いざ 大運動会! in 常世









18 競技に際しまして、審判長からルールの説明があります!











書かれたカードを持ち寄って神子3人が協議した。
同じような内容のカードがいくつかあって、どうするかが問題となったのだ。


    「やっぱり『お菓子』が3つもあるのは、ちょっとつらいかもね」


    「じゃあ、どうします?」


    「う〜〜ん、そうだね〜、お菓子を作ってくれる『お母さん』、なんてどう?」


    「でも『お母さん』では、鎌倉側に不利なのでは?」


    「神代こっちだって『お母さん』は、ここにいないよ」


    「これだけ大勢の方が見物されているのだから、探せば1人くらい」


    「う〜〜ん、確認のしようがないよ」


    「じゃあ『お母さんポジションの人』ということで」


    「ああそうね、望美さん。そのくらいならOKかも」


    「『ぽじしょん』? それはどういう意味なの、望美?」


    「『そんな立場にいる人』とか『ぽい人』かな」


    「ああ、判ったわ。では私は『お父さんぽじしょんの方』にするわ」


    「じゃあ次はレース順ですね」


    「え〜と、32人だから……」


    「8人毎の4組に分けるのが良いのではないかしら」


    「そうだね」


    「朔さん、暗算速いですね」


    「え? そうかしら」


    「レーンも8つだから、ちょうどいいね」


    「出場を嫌がる人っていないのかな?」


    「嫌がる? あはは、嫌がっても出す!」


    「の、望美……」


    「なんてね、冗談だよ、朔。それにほら、見てご覧よ」


    「え?」


    「みんな、やる気満々じゃない」


「嫌がっても出す」と言った望美はたぶん冗談などでは無いのだろうと朔は思った。
しかし、グラウンドのあちこちに集まっては準備運動やら話し合いやらをしている人々を見ると
望美が「嫌がって」いる人を力ずくにでも無理矢理「出す」ような事態にはならないだろうと、朔は少し安心するのだった。


    「じゃ、後は、出走順だね」


    「ええ、どうやって決めます?」


    「鎌倉4・神代4ずつになるようにアミダクジにしない?」


    「皆に引いてもらうの?」


    「時間ももったいないし、第一面倒だから私達で」


    「勝手にやってしまって良いものなの?」


    「朔、気にしない気にしない。なんたってこれはお遊びなんだから」


    「はい、私、神代こっちに戻ってからみんなでこんなに楽しいことしたの初めてです」


    「よかった、じゃあ……」


と望美と千尋は手慣れた様子でクジの線を引き始めた。
慣れない朔はその2人の作業を見ながら、

    (これは本当に「お遊び」で済むようなことなのだろうか)

そう、ふと思うのだった。











    「出場選手の皆さんに連絡します!
     次の『借り物競走』ですが、この競技に際しまして、審判長からルールの説明があります!
     静粛にお聞きください!」


千尋の放送が入ると、ざわついていた会場全体が静まりかえった。


    「え〜〜、審判を務めている大伴道臣です。
     3人の神子様とも協議の結果、この『借り物競走』については、
     次のいくつかの規則を附帯事項として設定いたしましたので、競技参加者の皆さんは遵守してください。

     まず1つは、この場には風早殿、白龍殿、そして黒麒麟殿と3柱の神がおいでですが
     その神に『借り物』を現出してもらう事や、『借り物』に関する行為について
     この競技中、特に神の力を借りる事を禁止いたします」


    「『借り物』に関する行為って何だろう」


    「例えば『雪』って書いてあったとして、『雪』自体を神様に出してもらう事だけじゃなく、
     今『雪』が手に入るような場所に一瞬で運んでもらう事や、
     神の力で天気を変えて『雪』を降らせる事もダメってことよ、シャニ」


    「そうか、神様の力を借りたら、何でもありになっちゃうもんね」


    「そういうことだ」


    「次は『借り物』に書かれている内容について、
     知っている知らないでの不公平が互いにあってはならないと考えました。
     よって、『借り物』の記載事項について、選手からの質問には聞かれた者は必ず嘘偽り無く答える、
     ということにしますので従ってください。これはこの場にいる観客の皆さん全員にも守っていただきます」


