遙かなる時空の彼方へ 3.5
シャニと足往の大冒険! 5
弁慶のミニバンと、その後ろから風早の運転するdragon noirのロゴの入ったボルボのステーション・ワゴンが
ネィズミー・リゾートの駐車場に滑り込んだ。
出発前に弁慶から渡されたチケットを使ってゲートを通過した一行は、
ワールドショッピングモール前の広場に集まった。
「さて、ではお渡しした現金は各自、紛失さないようにしてくださいね、くれぐれも。使い方は…」
「言われた通り、説明は一通りしました」
「ええ、譲殿の説明は分かりやすいものでした」
「朔の捕捉説明こそ助かったよ。こっちの世界の人間には気づかない事ばかりで、俺も勉強になった」
「譲殿」
「そちらの車は?」
「私がしておいたから、大丈夫。バッチリよね」
「『ばっちり』って何だ?」
「いいか、こっちの世界の大人といつも一緒にいるんだぞ」
「譲君、それって私の説明に不安を感じてるの?」
「え? や、やだなぁ、ハハハ、な、何を言ってるんですか、先輩。違いますよ。
子供達に何かあっても困るじゃないですか。だから……、な、朔」
「え? ええ、そ、そうね」
「それより急ぎましょう。開園からもう1時間は経ってますから。
じゃぁ、さっき言ったとおり朔は、先輩とみんなを連れて先に並んでいてくれ」
「望美は『カリブ海の海賊』の場所は知っているの?」
「うん、まかせて。じゃ、譲君、今日は時計回りだね」
「そうなりますね。じゃあ、すみませんが皆さん、チケットを俺に渡してください」
と譲は皆のチケットを集めて、
「ファストパスを全員分取って来ますから」
そう言って譲は走り去った。
「では、僕もちょっと失礼しますね。巧くいけば『カリブ海』に間に合うかもしれませんので」
と弁慶は譲の走り去ったのとは反対の方向に歩き去った。
「あの2人は何処にいったのだ?」
「え〜と、とにかく説明は歩きながらでいいですか?」
「ああ、かまわない」
「では皆さん移動しますので、迷子にならないようにちゃんと付いてきてくださいね」
望美はそう言い終わると、かなり早足で歩き始めた。
常世の住人全員が集合したような人混みに驚き、此処が何処で何をする所なのかも分からず
人混みにかき消えそうになる望美の後ろ姿を見失わないように必死に歩く一行だった。
望美に追いついたナーサティアが尋ねる。
「あの2人は何処に行ったのだ?」
「ナーサティアさん。えっと譲君はアトラクションのファストパスを取りに行きました。
弁慶さんは、ちょっと分かりません。でも多分、食事の予約じゃないかと思います」
「『あとらくそんのはすとぱす』? 何だそれは??」
「え〜〜っと……、乗り物の予約……です」
「乗り物? 今まで乗って此処まで来たではないか。また、どこかに移動するのか?」
「え〜〜と、その説明はつまり、『アトラクション』が何かって事ですよね」
「ああ、そうなるな」
「『アトラクション』……ですか…??」
「我々の世界にも、子供達に寝物語で聞かせる御伽話や神代の話といった類のものはあるでしょう」
「? 風早、それが『アトラクション』とどのような関係があるというのだ?」
「ですから、こちらの世界のそういった様々なお話の世界を回遊式に廻って、
大人も子供もそうしたお話の追体験ができるように造られた施設が『アトラクション』だと考えて下さい」
「この、広大な建物すべてが!?」
「ええ、そうです」
「ほお、『御伽話』の世界を……。存外、暇なのだな」
「アシュヴィン、それを言うなら『平和な』とするべきですね」
「フ、だからこの世界に那岐と二の姫を長年隠していたのか」
「ええ、そうですね。ああ、春日さん、余計な口出ししてしまいましたね」
「いえ、助かりました。さすがは高校の先生ですね」
「しかしそうなると、我々はこちらの世界の話を何一つ知らぬのだから、さっぱり理解不能で楽しめぬ、
ということではないのか?」
「それは…」
「大丈夫です」
「ほお、こちらの世界の龍の神子がそこまで言い切るからには、どのような理由だ?」
「この『アトラクション』は、それこそ言葉がまだ分からないようなこんな小さな子でも、
異国の人でネィズミーの話を知らない人や、言葉が通じ無い人でも楽しめるように出来ていますから」
「ほう、それを聞いて安心した」
「サティ」
「ん? 何だ、アシュ」
「遊ぶ気満々だったのだな」
「い、いや、そのような事は…」
「私も少し安心したわ」
「朔?」
「兄上が良く見ている『るぶぶ』や『じゃりん』に、ここの事が良く掲載されているけれど、
姫君や皇子のお話を、私はあまり知らないものだから」
