いざ 大運動会! in 常世









19 審判長の判定は覆りません!











全員がゴールに雪崩れ込む。


    「と、とりあえずの着順は? 道臣さん、分かりますか!?」


    「はい、『借り物』が認められなければ、再度探しに行ってもらうことになりますが
     とりあえず、この『ごおる』の白線を通過したのは
     サザキ殿、ヒノエ殿と経正殿はほぼ同時、次いで忍人殿の順です」







    「こんだけ葉っぱ持ってきてるんだ一枚くらいは薬草があるだろうぜ」


薬草の判定役として弁慶が呼ばれた。


    「僕でも分かりづらいですね。種類別にキチンと分類してくれませんか?」


爽やかな笑顔をふりまいて、弁慶が軽やかにそう言い放った。


    「え〜〜! これ、全部かよ???」


    「ええ、急いでくださいね。僕も暇ではないものですから」


久々に黒い軍師が降臨していると、鎌倉のメンバー誰しもが思った。
サザキは分類が面倒なのか、手近な葉を一枚手にして、弁慶に指し示した。


    「これは!?」


    「それは椎の葉ですね」


    「だ、だめなのかよ?」


    「実ならドングリですから食べられますし、樹皮は染料になりますがね、葉はどうでしょうか」


    「固ぇこと言うなよ」


    「そう言われましても。
     それに、そもそも『薬草』というのですからね、草でないと、どうでしょう」


    「じゃあ、これ」


    「そう闇雲に示されても……。
     それにそれはスズランの葉ですね、薬草どころかそれを口にすると最悪、死に至る毒草ですよ」


    「そんなぁ……」







    「あれ? 九郎さんと白龍は?」


    「ワンワン!」


望美の質問には、自慢そうなくがねの吠える声が状況を雄弁に語っていた。


    「まだ、追いかけっこしてるの!? ったく、だらしない!」


そう言い捨てると、望美は腰を落としにこやかな笑顔でこう呼んだ。


    「くがね! いつまでも遊んでないで、戻っておいで」


すると「ワン!」と一声吠えて、くがねは望美のところへ全速力で走ってきた。


    「くがね、お手」


望美がそう言って右手を出すと、またも「ワン!」と一声吠えてくがねは望美にお手をした。


    「良い子だね、くがねは」


そう言って望美はくがねの頭を撫でた。
そして、そのままお手をしていた前足を右手で掴み、更に左手で後ろ足を素早く掴むと、


    「はい、九郎さん、白龍」


と、やっと望美の処へ走って来た2人にくがねを、まるで狩の得物を渡すように手渡した。
一瞬の事で何が起こったのか良く分からず呆然としていたくがねだったが、
九郎と白龍に前足と後ろ足を掴まれた瞬間に、やっと事態を察した。


    「ワン!(汚いぞ!) ワオン!(放せ!)」


    「こら! くがね、暴れるな」


    「九郎、このまま『ごおる』するの?」


    「そうだな、せっかくの望美の好意を無にするわけにもいくまい」


    「分かった。では走るよ」


    「ああ、あと少しだ」







放送席と本部テントの間では、折りたたみ式の長机の上で風早が苦悶していた。


    「か、風早? どうしたの?」


千尋が尋ねても聞こえないようで、ひたすら急須に湯を注いでは一口飲んで


    「ダメだ! これでは『ただの茶』で、『おいしい』とは言えない!」


    「玉露は60℃が一番良いはずなのに、湯飲みも温めてあるというのに、ええい、これもダメだ!」


    「ああ、ここまでしても『おい』がせいぜいだ! もう一度だ!」


    (気の済むまでやらせよう。お説教はその後だ)

そう思ってグラウンドに目を戻す千尋であった。
そしてそのグラウンドには、

    「フー……く! ヒー、あ、チョットだけ鳴ったような……、ダメですか……、フー、ああああ」

柊の姿があった。


また、その隣では


    「これは」


    「それも単なる雑草でしょう」


    「じゃあ、これ」


    「何度も申し上げていますが、薬の『草』であって、『葉』ではどうなのでしょう」


    「ええ〜〜」


半泣きのサザキの姿に、天を仰ぐ千尋であった。


    「ちょっと、もういいんじゃない?」


    「え?」


サザキが見上げると、そこにはヒノエと経正の姿があった。


    「いい加減に、そこをどいてくれない?」


    「い、いや、ちょっと待ってくれよ」


    「ちっとも海の男らしくないじゃん、往生際が悪すぎるね」


    「ヒ、ヒノエ……、何もそこまで……。サザキ殿も勝ちたい一心なのだろう」


    「じゃあじゃあ、最後にあと一回、……これ!」


    「あの……それはもはや『草』でも『葉』でもなく『樹皮』ですね。論外です」


    「そんなぁ〜」


寂しそうに持参した大量な葉や草を持ってその場を離れるサザキであった。







    「『一番美しい方』と『一番愛らしい方』ですか」


道臣は判定を望美と朔、千尋の神子3人に委ねた。


    「わ、私には……。望美、お願い」


    「え〜、ここで私が何か言うと不公平な気がするから、千尋ちゃんに判断はお願いします」


    「ああ、そうね。私からもお願いするわ」


    「え? でも私は対戦相手でもあるんですよ」


    「だからいいんじゃない」


    「ああ、誰が見ようとも敦盛の『美しさ』に否を唱えるような輩はいないだろうからね」


そう言ってヒノエは敦盛にウインクをする。


    「ええ、私としても同様です。
     どなたが判断をされようとも、我が弟・敦盛の『愛らしさ』は揺るがないはずですから」


そう経正は千尋と望美に胸を張って答えた。
千尋は、ヒノエと経正を見、そして当の本人の敦盛をしげしげと見つめた。


    (綺麗な白い肌……、私、完全に負けてる。……ああ、そんな哀しそうな瞳で見つめないで……)