    「聞かれたら……か。ククク、聞かれなければ答えぬ……、という事でも……あるわけだ……」


    「この2点を守らなかった組は、その競技組に出場した全員を失格とします」


    「な、なんと厳しい!」


    「それでは続いて、神子様より第1組の出場者を発表していただきます。では、二の姫」


    「道臣さん、ありがとうございます。
     え〜、出場者は私達3人の厳正なクジによって決定いたしました。
     では第1レース、出場選手を発表いたしますので、
     名前を呼ばれた人は速やかにスタート地点に集合してください」


場内が一層静まりかえる。


    「先ず、私達『神代』チームはサザキ」


    「ヒャッホウ! 先頭たぁ、気合いが入るぜ!」


    「風早」


    「さて、御指名とあらば」


    「柊」


    「ふ その花のかんばせに勝利の歓びを捧げましょう」


    「忍人さん」


    「今度こそ! 何人たりとも俺の前は走らせん!」


    「続きまして、望美さん達『鎌倉』チームです。先ずヒノエさん」


    「向こうのトップは海賊だって? 船乗り対決かい。だったら負けられないね」


    「続いて、白龍さん」


    「神子、頑張るよ」


    「経正さん」


    「ああ、敦盛。あの『ごおる』地点で待っていますね」


    「そして、九郎さん」


    「相手は葛城将軍、相手として不足は無い! いざ!」


    「く、九郎さん、この競技のやり方、分かってます!? 誰かちゃんと教えてね!
     忍人さんとバトルしかねないよ〜!」


    「続いて第2レースの出場者も発表しちゃいます。
     こちらに出場の方は第2コーナー脇の招集場所に集合してください。神代チーム、シャニ」


    「兄様、見ててね。僕、頑張るから」


    「アシュヴィン」


    「ふ、シャニ、お前を見ていられなくなったぞ」


    「ナーサティヤさん」


    「兄弟3人が同じ競技で優劣を争うことになるとはな」


    「布都彦」


    「え!? と、常世3兄弟と、ですか!」


    「そして鎌倉チーム、惟盛さん」


    「向こうが常世の3王子なのですからね、ここは当然私の出番。小娘にしては正しい人選といえるでしょうね」


    「ぎんさん」


    「千尋ちゃん! それ『銀』って書いて『しろがね』って読むの」


    「え〜! ご、ごめんなさい! 改めましてしろがねさん」


    「姫、どうか私の名ごときで御気を煩わせることなどなさいませぬよう」


    「譲君」


    「何を引くことになるのか、嫌な予感がする」


    「そしてリズ先生」


    「全力を尽くす」







数分後、第1レース出場選手がスタート地点に集合した。


    「では、この競技のやり方は分かりましたね」


    「ああ望美、大丈夫だ」


    「九郎さんが大丈夫なら全員大丈夫ですね」


    「望美、どういう意味だ」


    「いいからいいから。では、位置について」


会場が、スタート地点を注目する。



    「用意」

     パン!!

綺麗に8人が駆け出した。


    「第1コーナーを先頭で駆け抜けたのはヒノエさん、続いて忍人さん、九郎さん、白龍さん、
     サザキ、風早、経正さん、柊の順で第2コーナー手前の『借り物カード』の所に到着しました!」







ヒノエが真っ先に『カード』を引く。そこには『一番美しい方』とあった。

    「へぇ、俺的には楽勝、かな。俺にぴったりのお題じゃん」







忍人は『なまず』を引く。

    「く! 面倒な」

そう言い放つと観客席を飛び越えて、場外に消えていった。


    「お、忍人様! どこへ!」

    「将軍! どうなされました!」

忍人配下の軍人が全員慌てて忍人の後を追いかける。







九郎は『愛する家族』を引く。

    「え? 俺には兄上以外、家族など……、いや、しかし、……ああ! どうすれば良いのだ!」







白龍は「『くがね』? 人の言の葉は難しいね。これはいったい何?」







サザキは「『薬草』?? オレ、薬草なんて知らねぇぜ、どうする!」

そう言って忍人が去った方向とは逆の方へ走って消えた。







風早は「『おいしいお茶』。どうせリブ辺りの書いたものでしょう。『おいしい』お茶ですか。いいでしょう!
    神力など使わなくても、『おいしい』お茶を献上してみせましょう」

