遙かなる時空ときの彼方へ 3.5

     シャニと足往の大冒険! 10











   「…………、ハァァ〜〜……」


ハックルベリー島の砦・2階の一番隅に、物見ものみに見立てたベンチがある。
通路に背を向けて、1人の男が先程から辺りに暗いオーラを放っていた。


   「ママ〜、あのおじちゃん、何してるの〜?」


   「え? ! み、見ちゃいけません。行きますよ」






梶原景時は愛する妹から、きっかり15分御説教を喰らって、落ち込んでいるのだった。






   「朔ぅ、もう景時さんを許してあげなよ」


   「俺も先輩に賛成だ。景時さんだって来たかったんだろう?」


   「それは……、ええ。……望美、譲殿……。私も、分かってはいるんです。
    兄上の方が、私などより余程、ネィズミーリゾートここに来たかったはずだと」


   「だったら」


   「だからって……。作ったスイーツを、タダで配ってしまわれるなんて。あれ程お願いしたのに……」


   「それは、そう…だろうけど……」


   「譲殿とてそう思われるでしょう。
    そうですよ。あれだけの数のスイーツ、無料ただでは作れないんです。
    材料費にガス代、水道代、電気代、ああ……、作るだけでも単価が幾らかかっていると」


   「朔」


そう言って譲がアイスミルクティーを差し出した。


   「あ、……ありがとう…ございます」


   「景時さんは景時さんで、朔がネィズミーランドに行くのをずっと楽しみにしてた事は、知っていたんだろう?」


   「それは……分かっているのです。それは…」


   「それなら、今日は臨時休業にしても良かったのに、景時さん1人で、頑張ってくれたんじゃないか」


   「だからといって…」


   「臨時休業にして、今日作ったスイーツを明日販売したかい?」


   「保存料など使っていないのです。そのようなこと、絶対いたしません」


   「だったら、捨てる事になったんじゃないか」


   「え、…ええ…」


   「せっかく朔が作ったのに、そのスイーツを捨てる事、景時さんだって忍びなかったはずだ。
    そうかといって、今日売るってことは、店があるから、今日は朔はネィズミーここには来られない。
    でも、それじゃ朔が可哀想だって、景時さん、思ったのさ、きっと」


   「譲殿……そうかしら」


   「それって景時さんの優しさだろう」


   「……」


   「朔だって、景時さんだけ働いてるってのは、気がかりだったんじゃないか?」


   「…ええ、まぁ……いろいろな意味で……」


   「だったら、結果として、全部を来店されたお客様に食べてもらえたんだから、良かったじゃないか」


   「……そう、…そうね、譲殿」






   「お姉ちゃん、ホントにあの2人、置いてっちゃうの?」


   「いいの、いいの。さ、シャニ、足往も、行くよ」


   「景時、君もいい加減、そんな暗い顔は止めてくれませんか?」


   「ゴ、ゴメンよ〜……」


   「君だって、おおかた、こうなるという事は予想がついていたのではありませんか?」


   「ま、まぁ……ね……。アハハ…」


   「だったら、後は譲君に任せるとして。行きますよ」


   「……ぎょ、御意〜」


   「あの2人はいいとして」


   「なんですか? ナーサティヤさん」


   「他にも何人か足りないぞ」


   「え? …あ、風早さん!? それに、アシュヴィンさんも」


   「加えて、リブ殿もいらっしゃいませんね、やれやれ。
    3人が一緒かどうかも分かりませんが、アシュヴィン殿下がどちらかは、だいたい想像できますね」


そう言って弁慶は携帯を取りだした。










   「ま、やっと食べ終わりました。口の中が……」


   「癖になりそうな味だな」


   「や、私は水が無いと、とてもとても」


   「お前は水を取りすぎだ、リブ。
    風早は大丈夫そうだな。まぁ、こっちでの暮らしが長いから慣れているか」


   「ええ、千尋や那岐も、もう少し辛いのを好みますしね」


   「や、それはすごい。姫の味覚もたいしたものですな」


   「リブ、お前、褒めているのだろうな」


   「え? や、と、当然、当然」


   「まぁ、いい。と、それよりこの『携帯何とか』が妙に震えているのだが」


   「ああ、マナーモードのバイブですね」


   「『まなぁもぉどのばいぶ』? なんだ、それは?」


   「早く携帯それに出た方がいい。たぶん弁慶から何か連絡でしょうから」


   「ああ、『発信これ』を押すのだったな。
    アシュヴィンだ」


アシュヴィンはボタンを押したままの恰好で、
丁度バスガイドが持つハンドマイクのように携帯をつかんで話し出した。
そのアシュヴィンに、こう持つのだというように風早が態度ポーズで示した。


