いざ 大運動会! in 常世









20 第2レースのスタートです!











    「第2レースの選手を紹介します。
     まず神代チーム、ナーサティヤ、シャニ、布都彦、そして愛しのアシュヴィン」


    「やれやれ、龍の神子の『のろけ』は尽きることがないのだな」


    「そんなところが可愛いとは思わないか、サティ」


    「そんな虚けたことを。お前は真面目になるという事が出来んのか?」


    「おいおい、俺はいつでも真面目だが」


    「よいか、アシュ、シャニ。常世の皇子が3人ともでるのだ。無様なマネはできぬのだぞ」


    「はい、兄様」


    「やれやれ、たかが遊びだろう。誰が傷付くわけでもあるまい」


    「私の、いや、常世の名誉が傷付くだろう」


    「やれやれ。……こんなことで負けたところで傷付くようなヤワな名誉ものでもないと思うがな」


    「続きまして、鎌倉チームです。リズヴァーンさん。平惟盛さん。銀さん。そして有川譲君」


会場がどよめく。
「あれが」「怒れる白龍を鎮めた」「そうは見えないな」「もっと厳つい奴かと思った」等々、多くは『意外』を含んだ感嘆。


    「へぇ、譲、有名人じゃん」


    「羨ましいですか、ヒノエ。
     何と言っても譲君は、この神代の世界を、怒れる龍神から救ったヒーローですからね」


    「で、弁慶。あんたは何をしたんだい?」


    「僕? 嫌だな、僕はそんな譲君を少しサポートしただけですよ、ヒノエ」


    「へぇ、『少しサポート』ね……」


道臣が大きく手を振って、ゴールの準備が整ったことを、スターター役の望美と、放送席の千尋に伝える。
ゴール脇ではいまだに、泣きながらサザキが草や葉を仕分けしている姿はあったのだが……。


望美がスタート台に上る。


    「位置について!」


紙雷管を高々と掲げる。


    「用意!」


会場が静まりかえる。


    パァーン!