そう言うと、いったん校舎の中に入っていった。







経正は「『一番愛らしい方』ですか。ああ、これならば迷うことはありませんね」







柊は紙を見るなりゴールへ一目散に走る。

    「『笛』。なるほど、これは容易い問いですね」







    「忍人さんとその配下の葛城軍団はもはやどこに行ったのか分かりません!
     そして、あ! 早くも柊がゴールに向かう!? あれ、柊、何も借りてないんじゃないの??」







柊はそのままテープを切り、ゴールしてしまう。
そして『借り物』の確認に道臣が近付くと、柊は口笛を吹こうとする。


    「口笛も『笛』には違いないでしょうからね」


    「ええ、どうぞ」


と道臣が口笛を促すと、柊が口笛を……


    「ひゅ〜、あれ? ひょ〜 ええと、今日はちょっと、フー、あれ上手くいきませんね」


どうも焦れば焦るほど、口笛も指笛も巧くいかない柊であった。


    「柊、どうしたの?」


千尋がマイク越しに尋ねる。


    「ああ、我が君。今日は口笛も指笛もちょっと…。あれ」


道臣が柊のゴール無効を宣言する。
ゴール手前で口笛と指笛の練習をする柊の背中に哀愁が漂っていた。







一方、競技場の外に飛び出した忍人は、懸命に走っていた。
後ろから追いついた狗奴の戦士が尋ねる。

    「忍人様、どうなされたというのです? 『借り物競走』はどうなされたのです!」


    「『ナマズ』だ!」


    「は?」


    「引いた『かあど』とか言う物に『ナマズ』と書いてあった」


    「では」


    「ナマズを持ち帰らねば、俺の勝ちは無いのだ!」


    「『ナマズ』だ!! 第1小隊は近くを捜索、ナマズの生息していそうな沼、川の情報収集!
     第2小隊はナマズを捕獲するための道具を近隣より調達!
     第3、第4小隊は舟を探せ!
     残りは将軍と共に前進!」







グラウンド内では、風早が携帯コンロとヤカン、それに茶筒と急須に湯飲みを持って、校舎から出て来た。

    「自分の事でも、力が使えないのは面倒ですね」

そう言って、水道でヤカンに水を入れていた。







九郎は何かを思いついたようにポンと手を打った。

    「そうか! 『家族』とは幼い頃から生活を共にしたものでも良いのではないか。
     ならば、この場に来ているではないか!」

その言葉に泰衡もリズヴァーンも、弁慶や景時までもが、
いつでも呼ばれれば飛び出せる態勢で、九郎の次の言葉を待った。


    「くがね! くがねはどこだ!」


    「御曹子……」
    「……九郎」
    「はあ、君という人は……」
    「あちゃ〜〜、オレは良いけどね〜〜、ショックなんじゃないかな〜〜〜」


その九郎の言葉を聞きつけた者が別にもいた。


    「くがね? 九郎、今くがねと言った?」


    「ああ、くがねは俺になついている犬だ」


    「犬? ああ、あそこのだね」


    「ああ、そうだ」


そう言い終わると、九郎と白龍は同時にくがねに向かってダッシュした。
当のくがねは、あちこちで愛想をふりまき、いろいろな人にかまってもらえて至極満足をしていた。
そんな時、大柄の男が2人、自分の方に向かってダッシュして来ているのだ。
驚いて本能的にその迫り来る男2人から逃げた。


    「くがね!? 何故逃げるのだ!」


    「くがね、逃げないで、私と『ごおる』して」


その声をシッポの後ろに聞き、片方が九郎だと理解した。
するとくがねはすぐさま『逃げる』のではなく『九郎と遊ぶ』、そのために『走る』、へと思考を転換した。
しかし、そうと知らない九郎は

    「くがね! 待て! 俺が分からんのか! 九郎だぞ!」


この時点で、昔なじみの泰衡や弁慶、幼い頃から知っているリズヴァーンに
『家族』をシフトすることも出来るのだが、
くがねを追いかけることに短絡した九郎の思考では思いつくはずも無かった。

