遙かなる時空ときの彼方へ 3.5

     シャニと足往の大冒険! 9











食事の時間も大騒ぎだった。
各テーブルを廻ってくるネィズミーのキャラクター達に最初は戸惑っていた常世の面々だったが、
慣れて来るに従って、
カウボーイ姿のグーファーと一緒に決めポーズをとったり、
西部劇に登場するレディー姿のネィズミニーをエスコートしたり、
保安官姿のネィズミッチーと一緒に写真に収まったり、と大忙しだった。


弁慶がレジを済ませて皆の傍にやって来ると、すかさずシャニが言った。


  「弁慶、ありがとう」


  「どういたしまして。それよりも、お気に召されたましたか?」


  「楽しかった! そして、美味しかった! ね、足往」


  「うん。ありがとうございました、弁慶殿。こんな楽しい食事、初めてです」


  「それは何よりです。僕としてもここで食事と決めた甲斐がありました」


  「しかし」


  「はい? 何でしょう、ナーサティヤ殿下?」


  「お前達の世界の食事というものは、けたたましいのだな」


  「おや? 殿下はお静かな方がお好きですか?」


  「文句などない。こんな美味いモノは食したこともないしな。それは確かなのだが、
   こうも次から次へといろいろな来客があると、じっくりと味わうこともままならん。
   食べたモノがキチンと胃の腑に収まったのかも怪しくなる。
   お前達はよく平気で平らげられるものだと、感心した」


  「そういえば殿下は、キャラクターがテーブルに来ると、
   必ずお立ちになられて、握手されていましたね」


  「1国の皇子としては当たり前の行為ではないか。
   わざわざ宴席まで讃辞を述べに来た来客に対する」


  「モノを手づかみで喰おうという割には、そういうところは妙に律儀だな。サティは」


  「アシュ、そう言えばお前は何故、立ち上がらなかったのだ?」


  「俺か? 俺は食うのに忙しかったからな」


  「何て事だ、常世の皇子ともあろう者が。
   シャニですら、必ず席を立って挨拶していたというのに」


  「シャニのは挨拶……か。ハハハ、ま、いいではないか」


  「アシュ、お前h」


そう言いかけた一行の所へ、1人のスーツ姿の男性が走り寄ってきた。


  「藤原さん」


  「おや、これは」


  「この前は、本当にありがとうございました。助かりました」


と深々と頭を垂れる男に、弁慶が笑顔で


  「とんでもない。こちらこそ今日は突然の無理をお聞き頂き、ありがとうございました」


  「藤原さん、たっての御要望ですからね。何なりとお申し付けください。
   このくらい、お安い御用です。ああ、では、こちらが」


  「ええ、そうですよ。ああ、ナーサティヤ殿下、こちらはこのレストランの支配人です」


  「『れすとらん』?」


  「この食事をしていた店のことです。そして、この方がこの店の責任者なのですよ」


  「あの、私、当レストラン『ブルース・フットのゴールデン・カウボーイショウ』の
   支配人をしております高橋と申します」


そう言って再び深々と頭を垂れながら、恭しく名刺入れから名刺を一枚抜いて、差し出した。
ナーサティヤはその名刺に一瞥しただけで、こう言った。


  「ああ、そうか。美味かった。礼を言う」


差し出した名刺をどうしたらいいか分からず困っている高橋に


  「すまぬな。こちらの風習に、まだ我々は慣れておらんのだ」


そう言ってアシュヴィンが、その名刺を受け取り


  「常世の第2皇子、アシュヴィンと言う。以後、よろしく。
   この、やたらと偉そうにふんぞり返っているのが第1皇子のナーサティヤで、
   あちらが第3皇子のシャニだ」


弁慶がこの男にどうふれこみで予約を取り付けたのか、
おおよその見当がついた望美と譲は溜息をついた。
それと同時に、偶然なのか分かってやっているのか、それこそまったく分からないが、
この場をそつなく受けて会話を交わすアシュヴィンに、感動を覚える2人でもあった。