綺麗に8人がスタートした。











真っ先に紙に辿り着いたのは布都彦だった。
布都彦は紙を見るなり「え!」と絶句し、そして、何を考えたのか道臣の所に駆け寄るのだった。


続いてアシュヴィン、リズヴァーン、譲がほぼ同時に紙を手にした。


アシュヴィンは「ああ、なるほど」と言って、リブに私物の入った鞄を自室から取ってくるように命じた。


リズヴァーンは何も言わず、スタート地点に走り出した。


譲は「えぇ!!」と絶叫し天を仰いだ。
しかし譲はその瞬間に何かを思いついたようで、「そうだ」と言って放送席に向かった。







    「み、道臣殿!」


    「どうしました? 布都彦」


    「こ、これを」


そこには『白麒麟のたてがみ』と書かれた紙が握られていた。


    「『白麒麟のたてがみ』ですか……、その白麒麟は」


道臣と布都彦は同時に、『おいしいお茶』を入れようと悪戦苦闘している本部席テント奥の風早を見た。


    「現在『風早』殿の姿をなさっています」


    「…ええ…」


そう言って道臣は布都彦に視線をもどした。


    「その風早殿に、白麒麟の姿に戻っていただくことをお願いするのは、
     この競技の規則である『神の力を借りる事』に該当するでしょうか?」


    「そうですね……、白麒麟の姿になっていただけるかどうか……」


    「なっていただかないことには、私の課題は完了しようがありません。
     かといって、それが神の力を借りたのだとすれば……」


    「直接、御本人に尋ねてみてください。
     それで姿を変えるかどうかは、本人の意志でしょうから」


    「え?」


    「本人の意志であるのなら、力を『借りた』ことにはならないでしょうから」


    「そうでしょうか……」


釈然とはしないものの、布都彦は風早の元に駆けていくのだった。







ナーサティヤとシャニが紙を手にした。


ナーサティヤは表情を変えず、エイカを呼びつけ、何事かを命じた。


シャニは「え〜! 何、これ!?」と絶句した。
シャニが手にした紙には、将臣の書いた『カレー』の文字が……。







ようやく銀と惟盛が紙のところに到着した。


    「おや、これは」


そう言うなり、銀は何を思ったのかスタート地点に戻り始めたのだった。


惟盛はというと


    「な、なななんという屈辱!」


そう叫ぶと、辺りを見渡し、あろうことか将臣に向かって走り出したのだった。







放送席まで走ってきた譲が、千尋に尋ねた。


    「葦原さん、ここの学校には体育用具入れとか体育倉庫とかってありますか?」


    「ええ、体育倉庫なら、あれがそうですけど」


と言って第1コーナーと校舎の間にあるプレハブ倉庫を指さした。


    「ありがとう」


そう言うと譲は一目散に体育倉庫に走り出した。







リズヴァーンが望美の元に走り寄る。


    「? 先生、どうしたんですか?」


    「神子…、貸して貰いたい物がある」


    「はい、なんでも言ってください!」







リブに命じたアシュヴィンとエイカに命じたナーサティヤが、することもなく立っていると、
目の前でシャニが泣きながら2人の兄に尋ねた。


    「兄様、『カレー』って何??」


    「『かれぃ』? アシュ、知っているか?」


    「『かれぃ』……? ああ、確か魚の種類にそんなのがあったな」


    「え〜〜! 今から海に行って釣ってくるの? 無理ぃ〜〜!」


    「シャニ、見せてみろ」


    「これなの」


    「『カレー』? 『鰈』かれいでは無いようだぞ、アシュ」


    「ほお、『カレー』……、おい、千尋」


    「何? アシュヴィン?」


    「お前の世界のものだろう。『カレー』とは」


    「うん、そうだね。でも、こっちの世界にカレーなんて有りっこ無……
     あ! ちょっと待って。ねぇ、鎌倉側のみなさん! ここに『カレー』、あるんですか?」


    「そこのレジ袋に、レトルトが」


    「ヒ、ヒノエ」


    「ま、いいんじゃん。それにこの競技では、聞かれたら、答えるのがルールだそうだからね。
     それに料金は、ちゃんと将臣から徴収するから」


    「おいおい、俺かよ!」


    「それに、ほら。もうリズ先生がゴールに向かっているからね」


それを聞くと千尋は本部テント隣に設けられた、救護所のテント隅に置かれたレジ袋に走り寄る。


    「お前の奥方は何をしているのだ、アシュ?」


    「さあ?」


    「あ、ホントにあった!」


    「熊野の男は嘘は言わないからね」


    「『女性には』か……。いや、それとて疑わしいが」


    「敦盛……」


千尋はシャニを呼ぶ。


    「シャニ! 早く! こっち!」


    「どうしたの?」


    「これを持っていって」


    「これは?」


    「これが『カレー』よ」


    「これが『カレー』? 変なの。ねえ、『カレー』って何?」


    「この世で一番美味うまい食いもんだ」


将臣が本気とも冗談ともつかない顔で言った。


    「冗談だろ、将臣」


    「いや、ヒノエ。将臣殿は本気だと思う」


    (『この世で一番美味い食い物』!)


将臣の言葉を何度も頭の中で繰り返しながら、シャニはゴールを目指して走り出していた。


    (『美味い食べ物』……、『おいしい』……)


シャニの頭の中には、かつて譲が作った『はちみつプリン』や『クレープ』の、甘く幸せな記憶が甦った。
そして先程の騎馬戦で囓った『えびせん』の、香ばしくてパリパリした触感も。


    (ああ、この手の中にある『カレーもの』が、龍の神子おねえちゃん有川譲おにいちゃんの世界で一番おいしい食べ物……)