    「ご、合格……です」


    「やったね、敦盛さん!」


    「やだなぁ神子姫、当然のことじゃん」


    「ええ。まったく同意見です。朝になれば陽が東から上るがごとく、当然のことです。」


    「あ、兄上……」







    「一位はヒノエ殿と平経正殿の同着といたします!」


道臣が高らかに宣言した。


その時


    「くっ! またしても1位ではなかったのか!」


    「忍人様! 申し訳ございません! 我々が俊敏に移動さえしていれば…」


    「いや、お前達はよくやってくれた。
     俺1人では、こうも早く『ナマズ』を手に入れることは出来なかっただろう」


    「も、もったいないお言葉です!」
    「忍人様ぁ〜〜!」

軍全員が忍人を取り囲んで号泣する。
その直中にあって、独り冷静な道臣が呟く。


    「これで……、良いのだろうか?」


その呟きを、忍人が聞き逃さなかった。


    「何だと言うのだ! 『ナマズ』もあるではないか!」


    「それはそうなのですが」


    「何だ! 何が問題なのだ!?」


    「忍人殿は御自身で探して来られたわけではありません。
     よって、この競技の規則に抵触するのではないかと」


    「何!」


その時、望美が叫んだ。
    「ギャラリーの協力はOKですよ」


    「白龍の神子殿、今、何と仰ったのですか? 意味が全く理解できませんでした」


    「道臣さん、観客の協力はこの競技の場合許される。そう望美さんは言ったの」


千尋が望美の言葉を言い換えた。


    「うん、ギャラリーの協力があってこそ、この競技は盛り上がるんです」


    「そうだ!」


忍人を取り囲んで泣き崩れていた1人が立ち上がって叫んだ。


    「さすがは神子様だ!」
    「神子様、万歳!」


道臣があくまでも冷静に宣言した。


    「そうですか。では、忍人殿の『ごおる』は認められました!」


    「おお!」


全軍歓喜の雄叫びと「神子様、万歳!」が交互に、校庭に響き渡る







    「………………………………………………………………昼食の献立、1つは決まったな」


    「ナマズですからね、大量の川魚もありますから、鍋にでもしますか」


そう譲が語りかける。


    「………………………………………………………………『大鍋』が必要だな」


    「そう思って、オーダーしておきましたから」


    「………………………………………………………………『おぉだぁ』??」







九郎と白龍の同着ゴールも認められたのだが、道臣が神妙な顔で千尋に近付いてきて尋ねた。


    「神子殿、かの者達はいかがいたしましょう」


道臣の指さす彼方には、口笛に苦しむ柊と、『おいしいお茶』に拘る風早と、
泣きながら草や葉を仕分けしているサザキの姿があった。


    「あぁぁ……、ったく神代うちの連中ったら!
     時間がもったいないから失格!」


    「え、千尋ちゃん、いいの?」


    「何だか可哀想では……」


    「いいんです。望美さん、朔さん、気にしないでください」


    「でも……」


    「じゃ、じゃあ、後3レースあるわけだから、
     その間にOKだったら『ゴール』って認めてあげてもいいんじゃない」


    「望美さん、優しいんですね」


    「どうだろう。要は『放っておく』だけだから」


    「あはは」







    「次の競技に先立ちまして、第3レースに出場する選手を発表します」


千尋がマイクに向かって告げる。


    「名前を呼ばれた人は、第2コーナー脇の招集場所に集合してください。
     先ず神代側、カリガネ」


    「………………………………………………………………昼飯の準備があるというのに」


    「エイカさん」


    「!?」


    「遠夜」


    「(……神子……)」


    「黒麒麟さん」


    「………」


    「なんか神代側、無口な人ばかり!
     では、続いて鎌倉側です。梶原朔さん」


    「望美、行ってくるわ」


    「あ、待って。朔」


望美が朔を引き止める。


    「え?」


    「春日望美さん」


スピーカーから聞こえる葦原千尋の声に、望美が微笑む。


    「ね」


    「驚いたわ」


    「でしょ。私も。一緒に行こ」


    「ええ、そうね」


    「有川将臣さん」


    「ラッキー! やっと出番だぜ! しっかし、よりによって望美と同じレースとはな」


    「何! なんか文句あるの!」


    「平知盛さん」


    「げ! 知盛、お前もかよ!」


    「ククク、兄上、御一緒……させていただこう……」


    「何? 何? 鎌倉側は味方同士で何か殺気立ってるような気がする……。
     この第3レースもなんだか波乱含みの予感!

     でも、その前に、第2レースのスタートが近付いています!」















10/04/20 UP

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