遙かなる時空ときの彼方へ 3.5

     シャニと足往の大冒険! 8











巨大なスピーカーから陽気な音楽が、耳を劈く大音量で発せられる。

お城前の特設ステージでは、このパークのメインキャラ、ネィズミッチーとネィズミニーが、

愉快な仲間達とカーニバル・ダンスチームを従えて、踊っている。

そのステージ前の広場では、飛び入り参加自由のダンスフロアをなっているのだが、

始まったばかりのこともあり、さすがに疎らで、

ダンスチームの誘いにも、皆、恥ずかしがって遠慮がちに顔を見合わせている。







そんな中、シャニと足往を両手につないでいた朔が



   「私が参加してもいいのかしら?」



そう望美に尋ねた。



   「うん、もちろんだよ。参加自由だから」



   「ああ、でもやはり気後れしてしまうところがあるわ」



   「じゃあ、みんな一緒に参加すればいいよ」



   「みんな?」



   「そ。シャニ、足往、いっしょに踊ろ」



   「え〜! お姉ちゃん、無理無理、おいら踊れないよ」



   「大丈夫大丈夫、踊ろうなんて思わずに、ほら、こうしてリズムに身を任せて、身体を音楽に預けちゃうと」



   「預ける?」



   「そ、こうして イチ、ニ、イチ、ニ! イチ、ニ、イチ、ニ!」



   「何となく分かった! さあ、足往、一緒にほら! イチ、ニ、イチ、ニ!」



   「そうそう、アハハ、シャニ、上手よ」



   「いち、に、いち、に…、なんか楽しくなってきた」



   「だろう、足往。ほら、イチ、ニ、イチ、ニ、くるっと回ってイチ、ニ!」



   「アハハ足往、上手上手!」



    ところで朔は? 