   「こうか? ああ、なるほど、こうして相手の声も聞くものなのだな」


   『…しもし?』


   「ああ、オレだ。弁慶だな」


   『ええ。ああ、……風早殿に礼を言っておいてください』


   「ほお、どうして風早が一緒だと分かるのだ?」


   『あなたが、かかってきた携帯に出られた、からですよ。
    携帯をそちらからかける方法は御教えしましたが、
    かかってきた携帯にどう出るかは、お伝えしていなかったものですから。
    僕としたことが』


   「存外、確信犯だったりしてな」


   『いやだな、何のことでしょう』


   「まぁ、いいさ。で、何か用か?」


   『ええ、これからここにいる者は全員、移動します』


   「ほぉ、どこへ?」


   『そうですね……申し訳ありませんが、風早殿に代わっていただけませんか?』


   「ああ、それが賢明だな
    移動するらしい」


そう言って笑いながらアシュヴィンは風早に携帯を手渡した。


   「や、殿下。何が『賢明』なのでしょうか?」


   「移動先を言われたところで、何のことかも皆目見当がつかんからな、オレやリブおまえでは」


   「あ、そうですな。で、風早殿に代われ、と」


   「そういうことだ」


アシュヴィンはコップの水を一口飲んでは、携帯を耳に当てた風早を眺め
麒麟かざはやに携帯など必要なのだろうか、とフッと思うのだった。


   「はい、風早です」
   「ええ。で?」
   「ああ、分かりました。シャニ達が喜ぶでしょうね」
   「ええ、では『空飛ぶ象ダンボ』で」


そう言って風早は携帯を切って、アシュヴィンに返した。
すかさずリブが風早に聞いた。


   「ま、その『だんぼ』とはどこでしょう」


   「大丈夫。すぐ近くですから。
    それより食器はトレーごと、あちらの返却口まで持っていくのが決まりですからね」


   「や、では私が」


   「食べた本人が片付けるのですよ」


   「フッ、那岐が時々言うことだが」


   「?」


   「『先生』だな、風早おまえ」










『空飛ぶ象』に到着すると、すでに不思議な形の灰色の生き物を模した乗り物がくるくると旋回していた。


   「兄さまぁ〜!」


その一体から、シャニの弾けるような嬉声が落ちてきた。


   「シャニ! まるで麒麟に乗っているようだな!」


   「はい! 飛んでる! 僕、飛んでまぁぁぁ」


言い終わらない内に、シャニを乗せた『空飛ぶ象』は向こう側へ消えていった。
どうやら、二人乗りの内側では、足往が小さくなって震えているようだった。
と、



   「アシュ! 遅いぞ!」


   「サティ! お前も乗ったのか」


   「ああ、いつもお前が黒麒麟に乗っている気分が」


オレが黒麒麟に乗っている気分が何だというのかは分からなかったが、
それほど悪い気分ではないのだろう、
あんなにはしゃいだサティの声は久しぶりだ……、いや、今日はずっと聞いているか。




   「アハハハ〜〜、ど、どうもぉ〜〜」


おいおい、有川の思い人の兄あのおとこもいつの間にか来ているのか。
その時、後ろから


   「かしたりはしなかったでしょうか?」


と弁慶の声がした。


   「ああ、ちょうど食い終わったのを見計らったかのようだった」


   「では、僕たちは食後のデザートといたしましょうか」


   「でざあと?」


   「や、何やらこれも美味そうな」


   「冷たい食べ物の店と、もう少し小腹に入れる店と、どちらが好みでしょう」


   「あの連中はいいのか?」


   「ええ、望美さんたちは、このあと『カルーセル』に乗ってから僕たちと合流するそうです」


   「かるうせる?」


   「あそこに見える『回転木馬』ですよ」


   「『かいてんもくば』……なるほど。
    では、冷たい食べ物の店と、もう少し小腹に入れる店に」


   「や、で、殿下……」
   「え? ……ま、まあそうおっしゃるのでしたら」


   「本当に君は健啖家ですね」










   「置いてきぼりはひどいわ」

   「そうですよ、先輩」


   「アハハハ、ごめんごめん。でも、ずっと二人で話してて、私達がいなくなってたの、
    ついさっきまで気づかなかったんでしょ」


   「そ、それは……」



   「だ、だからって、黙って移動するのは、慌てますよ」


   「アハハハハ」


   「まったく、都合が悪くなると笑って誤魔化すんだから」
   「そうそう、望美の悪い癖だわ」


   「はいはい、ごちそうさまです。
    じゃ、次、行くよ!」


   「望美!」
   「先輩!」


   「お姉ちゃん!」
   「次は何?」


瞳を輝かせて、シャニと足往が望美に尋ねた。


   「あの『回転木馬』!」


   「わぁ〜い!」


   「で、その次は」


   「その次は?」


   「アシュヴィンさん達も一緒に、みんなで『アリ


   「え!! 先輩! ダメです、それは!」


譲はたった今までの態度を急変させ、蒼い顔になって言った。


   「危険過ぎます!!」












12/03/04 UP

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