もはや上気した顔のシャニに、他の事は考えられなかった。


    「千尋、よくあったものだな」


    「こういう所には常備されている物なのだろう、アシュ」


こういう所……ナーサティヤは校庭に設営されたテントを指しているようだった。


    「う〜ん、そんなことはないかな」


    「そうなのか?」


    「では、どうして分かったのだ、千尋?」


    「鎌倉むこうの、確か譲君のお兄さんがさっき、この中を覗いてたから」


    「なるほど。存外、千尋も良く周りに注意を払っているな」


    「アシュヴィン、それ、どういう意味?」


    「お前がますます愛しくなったと言って居るんだ」


    「アシュヴィン……」


    「や、殿下、お待たせ致しました」


    「リブ、すまんな」


    「ま、これでよろしかったのでしょうか」


    「ああ、それだ」


そういうとアシュヴィンは鞄を受け取り、中からカチューシャを取りだした。


    「では、『ごぉる』してこよう」


しかし、そのアシュの眼に、ゴールにひた走るリズヴァーンの姿が映った。
更には、体育倉庫から何かを引きずりながら走ってくる有川譲の姿も。


    「ほぉ、鎌倉側れんちゅうも存外がんばる。
     では、先に行くぞ、サティ」


そう言うとアシュヴィンも走り出した。


    「アシュヴィン、速い! あっという間にゴールに迫る!
     シャニとリズさんと譲君とアシュ!
     一番最初にゴールするのは誰!?」











    「え〜、決勝審判の大伴道臣です。
     第1れーす同様、着順を申し上げます。
     ただ、第1れーすでもお分かりと思いますが、
     この競技は『借り物』の課題が達成されていなければなりません。
     まずは、着順のみを申し上げます。アシュヴィン殿下」


    「わ〜い! アシュヴィン、速い!」


    「続いてシャニ殿下」


    「アシュ! シャニ! 見事だ! 常世の名誉は守られたぞ!」


    「そういうサティは何をしているのだ?」


    「エイカがまだ来ないのだから、仕方がないだろう」


    「続いてリズヴァーン殿と有川譲殿が同着です。
     では、判定ですが……、こ、これは……」


アシュヴィンの手にした紙には『鼠』とある。


    「殿下、こちらにお持ちの物は??」


    「これは『かちゅーしゃ』という物だ」


    「かちゅーしゃ??? 申し訳ありませんが、鼠との関連性が私にはまったく分かりません。
     神子、お分かりですか」


    「あああ、ネイズミッチーのカチューシャ!」


千尋がマイクを握りしめて立ち上がった。望美も説明に駆け寄った。


    「道臣さん、それは私の世界の鼠のキャラクターの髪飾りなんです」


    「で、俺は今その鼠になっているというわけだ。ちなみに、これが尻尾だな」


アシュヴィンが得意げに自分の髪の三つ編みをつかんで振り回してみせる。


    「『きゃらくたぁ』?? と、とにかく、課題は達成されたということでしょうか?」


    「そうですね。オッケーです」


    「では。1着・アシュヴィン殿下!」


道臣の宣言に、観客が割れんばかりの歓声をあげ、それはいつしか「常世万歳」の大合唱に変わった。
その歓声の中、アシュヴィンに駆け寄る千尋。
アシュヴィンを含め、その場の誰もがアシュヴィンの勝利を祝福するために駆け寄ったのだと思った。


    「どうだ千尋、言ったとおり勝っt」


アシュヴィンが言い終わらないうちに、


     べしっ!


千尋の平手打ちがアシュヴィンの左頬に炸裂した。


    「ち、千尋、お前どうs」


     べしっ!


今度は右頬に炸裂する千尋の平手打ち。


    「アシュヴィンのバカっ! 私だってネイズミー・リゾート、行きたかったのにっ!」


     べしつ!


    「ま、待て、千尋。これはお前への土産とおm」


    「なら、なんでいままでくれなかったのよっ!」


試合に勝って勝負に負けたアシュヴィンであった。







会場が龍の神子の怒りに凍りついた。















10/06/17 UP

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