望美はそう思って辺りを見渡すと、どこから取り出したのか、舞扇を手にした朔が

得意な舞を、ビートの利いたネィズミーミュージックにあわせて激しく舞っていたのだった。

妙なミスマッチ? 舞とダンスのコラボ? それでも舞って(踊って?)いる朔は楽しそうだった。 



   「朔……」



   「望美! 一緒に!」



   「そだね。じゃあ!」



そういって望美も舞扇を取り出した。



   「それは! まだ、持っていてくれたの?」



   「当然! 朔に始めて舞を習った時に、朔からもらった大切な扇だもの」



   「望美…」



二人の舞が、華やかに激しくそして楽しく、観る者達を踊りへと誘った。



   「踊ろうか…」



誰からと無く言い出し、徐々に踊りの輪が広がり、膨らみ、特設ステージ前の広場は数千の人々の踊りの渦となった。







その時だった



   「きゃぁ〜〜! あの子のシッポ、かわいい〜〜」



   「すっご〜〜い、あのシッポ、動いてるよ〜〜」



   「きゃ〜、耳! 耳見て、耳見て! リアル〜!」



   「! ま、まずい!」



そう思った望美だったが、踊り狂う人垣に阻まれて、すぐそこなのになかなか近づけない。

その間にも足往は、修学旅行と思しき制服姿の女子高生の一団に囲まれていた。



   「ねえねえ、この耳、どこのショップに売ってるの?」



   「『しょっぷ』って何だ?」



   「こっちのシッポは?」



   「動いてるみたい」



   「動いてるよ、これ! ねぇ、どうやって動かすの?」



   「シッポ、引っ張んな!」



やっとのことで足往と女子高生軍団の間に分け入った望美は



   「足往、探したよ!」



   「あ、お姉ちゃん」



女子高生軍団など目に入らない事にして、望美は足往の手を引いて歩き出す。



   「お姉ちゃん、どこに行くの?」



   「いいから」







広場の喧騒から少し離れた所まで、走るように足往の手を引いてきた望美は

用心深く辺りの気配を探り、追いかけてくる者のいないことを確認すると、やっと大きく息をついて言った。



   「帽子、取っちゃったんだ」



   「暑いし、すぐずるずるって落っこちるから……。ゴメンナサイ……」



   「謝らなくていいよ、別に悪いことしたわけじゃないから。

    今度『どこで買ったの』って聞かれたら、『知りあいの人からもらった』ってそれだけ言って、あとは逃げちゃえ」



   「うん、分かった」



   「さてと、みんなとはぐれちゃったね」



そう言いながら視線を特設広場に移すと、そこには



   「朔…! シャニとリブさんも…」



どうやってステージに登ったのかは分からないが、

ネィズミッチーと肩を組んで踊るリブ、ネィズミニーと手を繋ぎステップを踏むシャニ

そしてステージ中央でカーニバル・ダンスチームを従えて華麗な舞を舞う朔の姿が見えた。



   「あ〜〜あ、朔、はじけちゃって」











   「やっと汗が止まったわ」



   「朔、大丈夫?」



   「ええ平気よ、望美」


   「弁慶さんに頼まれてレストランここの様子を見てから広場に戻ったら、

    朔がステージでダンスチーム従えて踊ってるだろう。

    一瞬、眼を疑ったよ」



   「譲殿……」



   「あ、いや、そ、その…………」



   「あの…ゆ、譲殿? ……ごめんなさい」



   「べ、別に……そ、そんな…謝ることなんて」



   「フッ。有川は、そんなお前を見て『惚れ直した』と言いたいのさ」



   「ア、アシュヴィンさん! そそそそんな」



   「フフフ、どうやら、図星のようですね」



   「べ、弁慶殿まで!」



   「ほぉ、存外、照れ屋の2人なのだな」



   「照れてなどおりません」



   「アシュヴィンさん、ナイス!」



   「『ないす』?」



   「望美! もう! 譲殿も何とか言ってください」



   「あ、いや、その……うん」



   「はいはい、御馳走様です。でも、食事はこれからですからね」



   「先輩!」



   「ところで弁慶さん」



   「はい? 何でしょう、望美さん」



   「鎌倉を出る前にも聞きましたけど、弁慶さんって、

    ネィズミーランドに来るのって初めてじゃないですよね」



   「ええ、芸能界で仕事をさせていただいていると、自然と来る機会は多くなりますね。

    でも、どうしてです?」



   「何かはぐらかされたような気もするけど……」



   「どうしてですか?」



   「いえ、こちらの話です。でも、だから、なんですね」



   「はい?」



   「ね、譲君」



   「ええ、『ブルース・フットのゴールデン・カウボーイショウのランチ』を、入場直後に予約に行くなんて、

    手慣れてるなと思ったんです。俺、昼飯までは頭が回らなかったから」



   「私も」



   「お褒めいただいたのだと思ってもよろしいのでしょうね」



   「ええ、すごいな〜〜って」



   「その上、あの時間に入場したのに、こんな良い席が取れるなんて、信じられないですよ」



   「そう御2人が思ってくれるのなら嬉しいな。

    僕の仕事の経験が、この世界の望美さんや譲君をも驚かせるくらいに、お役に立てたのですからね。

    実は、この『カウボーイショウ』の責任者とは、ちょっとした知りあいなんですよ」



   「『ちょっとした』……ですか」



   「ええ」



   「『ちょっとした』……」


弁慶の黒いいつもの笑いを見た望美は、これ以上この話題を続けることは止めた。



   「でも弁慶さん、先輩や俺以上に驚いてる人達がいっぱいいるみたいですよ」



   「ええ、そうみたいですね」



彼らの会話などいっこうに耳に入らず、目の前のテーブルに出される食事と

すぐ目の前のステージで繰り広げられるレビューやショーを、見たり聞いたり食べたりで忙しそうだった。



   「あのパンパン音のするモノは何だ?」



   「え? ああ、ピストルのこと? 足往?」



   「ぴすとる? なんであんなに大きくパンパン音がするんだ?」



   「え〜〜と…」



   「兄様、この銀色のモノで食べなきゃダメなの?」



   「ああ、面倒だな。手掴みでは駄目なのか?」



   「シャニ、ナーサティア、止めてくださいね。

    こちらの世界にはこちらの世界の食事のきまりがあるんですから」



   「風早……、面倒なことだ」



   「ほお、サティ、存外この世界が気に入ったのだな」



   「何? いや、別に気に入ったとは思w」



   「面倒でも『さっさと帰ろう』と言わなくなった」



   「そ! それは…」



   「ま、この鶏肉は今まで食べたことが無い味付けですな。や、この飲み物は、また美味な」



   「リブさんは食べることに夢中ですね」



   「シャニ、スープをこぼしてますよ。

    足往、口を閉じて咬みなさい。

    ナーサティア、さっき言ったばかりでしょう! 手掴みは止めて下さい。

    ああ、もう少しこちらの世界のマナーを教えてから連れてくるべきでした」



   「風早さん、本当に学校の先生なんですね」



   「いや、学校の先生と言うより、もはや保父さんですよ、風早さんは」











   「はい、お釣りね〜〜。それとこれ、お土産にケーキだよ〜

    あ、実は1つだけ残っちゃったんだ〜〜。

    だからサービスだよ〜、お金はいらないからね〜〜。

    今日はこのあと一旦ホテルに戻るんでしょ〜〜。

    ゴメンゴメン、さっき、そんなこと話してたからさ〜。

    ホテルの冷蔵庫に入れとけば今晩までくらいなら十分保つからね〜〜。


    どういたしまして〜〜。

    どうも〜ありがとうございました〜〜〜! また来てね〜〜。



    ……さてと、閉店閉店〜〜っと。パッパァ〜〜とお店閉めて〜〜〜♪

    この調子なら1時ころまでには〜〜」











09/10/18 UP

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