遙かなる時空ときの彼方へ 3.5

     シャニと足往の大冒険! 7











  「うわぁっと! 今度は左か!! みんな、伏せて!」



船長の芝居がかった、それでも頑張っている感いっぱいの演技に

『ジャングル・クルージング』を何度か経験している客は笑いながら、

今日の船のノリの良さとキャプテンの頑張りに精一杯合わせて、大げさに首を屈める。



『ジャングル・クルージング』初体験の客、

その中でも常世の人々はそれこそ本気で船の床に身を低くして不測の事態に対応できるように身構え、

船長の必死に操舵する頼もしい後ろ姿と、

その先の水面に飛沫をあげながら、突如として現れては消える大きな黒い物体とを、

右に左にとめまぐるしく揺れる船内から見つめていた。



と、船長はその操舵の合間に出発時に確認していた『拳銃』をホルスターから抜き放った。

  「あ!! 危なぁいぃ!!!!」

   パン!

その拳銃が乾いた音を発すると、

しかし、それだけでシャニと足往はビックリして床にひれ伏した。

ひれ伏した足往のお尻から緊張したようにピクピク動く尻尾が見える。

そのことに気づいた望美が、素早く2人を庇うように覆い被さり

  「2人共、大丈夫だからね!」

と、子供達を気丈に庇う女性の役を演じた。



更に船は激しく旋回し、

  パン! パン!

と破裂音がした。

シャニと足往は、もう何が何だか分からず、望美の身体にしがみついた。



静寂。



ボートのエンジン音しか聞こえなくなった。



ややあって



  「お騒がせしました。みなさん、もう大丈夫です!!」



船内から拍手が沸き起こる。



  「な、何だったんだぁ??」



  「この時期、この辺りのカバは気が荒くなっているんです」



  (先輩、ナイスなカバーリングでした)



  (そういう譲君と朔だって)



譲と朔は、ナーサティアが炎を発しようとして振り上げた手を2人がかりで押さえつけていたのだった。



  「それなら弁慶さんにも言ってあげてください」



  「弁慶さん?」



弁慶は少し離れた船の床で、これまた雷を発しようとしたアシュヴィンを押さえていたのだった。



  「お願いですから学習してくださいね、2人とも! ネィズミーリゾートは安全なところですから」



  「こんなことがあったんだ。そう簡単には信じられん!」



  「ナーサティアさん……」



ネィズミーリゾートを危険にさらしているのは、あなた方2人だ!

そう叫びたい衝動に譲は駆られた。











  「左手に見える、ちょっぴりメタボな彼は、ジャングルのセールスマンです。

   ああ見えて結構やり手で、仕事には厳しいんですよ」



  「シャニ! あの人の手に持ってるの!」



  「!!! な! 生首だ!!」



  「そう、生首ですよ! 昨日も取引に失敗した部下を2人『首』にしたんです」



  「な、なんと、まるで………。未開の世界も厳しいものだな、アシュ」



  「サティー ああ、まるで……いや、なんでもない」


「まるであのラージャのような厳しさだ」……そう言葉には出せない2人であった。











  「さぁ、みなさん。ここから先は、音を立てないで下さい。

   船のエンジンも止めて、川の流れだけで進んでいきます」



そうキャプテンは言い終わると、エンジンを停止させ、辺りは急に静寂に包まれる。

時折、聞いたことのない、しかし明らかに鳥や獣の鳴き声だと分かる声がするだけ。

本当に、何か危険な事が起こりそうな気配さえ感じられる気がして、船に緊張が走る。



  「この先には、文明を拒み続ける部族が暮らしています。もし彼らに、我々の船が気づかれたら…」



  「き、気づかれたら、どうなるんだろう?」



  「矢の雨が降ってきます。この船の布製の屋根では保ちません」



  「つまり?」



  「我々全員、殺されてしまうかもしれないのです」



  「大丈夫、兄様達がきっとやっつけてくれるさ」



  「そうだね、シャニ。僕も戦うよ」



  「素晴らしい勇気だ!」



  「キャプテン」



  「あちらのお兄さん達も強いんだね」



  「決まってるじゃない! 知らないの」



  「そうか…。

   でも、1番肝心なことは無駄に争うことじゃない。

   静かに音を立てないで通り過ぎれば、向こうだって争いは仕掛けてこないさ」



  「そうか、そうだね」



  「分かってくれてありがとうぅ!」



その時だった

  「うわぁ! 気づかれた!! みんな姿勢を低くして!!! 弓矢を避けて!!」



キャプテンの言われるままに、またしても船内の客は身を屈めた。



  「ピシュン! ピシュン! ピシュン! ピシュン! ピシュン! ピシュン!」



必死な様子を演技しながら、船長はマイクに向かって矢の降り注ぐ擬音を自らの口で発している。

そんな船長の努力を無にするように、



  「どこからも矢は射かけられてなd」

と呆れたような声で、のんびりと椅子に座って辺りを見渡しているナーサティアに

望美はいきなり首根っこを掴んでひれ伏させ、ささやく


  (し! サティさん ここは弓矢で襲われたっていう体を想像してして下さい!)



  「そ、想像!?」



  (そうです! 想像して、ワクワクドキドキするものなんです!)



  「い、いや、実際、数百の矢を射られた事があったが、決してワクワクなどは」



  (私も経験あるから分かりますけど!)



  「あるのか! そんな経験が!?」



  (それはどうでもいいんです!)



  「どうでもいい事か? 軽く言ってくれる」



  (それよりも! いいですか! ネィズミーリゾートここはそういうところなんです!)