    「ワンワン(九郎ともう1人、こっちだよ〜)」


    「待て! くがね


    「くがね!」


犬と人と龍神の、いつ果てるとも分からない追いかけっこが続いていた。







ヒノエと経正は2人して同時に敦盛の所へ駆け寄る


    「こんな処にいたのかい、敦盛」


    「ああ、敦盛。探したのだよ」


    「な、何か私が役に立つのだろうか?」


2人は同時に『一番美しい方』と『一番愛らしい方』のカードを敦盛に見せる。


    「わ、私、なのだろうか」


    「ああ、『一番美しい方』だからね」


近くの第2レース招集場所からこの様子を観ていた惟盛が、書かれた内容を知って言った。


    「私で良ければ、いつでもお連れくださってかまわないのですよ」


    「惟盛殿。そうだね、次の機会にはよろしく頼むよ」


    「次、ですか。まあ、大夫殿に今回はお譲りしましょう。では次に」


    「ああ、すまないね」


    「わ、私なら良いのだろうか?」


    「そうだとも、敦盛。さあ、この兄と共にあの『ごおる』の白い紐を」


    「それは無いんじゃん、敦盛はこの俺と手に手を取って」


    「いや私が」


    「いや、俺だね。ここは譲れないね」


    「別当殿は敦盛以上に『愛らしい』方がいるとお考えですか」


    「それはそうだけれどね。敦盛の凛とした美しさに勝てる奴なんていないと思うんだけど」


    「そ、それは、自明の理だとは思いますが」


    「え〜〜、ヒノエ君、私じゃないの?」


    「そ、そうだと私も思うのだが」


    「ああ、そうだね。でも、今回は朔ちゃんも千尋ちゃんもいるからね。
     俺としては、3人の神子の1人を選ぶなんて、できないから。
     それにね、じゃあ神子姫。神子姫だったら誰を選ぶんだい?」


    「そんなの、決まってるじゃないですか! もちろんっ! あつ……も…り…さん」


    「と、神子姫の御賛同も得られたことだし」


    「それでは神子殿は、敦盛が『愛らし』くないと仰るのですか」


    「いえ、敦盛さんはとっても愛らしいに決まってます!」


    「先輩、先輩まで取り込まれてどうするんです」


    「そ、それはそうなんだけど……」


    「あの2人を走らせるんじゃなかったんですか」


    「OK、敦盛! いいから2人の手を掴んで、ゴールまで突っ走っちまえ!」


    「え? ま、将臣殿、いいのだろうか」


    「OK! OK! GO! GO!」


    「2人とも、はやく敦盛さんと手を繋いで、3人でゴールしなさい!」


    「ああ、その手が許されるのでしたら」


    「さすがは神子姫、さ、敦盛。急ぐぜ」


    「わ、私で本当に良いのだろうか??」







早くも沼地を発見し、舟と網も調達した葛城軍団は、大騒ぎでナマズを捕まえようとしていた。


    「急げ! 忍人様の為だぞ!」


    「『ナマズ』だ! 『ナマズ』を捕まえろ!」


泥だらけで網をすくっていた忍人の下に、あっという間に、ナマズどころか鯉も鮒もドジョウも届けられた。


    「忍人様!」


    「皆の気持ち、ありがたく受け取らせて貰う! 感謝する! これで勝てるぞ!」


    「もったいないお言葉!」


    「全軍反転! 急いで『ごおる』するぞ!」


    「おぉぉ!」











放送席でマイクを掴んで千尋が叫ぶ。

    「サザキが何か大量の草を抱えて走ってきた!

     風早は、何でだかは分からないけど湧かしていたお湯が沸いた!

     九郎さんと白龍さんも、何でか分からないけど犬を追いかけてる!

     向こうからは、何故か真ん中にいる敦盛さんの手を両方から繋いでヒノエさんと経正さんが走って来た!

     柊は音さえ出ればゴールが認められる!

     そして、あれは! 遥か遠くに見える土煙は! 怒濤の土煙を上げて葛城軍団が戻ってきた!

     もう、何が何だか分からない!

     このレース、どうなっちゃうの!!」















10/04/02 UP

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