遙かなる時空ときの彼方へ 3.5

     シャニと足往の大冒険! 11











   「そんなに危険なのかい、譲君?」


   「譲殿がそんなに仰るからには」


   「『百聞は一見に如かず』。まずは見てからにして下さい。」


『空飛ぶ象』と『回転木馬』の間中、
望美達の話題は『アリスのマッド・ティーパーティー』は、危険かどうか、だった。


実際に乗ったことのある譲と望美の、かみ合わない会話に
不安を煽られるだけ煽られた景時・朔・シャニ・足往の四人は
とりあえず弁慶やアシュヴィン達と合流し、実際の『アリスのマッド・ティーパーティー』を見て決めようという事で
話を落ち着けた。










   「おいおい、ネィズミーリゾートここは安全な場所ではなかったのか!?」


   「まぁ、落ちつけサティ。龍の神子は妙にほくそ笑んでいたではないか。
    何か理由があるのだろうさ。なぁ、弁慶」


   「まぁ、あの望美さんの笑い方は、絶対によからぬ事をたくらんでいる時のものですね」


   「良からぬ事だと。龍の神子が良からぬ事をたくらむというのか?」


   「ええ、彼女は怖いひとですよ。フフフ」


   「有り得ん事だ。いや、あってはならんだろう、なぁ、アシュ」


   「サティは夢を見過ぎだ」


   「という事は、お前の」


   「ああ、千尋も結構、こわいぞ」


   「や、お伝えしますぞ。殿下」


   「ええ、聞き捨てならないですね」


   「やれやれ、俺が言いたいのは、龍の神子といえど普通の女だということだ。
    怒りも泣きも嫉妬もする。妙に祭り上げられては彼女たちも迷惑だろう、とな」


   「『怒りも泣きも嫉妬も』に妙な実感がこもっていたような気がしたのだが」


   「ま、かなりご苦労されているのですな、殿下」
   「心中、御察しいたします、アシュヴィン殿下」
   「自業自得なのではないですか、アシュヴィン」


   「おいおい……ああ、パンケーキ、とやらが来たようだ」


   「アシュ……」










そして緊張の面持ちで一行は『アリスのマッド・ティーパーティー』前に合流したのだった。


   「な、何が危険だというのだ?」


くるくるとのどかに回るティーカップの群れを見て、一同呆気にとられて譲を見つめた。


   「ね、言った通りでしょう」


   「それにしては、有川の狼狽え方は尋常ではなかった」


   「あんなお兄ちゃん、龍との戦いでも一度も見たことなかったもん」


   「わ、私も知りたいわ、譲殿」


   「朔まで……」


   「譲君の取り越し苦労だって」


   「じゃあ、先輩。この前みたいに無茶苦茶回さないって約束してください」


   「え、そ、それは……ねぇ」


   「回す? 何を回したの?」


   「コーヒーカップに乗ったら、それ以外のどんな楽しみがあるっていうの?」


   「コーヒーカップに、乗る? どういうことなの? 望美? 譲殿?」


   「先輩、正しくはティーカップです。朔、良く見てごらん。あの乗り物を。」


   「え? あ」


   「気が付いたかい。あれはティーカップを真似して大きく作って、人が乗れるようにしたものなんだ」


   「と、とにかく、早く並びましょう」


   「あ、望美……。行ってしまったわ」


   「先輩……。仕方ない人だな、まったく。
    朔、大丈夫。君のことは俺がちゃんと守るから」


   「ま、守る……? やはり、それほど危険なものなの?」


   「何と言ったらいいのかなぁ。小さな子供でも乗れる、安全な乗り物なんだけど」


   「けど?」


   「先輩が乗ると、面白がって回し過ぎるんだ」


   「回し過ぎる? どういう事なの?」


   「まあ、見ていれば分かるよ」


   「そ、そういうものなの?」


   「朔、君は俺と一緒のカップに乗るんだ。いいね。決して俺から離れないでいてくれ。」


本当だったら顔が真っ赤になるような譲の言葉なのだが、いつにない真剣な譲の表情に、


   「わ、分かったわ」


と朔も緊張した面持ちで相槌を打つだけだった。










   「朔ぅ、一緒に乗ろう」


   「望美」


   「ダメですよ、先輩。ここは4人乗りなんです」


   「え、だったら譲k……」


譲に促されて後ろを振り返ると
そこにはしっかりと手を握り合ったシャニと足往の姿があった。


   「……、分かった分かった。じゃぁ、一緒に乗ろうね」


   「わぁ〜い!」
   「やったね、シャニ」


   「子供だけでは。保護者が必要でしょうから」


   「え!? 風早」






   「こっちは大の男が4人……か。色気の無い」


   「アシュ、良いではないか。危険なのなら離れない方がいい」


   「ま、そういうこと、ですな」


   「僕もお供させてくださいね」


   「弁慶」






   「ゴ、ゴメンよ〜。やっぱり、お邪魔だから、オレ、下で待ってるから〜」


   「いいではないですか、兄上。一緒に乗りましょう。ねぇ、譲殿」


   「え、…ええ、そうですよ景時さん。妙な遠慮はやめてください」


   「気が利かなくって、ゴメンね〜」






ゴトン
軽いショックがあって、『アリスのマッド・ティーパーティー』が動き出した。


   「? 分からん」


   「ま、これのどこが、血相を変える程の危険なんでしょうね」


   「ええ、僕もこれに乗るのは初めてで。不勉強で申し訳ありませんが、分かりませんね」


   「フ、なるほどな」


   「アシュ?」
   「や、殿下?」


   「何かお分かりですか?」


   「ああ、あれを見てみろ」


   「あれ?」
   「え?」


そこには、動き出してまだまだないというのに、明らかに他のカップとは異なった
異常な回転をしているカップが見えた。


   「あれは?」


   「弁慶言うところの『のぞみさん』の乗った奴だ」


   「何という事だ」


   「どうやら、こいつ自体が危険なのではなく、こいつへの乗り方にあるようだな」


そう言い終わらない内にアシュヴィンは、カップの中心にある銀色の円盤を握ると、
望美のように、乗っているカップを回し始めた。






   「あ、兄上、何を!」


   「景時さん! どうして、それを!?」


   「え〜、望美ちゃんがね〜 動き出したら、こうするもんだって、さっき並んでる時にね〜」


   「せ、先輩! さ、朔、大丈夫か…! 朔ぅ??」


   「こうするのですね、兄上。御助力いたします」


   「御助力って、朔?」


   「そうそう、すっごいねぇ〜。お兄ちゃんも、も〜っと頑張っちゃうからね〜」


   「か、景時さん、もうそのくらいで」


   「譲殿も回してください。アハハ、兄上、もっとです!」


   「朔、大丈夫なのか」


回転が速まるにつれ、譲の顔を曇っていく。


   「さ、朔ぅ。景時さぁん!」


   「兄上、もっとです! まだまだ望美達のカップの方が速いようだわ」


   「御意ぃ〜、そ〜〜れっ! とね〜」


この時、譲は『朔も龍神の神子だった』ということを、思い出したのだった。












12/12/30 UP

NEXT→