  「わ、分かった分かった。

   ……しかし、あれはしてはならん、これはしてはならんと、面倒な事、甚だしい」



  (はい!? 何か言いました!!!)



  「い、いや、何も……。おいアシュ」



  「ん?」



  「龍の神子とは、こうも気が強いモノなのか?」



  「ハハハ、存外、いい女だろう」



  「俺は願い下げだ。ただ」



  「ただ?」



  「普段のお前の苦労が分かったぞ」



  「おいおいサティ。千尋はこんなものではすまないぞ」



  「……」



  「あいつは『怒る』だけでないぞ。『泣く』と『泣きながら怒る』という合わせ技もある。

   更には『笑顔で激怒する』という恐ろしい技も習得しているから、やっかいだ」



  「女の子なら誰でもできますよ。朔の得意技だよね」



  「の、望美!」



  「やはりな。いい女は、存外、恐ろしいものだ」



  「やれやれ、そんな女と一緒にいるお前の気が知れぬ」



  「サティにも分かる日が来るさ」



  「結構だ。分かりたくもない」



  「ハハハ」











  「さあ、みなさん、いよいよこのジャングルクルージングで

   最も危険な場所へと船は進んで来ました」



  「え! カバに襲われるのよりも!?」



  「数百の矢を射かけられるのよりも!!?」



  「シャニィィ!」

  「足往ぃぃ!」



恐怖にかられ、ヒシと抱き合う2人。



  「最も危険な場所……。それは、………そう、文明社会。

   ほら、文明社会の原住民が、手を振って皆さんを出迎えてくれています。

   さぁ、皆さんも元気に手を振りかえしてあげましょうね!」



『文明社会の原住民』、それはこのクルージングの順番を待つ人々の列であった。



  「はい! 今日はネィズミーランド、ジャングルクルージングに御乗船頂き、ありがとうございました!!

   それと、え〜〜、これはマニュアルにはありませんが、

   本当に今日は、御乗船頂いた皆様のノリの良さに助けられ、この航海を楽しく務めることができました。

   もう数え切れないくらい当クルージングのキャプテンとして乗船させて頂いておりますが、

   本当に、本当に今日のこの航海ほど楽しく、この船のキャプテンでいることに幸せに感じたことはありません!



   では、名残は尽きませんが、お別れです!

   本当にありがとうございました!!

   そしてまた何時の日か、このジャングルクルージングでまた再びお会いしましょう!!」



突然、望美が叫ぶ



  「キャプテンに拍手!!!」



その後、港までの間、拍手とキャプテン・トミー・コールは終わることなく続いた。











  「ああ、面白かった」



  「先輩、今日は一段とノッてましたね」



  「だって折角なんだから、気分出して楽しまなけりゃつまらないよ」



  「望美」



  「何? 朔」



  「何となく、ここでの楽しみ方が分かってきたわ。

   大切なのは想像を膨らませて、感情移入をして、自分から参加することなのね」



  「そうそう」



  「止めてください、先輩! 朔、この人は特別だから」



  「大丈夫、譲殿。まかせて! 私、頑張るわ!!」



  「頑張る方向が、かなり違うような……」











  「この音は何?」



  「え? 音? ああ、本当だ。シンデレラのお城の方から聞こえるけど」



入場時に渡されたパンフレットには毎日12:00からシンデレラのお城前特設ステージで、

ネィズミッチーとネィズミニーのダンスショウが開催されると記載されていた。



  「ダンスショウ?」



  「みんなで踊るのですよ」



  「踊り! 足往、見に行こう!」



駆け出すシャニと足往、その後から望美が追いかけて叫ぶ。



  「こらぁ! 大人と一緒にいないと迷子になっちゃうでしょ!!」







  「だいたい時間は僕の考えた通りですね。よかった。

   あと30分後に、この近くのレストランを予約してありますから」



  「弁慶さん」



  「はい?」



  「朝からずっと聞こうと思っていたことが幾つかあるんですが」



  「なんでしょう、譲君?」


  「弁慶さん、ネィズミーリゾートここに来るの、始めてじゃないですよね。誰と来たことがあるんですか?」



  「フフフ……、それは御想像におまかせします」











  「は〜〜い、アイスカフェオレ3つとティーフロート1つ、お待ち遠様ぁ〜〜♪

   ところで君達、今日は鎌倉観光なの〜〜? じゃぁね、ケーキ、サービスしちゃおうかな〜〜。

   大丈夫大丈夫ぅ〜、お金は頂きませ〜〜ん。ケーキ、残りあとちょっとなんだよね〜〜。アハハ〜

   え〜〜? 商売っ気が無さ過ぎるってぇ〜〜?」



皿に盛られたケーキを見て喜ぶ客達に向かって



  「さ〜〜、どうぞ、御賞味あれぃ〜! ってね♪

   みんなで分けて、食べてみてよ〜〜、当店自慢のミルフィーユとレアチーズケーキィ〜。

   え? ケーキ代? サービス、サービス〜ってね、本当に本当〜!

   その代わり気に入ってくれたらさ、君達の学校で話題にしてよ〜。

   かっこいいマスターがやってる、珈琲とケーキの美味しい店を鎌倉でみつけた〜〜ってさ。

   七里ヶ浜・cafe‐restaurant du dragon noir、よろしくぅ〜!!

   え? 『かっこいいマスター』以外は言ってもいいって? ぎょ、御意ぃ〜〜

   トホホ…… もう! 泣いちゃうよ〜〜」











09/10/05 UP

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