いざ 大運動会! in 常世
16 準備が出来次第、招集いたします!
慣れない鉛筆と紙に苦闘しながら、神代チームの面々が何かを書き付けている。
「騎馬戦は負けか…」
「向こうの方が戦闘力が高いってことだね」
「信じられん。常世の3皇子が揃っていながら」
「まぁ、ね。何と言っても、数百年後にマジで命の遣り取りしてた連中だからね」
「那岐、そうなのか?」
「そういえば、お前や神子は、その名を聞いて会ったこともないのに知っている者がいたな」
「そうだね。『源義経』と『平重衡』『藤原泰衡』なんて教科書にも載ってるし」
「千尋が教科書に載っている名を覚えていてくれるとは、嬉しいですね」
「教科書?? 教科書って何? 足往、知ってる?」
「おいら、分からない」
「風早、私の事、いったいどういう風に思ってるの!?」
「え? 優秀な生徒だと」
「千尋がどう優秀なのか、聞いてみたいものだね」
「どんな行事にも積極的に参加して、欠席もなく健康で明るく、美しく、勉強も頑張って」
「勉強って5番目なんだ…」
「風早、ホントいい加減、教師ぶるの止めない」
「那岐。そんなに俺が教師で、君が生徒なのがお気に召さないですか」
「………ま、どうでもいいけど」
「でも! でも、次は借り物競走になったから」
「その『借り物競走』って何なの? お姉ちゃん」
「えっとね。この紙に書いてあるものを、どこかから借りてきたり、探してきたりして、
持って来てゴールする競技なの」
「『ごぉる』って、あの線を通るんだよね」
「そうよ」
「今度こそ負けられん」
「そうですよ将軍。頑張りましょう」
「ああ、その為にも」
「その為にも?」
「地の利を活かさねば」
「地の利、ですか?」
「分からないか、布都彦。鎌倉側はこの世界をよく知らぬのだぞ。
我々は、鎌倉側に比べれば、それこそどこに何があるか詳しいではないか」
「ああ、なるほど。ではこの『借り物競走』は」
「ああ、絶対負けられない試合だ!」
「やれやれ、どこかのテレビ局のサッカー中継みたいだね。あ〜〜あ、面倒だ」
この、忍人と布都彦の会話から何かヒントを得たのだろうか。
何か思いついたように、神代の面々が書き始めた。
「姫さん姫さん。こんなの、どうよ?」
「えぇ? サザキ、『舟』って……。常世にあった? 単にあなたが欲しいってだけじゃないの?
あったとして、第一どうやってここまで持ってくるの?」
「姫さん、分かってないなぁ。無理だから、いいんじゃね」
「無茶だよ」
「や、もし、あなた自身が引いてしまったどうするつもりなのです?」
「だってリブさんよ、俺達が書いたのって、鎌倉側が引くんじゃ無ぇの?」
「違うよ、サザキ。みんな、一緒に混ぜてしまうの」
「へ? そうなの?」
と驚いた様に千尋の顔を見たのは、サザキだけでは無かった。
「何だ、そうならそうと言ってくれ」
「ええ! そうなのですか!?」
「…………………………自分で引くことも、あり……なのか」
「それを先に言わないか!」
「それじゃぁ、これは無理……かな??」
「あの……。みんな、何て書いたの?」
書き終わっている者が、千尋の前に紙を示す。
真っ先に目に留まった紙をつまんで、千尋が青ざめる。
「『皇の髭』って………。誰、これ書いたの?」
シャニが辺りをはばかるように、小さく手を挙げた。
「シャニ…、あなた」
「ごめんなさい。だって絶対無理だと思ったから…」
「ハハハ! 存外、懼れを知らないのだな」
「アシュ、笑い事ではすまぬぞ」
「まあまあ、そういきり立つな、サティ」
「しかしだな」
「ごめんなさい。書き直すね」
「ああ、そうしなさい」
シャニは紙を替えて「熊」と書き直した。
「『熊』…。シャニ、お前、皇のことをそんな風に思っていたのか」
「違うよ、何となく別のもので、手に入れるのが無理そうなものって思ったら」
「しかしだな、『皇』の次に書いたのが『熊』では」
「誰も『皇』の次に書いたとは分からんさ。それよりサティ、他人に干渉しすぎではないか。
遊びなのだ、何を書こうが良いではないか。それなら、サティは何と書いたのだ」
と言い終わる前にアシュヴィンはナーサティヤの紙を奪い取って、見る。
「あ、おい!」
「『ナマズ』……ほう」
アシュはサティに紙を返し、去った。
「……? おい、アシュ?」
しかしアシュヴィンは聞こえないのか、返事も無い。
「な、なんだ!? おいアシュ! 何か言わないのか! ………まったく」
遠離るナーサティヤの声を無視して、アシュヴィンはリブに話しかける。
「リブ、お前は何と書いたのだ?」
「や、殿下。よろしいのございますか?」
「放っておけ。それより見せてみろ」
「ま、当たり障りのないものでして」
「『美味しいお茶』か、お前らしい」
「や、ありがとうございます」
「で、この後から如何にも書き加えたような『美味しい』はどういう基準なのだ?」
「ま、それは当然、私の好みでして」
「つまり鎌倉側が持ってくれば『不味い』、神代側が持ってくれば『美味しい』、そういう判定もありということだな」
「や、殿下も存外、腹黒でいらっしゃる」
「それは、お前だろう」
「ま、では、そういう殿下は何とお書きなのです?」
「俺はこれだ」
と何の衒いも無く、リブに紙を見せると、リブの顔が赤くなる。
「や、殿下……」
「『笹百合』だ。少しもおかしくはあるまい」
「ま…、ハハハ。そうですな」
(ま、常世はおろか、豊葦原すべてに知れ渡っていることを、この人は御存知ないのだろうか?)
