遙かなる時空ときの彼方へ 3.5

     シャニと足往の大冒険! 2











  「く、黒麒麟!!」



  「あ!! に、兄様達…だ。まずい! 殺される!!」



慌てて、シャニは朔の後ろに隠れる。



  「え? え? シャニ? ナーサティアに許可をもらってきたのでは無かったのですか?」



  「そんなこと、無理に決まってるじゃない」



  「それってまずいことなんですか、風早さん?」



  「え、ええ……。しかし、なんで、黒麒麟が時空を超えられたんだろう?」



  「アシュヴィン兄様の特訓の成果なんじゃないかな」



  「特訓??」



  「風早だけが時空を超えられるってことが、兄様のお気に召さなかったみたいだから」



  「だからって……。凄いな……。どんな特訓だったのか、俄然、興味が湧きますね」





dragon noirの扉が開く。



  「ほぉ……、これはこれは。一同おそろいで、お出迎えとは痛み入る」



  「アシュヴィンさん、お久しぶりです」



  「その節は世話になったな、有川」



  「アシュ、さっさとシャニを見つけて、あっちの世界に戻ろう」



  「サティ、そう焦ることはないだろう……鄙にはそぐわぬいい女が、ここにもいる。

   存外、千尋のいた世界は楽しめそうだ」



  「まったくお前は暢気なのだから。シャニ! 今すぐ出てくるのだ」



朔にしがみついていたシャニの手がビクッと反応する。



  「シャ、シャニはここにはいません!」



  「ほぉ、足往。では、どこに行ったというのだ? お前はここにいると言うのに」



  「え!? え〜と…」



  「二人分の飲み物がそこにあるのも何よりの証拠だ。シャニ! このナーサティヤを本当に怒らせたいのか!」



朔の後ろで震えるシャニが、泣きそうな声で答える。



  「ご、ごめんなさい……、兄様……」



  「そこか! 出てこい! シャニ!!」



震えながら前に出ようとするシャニを制し



  「お待ち下さい」



と、朔がナーサティヤに向かって言う。



  「? なんだ?」



  「許してあげては、くれませんか?」



  「お、お姉ちゃん……♪」



  「お前は何者だ!?」



  「私は梶原朔と申します」



  「朔……。フッ、そうか、サティ、彼女は有川の思われ人だ」



  「ゆ、譲殿…」



  「有川の……ああ、そうか。で、その梶原朔殿が、何故、シャニに味方するのだ?」



  「何故? だって、このような幼い子をあからさまに叱るのは大人げないのではありませんか」



  「大人げない…? そのシャニは、常世の第三皇子としての職務を放棄して…」



  「フ、ハハハ」



  「何を笑う、アシュ?」



  「さすがは有川が思いを寄せるだけのことはある。気に入ったな」



  「その、『思われ人』だとか『思いを寄せる』とか言うの止めてくれませんか?」



  「譲殿?」



  「聞いているだけで、俺の方が恥ずかしくなってくる」



  「どうして? 事実だろう、良いではないか」



  「そうだよ、譲く〜ん♪」



  「はぁ……」



  「それより、シャニ!」



  「サティ、そうやって眉間にしわを寄せて凄むから、ますます、有川の奥方を心配させることになるのだ」



  「お、奥方……そんな……どうしましょう、譲殿…」



  「アシュヴィンさん、分かっていてわざとやってるでしょ」



  「さぁ? 何のことかな?」



  「シャニ!」



  「だから…サティだって、ある程度は楽しみにして来たのだろう?」



  「な、何を言うか、アシュ! わ、私は…」



  「な〜〜んだ、兄様達もこっちの世界に興味があったんだ」



  「だからといって、勝手にこっちに来ることが許されるものでもないぞ」



  「アシュヴィン兄様…、ごめんなさい」



  「まぁ、いいさ。要は時空の戻り方次第だろうからな。リブ! いるんだろう。出てこいよ!」



厨房側の扉が開き、リブが入ってくる。



  「や、バレてましたか。アシュヴィン殿下もお人が悪い」



  「リ、リブ!? 風早にも黒麒麟にも乗っていなかったお前がどうしてここに??」



  「や、これはナーサティヤ様。

   ま、殿下がこちらの世界に来るという話を聞きつけましたので、急ぎ、黄泉比良坂を走って…」



  「黒麒麟すら不要とは、フハハハ、お前も存外、器用な奴だな、リブ」



  「ま、常世の皇子がお三方とも常世を離れてしまわれていらっしゃるのですよ。

   で、これは身辺を警護する者がおりませんと、と思いましてね」



  「お前が俺の警護だって? 物は言い様だな」



  「さ、もうこっちの世界を見たのだから、気が済んだろう。皆、帰るぞ!」



  「に、兄様!」



  「サティ! いい加減にしろよ、せっかちにも限度というものがあるぞ」



  「アシュ!?」



  「落ちついて考えてみろ、サティ。俺達があっちを離れた、その瞬間に戻ればいいだけの話だろう」



  「兄様♪」



  「その理屈でいけば、こっちの世界に何年いても差し障りはないということになるからな」



  「そんな、何年もなどと」



  「例えば、さ」