「そうね、やっぱり知らないよりは、知っていた方がもっと楽しめるだろうな……
そうだ! じゃあ、どうせすっごく並んで待つことになると思うので、その間
私で良ければそのお話を御説明しましょうか?」
「ホント! お姉ちゃんが話してくれるの?」
「シャニ、良かったね」
「と、言っている間に着きました!」
「ここは?」
「『カリブ海の海賊』です。わぁ、ラッキー。待ち時間45分で乗れるんだ」
「え? この長蛇の列はすべて順を待っている者達なのか!?」
「やはり存外、暇なのだな」
「そのような列に加わらずとも、我らは常世の皇子なのだぞ!」
「サティ」
「なぜ止める! アシュ」
「ここは俺達の世界ではない。『郷に入らば郷に従え』と言うではないか。
本当にせっかちだな。エイカの苦労が忍ばれる」
「ま、アシュヴィン殿下のことですから、我らの世界でも笑ってお並びになられるでしょう」
「リブ、俺を買いかぶるなよ」
「や、そのようなことは」
「では、ここからはこのロープに沿って、2列で並んでくださいね」
「お姉ちゃん、早くお話を始めて!」
「はいはい、では、コホン。『昔々、カリブ海には多くの海賊がいました』」
「サザキ達みたいな?」
「足往、静かに。それにお姉ちゃんはサザキに会ったことがないんだよ」
「『海賊は街を襲ってはお金や宝石を奪い、逆らう者達は女子供でも殺し、火を放ち』」
「レバンタみたいな奴だね」
「足往、し〜〜!」
「『奪った金銀財宝を、死の島コスタ・デ・ムエルタの洞窟に隠したのでした』」
「やりたい放題だな。軍隊、というものはないのか?」
「勿論ありますよ。『イギリスという国の海軍が街の人を助けるために、海賊と戦います。
海賊船とイギリス海軍の軍艦との海戦も』」
「海戦?」
「海でどうやって戦うのだ?」
「そ、それは船に積んである大砲を撃ち合って」
「『たいほう』? なんだ、それは?」
「兄様達、うるさい! ちっともお話が進まないじゃない!」
「あ、ああ。すまん」
「お姉ちゃん、続きを話して」
「『その海賊の中に1人、変わった海賊がいました。名前をジャック… 』」
【お待たせしました。お次のグループは何名様ですか?】
「10人で〜す!」
「譲殿、これで汗を」
「ああ、朔、すまない」
「ギリギリだったな」
「ええ、建物の中に入られたらアウトだと思ってましたから」
「順番待ちの仲間に合流出来るのは外から見えるところでだよね」
「それでどうだったの?」
「16:45からの『バズ・ダークイヤー』が取れました」
「良く取れたね」
「望美、譲殿、今予約して午後4時45分! そういうものなの」
【ボートが参ります。係員の指示があるまでお待ち下さい】
「そだよ。って言うより夏休みの日曜日の午前9時を過ぎてて、
良くファストパス取れたと思うよ」
「なんか今日は奇跡的に空いてますね。『カリブ』も45分待ちだし」
「そ、そうなの」
「以前譲君のお母さんに連れてきて貰った時なんて、『カリブ』90分待ちで諦めたもんね」
「あの時は最悪でしたね。1日回ってアトラクションたいして乗れなかったし」
【係員の指示に従って、順番に御乗船下さい。貴重品は 】
「あ、シャニと足往を先頭にしてあげてください」
「え! に、兄様達の後ろでいいよ。な、足往」
「うん」
「怖いのか?」
「ち、違うよ!」
「まあアシュ、良いではないか」
「サティ、本当に……、ま、いいか」
「では、先頭で」
「ああ、異存はない」
【出航いたします。御無事での御帰還を】
「今、係員という奴、不穏な事を言わなかったか?」
「ああ、確か『御無事での御帰還を』と」
「この『あとらくそん』というのは、それほど危険なものなのか」
「や、この船、漕ぎ手もいないのに動き始めました」
「落ち着いてください! 子供の楽しむ場所ですから、危険なことは何一つありません」
その時だった
【ワァハッハッハッハ! お前達か、冒険を望んだという愚か者は。
命と引き替えでもいいだと!! ワッハッハッハッ! 覚悟はできているんだろうな!】
そう言う声と、何やら水が勢いよく落ちる轟音が聞こえてきた。
「ああ、今頃は何に乗ってるんだろうな〜〜〜
時計回りなら『カリブ』か『ジャングル』、反対回りなら……
望美ちゃんのことだから『スペース』かな〜〜」
「すみませ〜ん! アイス珈琲3つ、まだですかぁ?」
「あ、はいは〜〜い、今お持ちします〜〜〜!
あ、いらっしゃ〜〜い。テラス席は満席なんで、カウンターでいいかな〜〜?
ハア、今日に限って大入り満員だよ〜〜、朔ぅ〜〜!」
09/09/07 UP