そう思わずにはいられないリブであったが、瞬時に気を取り直して、アシュヴィンの後について歩きはじめた。
「こっちは…おいおい、『龍の鱗』……。柊も存外、無茶を言う」
「いえいえ、無茶とは思っておりませぬゆえ、変えるつもりは毛頭ありません」
「変えろなどとは言わんさ。ただ、俺がその紙を引かないことを祈ってるだけだ」
「や、殿下。こちらには『岩長姫の下着』とありますぞ」
「『下着』? 『下着』とは何だ?」
「や、私にはとんと分かりかねます。那岐殿、何なのでしょうか??」
「ああ、そうか。この時代って、どうしてるものなんだっけ? なぁ、千尋」
「何? どうしたの?」
突然、声をかけられた千尋が尋ねる。
リブが那岐の書いた紙を見せると、千尋は顔を赤くして宣言した。
「却下!」
「あ〜〜あ、破いちゃった。また考えるの、面倒なのに」
「那岐! なんでまた」
「そうだ、千尋はどうしてるの?」
「な、なにが?」
「だから、下着」
「私はふつうにパ……!! い、言えるわけ無いでしょ!」
真っ赤な顔をした千尋の代わりにアシュヴィンが那岐に話しかける。
「その『下着』とは何なのだ?」
「やれやれ、だから」
そう言って、那岐はアシュヴィンに小声で耳打ちをする。
「ああ、なるほど。しかし、それは今まで気にしたことがなかったな。千尋の下g」
言い終わる前に、千尋の右アッパーカットがアシュヴィンに炸裂し、そしてトドメを刺すように叫ぶ。
「アシュヴィンのバカァ!」
そして千尋は那岐に向きなおって言った。
「那岐! 那岐が変なこと書くからだからね!」
「絶対無理だと思ったからさ。まぁ、千尋のお気に召さなかったらしいけど。
……でも、そもそも鎌倉側には岩長姫が誰なのかすら分からないだろうからね。
良い作戦だと思ったのに……チェッ、……ま、どうでもいいけど」
そして那岐はもはや考えるのが面倒と言うように、『キノコ』と書き捨てた。
その他では、千尋が『甘いお菓子』。
「だって、望美さんや朔さんとお茶したいんだもん」
「おいおい、また太るつもりか?」
「え!? ど、どうしてそうなるの……」
風早が『花器』。
「『花器』? ああ、土器のことか」
「ええ、花を活ける器が欲しいと思っていたところですからね」
足往『えびせんべい』
「気に入っちゃったのね」
「だってお姉ちゃん、すっごく香ばしくってパリパリしてて美味しかったんだ」
布都彦『琴』
「男子たるもの、楽器などでは軟弱でしょうか?」
「ううん、楽器を奏でる事と軟弱かどうかは別だよ。ね、アシュ」
「ああ、お前は存外、琴の名手だという評判だが」
「あ、ありがとうございます。姫、アシュヴィン殿」
忍人『一番強い者』
「ま、想像通り、ですね」
「ああ、まったくだ」
「何だ! その目は」
「いや、立派な将軍殿だと思っただけだ」
「バカにしているだろう! 絶対、その目はバカにしている!」
カリガネ『卵』
「その卵って」
「食うのか?」
「…………………………当然」
「(や、共食いでは)」
「(どうなんだ?)」
「(ええ〜、私に聞かれても)」
遠夜『文字』
「遠夜らしいと言えば、そうだけど」
「…………………(新しい文字は、新しい世界を拓く)」
「そうね。でも、だったら『新しい』か『遠夜の知らない』を加えるべきなんじゃない?」
「…………………(神子はいつも正しい道を示す)」
エイカ『一番愛らしい方』
「………(どうする?)」
「……(どうすると言われても)」
「…(持ってこられるような類のものではありませんな)」
「却k」
「まあ、待て。千尋」
「これを引いた者がどう答えるか、興味もあるのでな」
「え〜〜、知らないよ」
黒麒麟『白麒麟のたてがみ』
「これ、絶対アシュヴィンが書いたでしょ」
「何のことだ」
「あ、とぼける」
「ま、これは殿下の筆跡ですな」
「ほら〜」
「リブ、お前も存外、口が軽いな。しかし、良い策だろう」
「や、鎌倉側も白麒麟が誰なのかは知っておられる方がいることですし」
「だが、風早の姿でいる限り、『たてがみ』の入手は困難」
「ま、万一、麒麟の姿に戻ったとしても、そう簡単にたてがみを引っこ抜かせてもらえるとは」
「何と言っても、気位の高い白麒麟だからな」
「神代の『借り物カード』、無茶なの、多すぎるよ〜〜」
そう嘆く葦原千尋であった。
09/12/13 UP