  「さ〜さ〜、立ち話もなんだからね〜♪ 譲君、こちらに座ってもらってよ。さ〜、どうぞ」



  「あ、兄です。梶原景時」



  「どうぞ、よろしく〜〜♪」



  「兄様、凄っっっっっごく甘い匂いがする!!」



  「まだ、開店準備中だから、こんな物しか急にはできないけど、どうぞ、召し上がれ〜〜♪」



  「有川、これは……?」



  「『ホットケーキ』です。上の白いのは生クリームです。で、このメープルシロップをかけて召し上がってください」



  「に、兄様!!! ク、クレープより甘い!!」



  「まぁ、メープルシロップですから」



  「シャニ、こっちの世界に来て良かったな」



  「言った通りだったでしょ、足往♪ お兄ちゃんの持ってきた粉が無くなってからは、作れなくなってたからね」



  「粉…? ああ、小麦粉と砂糖と……あと、粉って何かあったかな」



  「甘い方の粉が無くなった時は千尋が1日、半べそだったからな」



  「そうでしょうね。歴史的にあの時代はまだ、砂糖なんて無くて、米が一番甘いはずだから」



  「その後で、サザキ達を南方の島に行かせて、何やら竹のようなものを大量に採ってこさせたが……」



  「その竹、囓ると確かに甘いんだけどね、どうやっても白い粉にはならないんだよ」



  「サトウキビ…ですか。確かサトウキビは刈り取ったらすぐに精製しないと痛みやすくて、甘みの成分が減ってしまうんですよ」



  「ハハ、有川、本当にお前は、『使える』な」



  「はい〜〜、これもどうぞ」



と言って景時が差し出したのは、シャニと足往へ生クリームを少し絞ったアイスココア。



  「足往♪ これも甘くて美味しい」



  「ホントだ、シャニ。凄い凄い、ここはすっごく良いところだなぁ」



  「で、大人の人はこちらをどうぞ〜〜〜」



と置かれたものは、子供達のモノとはどう見ても色も匂いも違うものだった。



  「これ…は?」



  「や、これも飲み物……ですよね?」



  「ええ、そうです」



  「ほぉ…この季節に氷が入っているとは驚きだな」



  「当店自慢のスペシャルブレンドで作ったアイス珈琲だよ〜〜〜♪」



  「あ、景時さん、ちょっと豆のブレンドを変えましたね」



  「そ〜〜なんだよ〜!!!!! 分かる?譲君♪ ちょ〜〜っと自信作なんだよね〜〜〜♪

   アイス珈琲なら、絶対こっちのブレンドの方がいいんじゃないかなぁ〜〜ってね」



譲はそれを、何も加えずストレートで一口飲む。



  「うん、そうですね。こっちの方が香りが口に広がる」



  「でしょでしょ? やっぱり、こっちの方がいいよね〜♪」



その2人のやりとりを見ていたアシュヴィンとナーサティヤとリブは、譲と同じようにブラックのまま口に運ぶ



  「あ! ガムシロを」

  「あ! これを」



譲と風早が同時に言うが、



  「む………、苦いものだな」



  「サティ、俺は存外美味いと思うがな。リブ、どうだ?」



  「ま、好みなんでしょうけど……、や、ちょっと苦い…かな」



  「この器にあるガムシロップという甘味と、こちらのクリームとを、好みに合わせて入れることで、味を調整できるのです」



  「風早……。知っているなら、もう少し早くいってくれないか」



そう言いながら、すかさずガムシロップを全部自分のコップに注ぎ入れるナーサティヤであった。



  「すみませんね、ナーサティヤ。言おうとはしたのですが」



  「ああ、これならいける。美味い」



  「……まぁ甘みが最高のもてなし、という文化もあるくらいですからね」



  「や〜〜〜♪ 気に入ってくれたなら、嬉しいな〜〜」



  「兄上、喜び過ぎです」



  「朔、いいじゃないか。美味しいって言ってくれたんだから」



  「そうでしょうか? ちょっと褒められると、すぐその気になるのが兄上の悪い癖です」



  「嬉しいから、大人の人にはもう1品」



と出してきたのが、パンにハムとチーズと薄くスライスしたトマトを挿んで、ホットサンドメーカーで焼いたクロックムッシュだった。



  「これもまた、美味そうな香りがするのだな」



  「アシュヴィンさん、これはクロックムッシュという食べ物です」



  「くろっくむしゅ…。ああ、美味いな。リブ、食べてみろよ。どうだ?」



  「や、これは美味い」



  「有川だけでなく、この世界の者は皆、料理の才に長けているのだな」



  「や〜〜〜〜♪ 嬉しいな〜、めったに褒められたこと無いから〜〜〜♪

   そんなに風に言って貰えると、も〜〜〜嬉しくって、どうしよう♪♪」



  「兄上、世辞というものを、いい加減に理解してください!」



  「いやいや、正直に褒めているのだ」



  「さ、朔ぅ〜〜、どうしよう。この人達、ほんっとにいいひと達だね〜♪」



  「まったくもう…」



笑い声の中、譲はそっと厨房から隣の部屋に行き、自らの携帯を取り出す。



5回目のコール音がしても相手が出ないので、留守伝を残さずに切ろうとしたその瞬間



  「どうしました? 譲君」



と、電話の向こうから相手の声がした。



  「あ、弁慶さん。今、大丈夫ですか? 実は…」











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