支配人・高橋は生涯で初であろう王族(?)との会話に緊張しながら言った。


  「ありがとうございます。
   王族の方から、そのようなお褒めの言葉をいただくなど、従業員一同光栄至極に存じます」


  「うむ。では」


  「あ、あの……、よろしければ、サインなど……」


そう言って高橋支配人は色紙を差し出すのだが


  「(申し訳ありませんが、本当にお忍びなものですから)」


そう弁慶に囁かれて、やむなく引き下がるのだった。
弁慶はすかさず


  「(大丈夫。今度、公式に訪問されることがあった時は必ず)」


と付け加えるのだった。


  「(本当ですか? 約束ですよ)」


  「(僕がご期待に添わないことをした事、ありませんよね)」


高橋支配人は満面の笑みで


  「またの御来店をお待ちいたしております」


そう言うと、またも深々と頭を垂れるのだった。
そして、ゆっくりと去っていく一団を見送りながら


  (『トクヨ』? 『トーヨ』? あれ? ちゃんと聞けば良かったかな?
   中東かな? 東欧かな? どこら辺りの国なんだろう?
   最近ってあの辺り、国名がかなり変わってるからなぁ)


そう思い、店のどこかに最新の世界地図はあっただろうかと考えていた。










人垣に『ゴールデン・カウボーイショウ』の支配人が見えなくなったのを見計らって、
望美が弁慶に言った。


  「弁慶さん、いったいどういうふれこみで予約を取り付けたんですか?
   それに『カウボーイショウ』レストランの支配人と、どうやったら親しくなれるんです?」


  「フフフ、本当にあなたは可愛い人ですね。
   そう仰るだろうと思った通りのことをお聞きになる」


  「アシュヴィンさん達を中東かどこかの国から
   お忍びで来た王族ってふれこみにしたのは分かるんですけど」


  「ええ、その通りですよ。
   支配人かれはいろいろとハイソサエティーな方々とお近付きになることを
   無上の喜びと名誉に感じるタチなので」


  「それって弁慶さんにそっくり」


  「おや、心外ですね」


  「え〜? どうしてです?」


  「彼はそれで喜んで終わりです。
   僕はそんな勿体ない事はしません。
   そういう方々から得られる情報ものには、千金の価値がありますからね」


  「そうか……。だから、弁慶さんのコネって作られていくんですね」


  「『こね』?」


  「『コネクション』、人脈とでも考えて下さい」


  「人脈、ですか。フフフ、そうですね。
   それと『某国の3皇子』というのは、嘘では無いですし。
   彼にとっては嬉しかったんじゃないですか。
   それよりも、さあ、次のアトラクションに急ぎましょう」


そう言って歩を速める弁慶の背に、望美は


  (『どうやったら親しくなれるのか』、また、はぐらかされた)


