が慌てて声をかける



   「譲殿!」



   「さ、朔…、悪い、急用が…」



   「お兄ちゃ〜ん!」



   「有川君、そこまで露骨に俺達を避けなくても」



   「風早さん…。ああ、悪夢の再現……じゃ、ないでしょうね!

    ダメですよ! せ、せめて朔は置いて」



   「譲殿」



   「この前のこと相当、根に持ってるんだね」



   「当たり前でしょう! 

    あの後も、葦原さんのことで痛くもない腹をあれこれ詮索されて、迷惑してるんだ」



   「ゆ、譲殿、ごめんなさい。私……何も知らなかったから」



   「お兄ちゃん、怒ってるの?」



   「譲殿、ごめん」



   「い、いや…、シャニ、足往……君達に、そんなに謝られるようなことでも……」



   「譲君〜〜、勘弁してあげなよ〜〜♪ ね〜〜」



   「景時さん……、ハァ〜〜…、分かった分かった

    許すも許さないも、元々そんなに怒ってないから」



   「『そんなに』ってことは、少しは怒ってたんだね、お兄ちゃん」



   「シャニ、一言多いですよ」



   「で? 今日はどういった御用件です?」



   「いや、実は…千尋にも内緒なのですがね、

    どうしてもこの2人が君の所に行きたいと、ごねるもので……。つい…」



   「ごねる?」



   「シャニは常世の第3皇子としての職務をすべて放棄してしまって」



   「放棄したんじゃ、ないんだよ。

    ただ、あの『プリン』と『クレープ』の味を思い出すと、もう何も手に付かないんだよ」



   「2人とも、ダメじゃないか! 大人の言うことが聞けないと、ちゃんと大きくなれないぞ!」



   「ごめん…」



   「ごめんなさい」



そんなションボリした2人の前に、朔がトレーを持って現れた。



   「そんなに悲しそうな顔をせず、さ、こっちに座ってください。これでも飲んで」



   「これは何?」



   「何か透明な器の中に、泡だった水が入っているけど…」



   「器の中にも透明なのが浮いて……えぇぇ!! 氷!! 冬でもないのに何で氷が??」



と、足往は両手でコップを掴み、そのシュワシュワする液体を、恐る恐る口に流し入れる。



   「足往! 飲んで大丈夫?」



   「……(ゴクン) !  シャニィー!!

    シュワシュワして、甘くって、凄っ〜〜〜く美味しい!!!!」



足往の言葉に慌てて、シャニも自分の前に置かれたコップを手にしようとした

その時



ズガン!!!!!



至近距離に爆撃でも受けたような衝撃が走る。

落雷! 閃光と轟音で本能的に身はすくむものの、それでも皆、とっさに身を屈めていた。

しかし、それはdragon noirの駐車場に突如、現れた黒い麒麟であった。

その麒麟にまたがる二人の男



一方の男が言う。



   「ハハハ! 黒麒麟、よくやったぞ。見事に白麒麟の後を追って、時空を超えた!」











08/08/15 UP

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