とは思うのだが、改めて問いかけることは躊躇った。










  「次はコレに乗る」


そう譲が指し示すモノに、シャニと足往が歓声をあげる。


  「お、大っきい!」


  「船? お兄ちゃん、これ、船なの?」


  「え? ああ、それは船だけど、これから乗るのは、こっちだ」


と譲が再度指さす方を観て、神代の一行はあからさまな失望を示した。


  「何で、こんなにも巨大で立派な船があるというのに、イカダごときに乗らねばならんのだ!」


  「理由は簡単です。このイカダでないと、向こうの島に渡れないからですよ」


  「向こうの?」


  「島?」


  「向こうの島は、島全体がアトラクションになっていて、自由に歩いて廻れるんです」


  「あの大きな船で行けば良いではないか」


  「あの船は、向こうの島には着けないんですよ、ナーサティアさん。
   後で、あの外輪船にも乗りますから」


  「『がいりんせん』?」


  「今、仰っているあの船のことです」


  「『がいりんせん』というのか、あの船は」


  「いえ、船の名前は別にあります。外輪船というのは、あの外側で回っている










  「や、殿下。こちらでしたか」


  「リブ、お前、良く俺の居場所が分かるな」


  「ま、長年お仕えしている勘、ですか」


  「フッ、畏れ入る」


  「で、いったい何をなされていらっしゃるのです? 有川殿達とはぐれてしまいますぞ」


  「心配ない。弁慶からコレを渡されたのでな」


  「コレは?」


  「携帯…何とか、と言った。
   これを押してから「発信こっち」を押すと、何故か分からんが、弁慶あの男と話が出来る仕掛けだ」


  「や、それは便利なモノですな。で、皆と離れて、何をなさるお積りで?」


  「いや、別に考えてはおらんが。お前、腹はどうだ?」


  「ま、どうということは。別に痛くも痒くも…、え? 殿下、まだ空腹なのですか?」


  「あれだけで満腹になるほど、俺は上品じゃ無いのでな」


  「や、それで…」


  「ああ、そんなことサティの居る前で言ってみろ。
   やれ『常世の皇子として』の御説教が始まってしまう」


  「ま、そうでしょうな」


  「それに、何やら美味そうな匂いが漂っているしな」


  「や、美味そうな? 私には不思議な薬草の匂いのように感じますが」


  「ああ、この建物だ」


と、アシュヴィンが指さしたのは、ホーム食品が提供している『腹ぺこベアのレストラン』。


  「や、ここも行列ですな」


  「本当にこちらの世界の人間は、並ぶのが好きだな」


  「ま、並んだ先に美味いものやら、楽しい『あとらくそん』でしたか、
   そんなモノが待っているのですからな。並び甲斐もあろうかと」


  「ああ、まったく飽きない世界だ。
   風早が千尋を隠すのに、この世界を選んだのは、慧眼だな」


  「お褒めいただき、ありがとう」


  「や、風早殿」


  「ハハハ、お前、こっちに来てしまって良いのか?」


  「ええ、彼らはあの島ですから、どこに行ってしまうという事も無いでしょう」


  「で、こっちに、と?」


  「ええ」


  「ま、白麒麟殿も健啖家でいらっしゃるのですな」


  「で? こっちの世界はお前の方が詳しかろう。どれが美味そうだ?」


  「オレがどうこう言うよりも、食べてみてからのお楽しみにしてください。
   それより、お金はあるのですか?」


  「さあ。出発前に弁慶から、この、人の顔の描いてある紙を数枚渡された」


  「それで充分ですよ」


  「そうなのか? 何かあったらこれを使えと、こんなモノも渡されたが」


  「フッ、あなたは弁慶から随分と信頼を得ているのですね」


  「ほう? 何故、そう思う?」


  「それはクレジットカードというものです。
   こちらの世界では、本人の信用と貯蓄の度合いによって、
   神代で言うところの黄金の役をしてくれるのです」


  「ということは?」


  「弁慶は君に、彼の黄金の蔵を預けたようなものですね」


  「やれやれ、あの男、余程の馬鹿か?」


  「や、その割に殿下は嬉しそうですな」


  「リブ」


  「さ、殿下。何を召し上がられます?」


  「そうだな、この肉の塊の入った」


  「ああ、それは『ハンバーグカレー』ですね」


  「や、私はこの何やら肉に衣の着いたものが」


  「『ポークカツカレー』ですね」


  「ハハハ、そういえば俺もリブも、どうやって注文するのかまったく分からないからな。
   風早、お前がいてくれて助かった」


  「ええ、オレは役に立つんです」


そう言って3人は、オーダーの最後尾に並んだ。










さてハックルベリー島では、
シャニと足往が、今まさに『インディー・Jの洞窟』に足を踏み入れようとしていた。


  「シャ、シャニ〜〜」


  「だ、大丈夫。ボクは常世の皇子なんだから」


そんな2人の様子を、微笑ましく見つめる望美と朔であった。


携帯がバイブする。
弁慶が「すみませんね」と小声で譲に言って、その場を離れた。


  仕事の連絡であろうか。


  それとも、アシュヴィンから、何か困った事態でも
  勃発してしまった(いえ、『させてしまった』でしょうね)のだろうか。


そんな事を考えながら携帯を開くと、そこには。


  「ああ、やっぱり来ましたね。ま、僕が思っていたより30分、早かったですけどね」


  『そうか〜い? で、どこにいるのかな〜?
   一応、今晩の食事って思ってさ〜
   【ブルーラグーンレストランのプライオリティー・シーティング・チケット】は
   人数分、手に入れたよ〜〜』


  「ああ、景時。それは上出来です。今、僕達は」


その時、弁慶は背後にただならぬ殺気を感じて、振り向いた。
そこには、満面の笑みをたたえた梶原朔が仁王立っていた。


  「兄上が、どうされました? 弁慶殿」











10/10/27 UP

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