いざ 大運動会! in 常世
22 第2レースの着順を発表します! その2
道臣が千尋から説明を受けている。
「ああ、なるほど。ということは成立すると考えてよろしいのですね」
「はい、大丈夫です。ね、譲君」
「では」
大伴道臣はそう言うと、咳払いを1つした後に、譲の四着ゴールを高らかに宣言した。
観衆の嵐のような歓声の中、
やっとのことでゴールした(させた?)惟盛に連れられた(付き添っていた?)将臣が、譲に尋ねた。
「譲、お前、何引いたんだ?」
「これ」
と『熊』の紙を見せる。
「『熊』……。で、掃除用具の『熊手』かよ」
「漢字で書いてあったからね。だって、本物の熊なんて連れてこられるわけもないだろう」
「いやいや、御謙遜を」
「何だよ、兄さん。その言い方は」
「何でも、この世界の誰もが畏れる、荒ぶる禍神・白龍を、滅するでもなく『蜂蜜プリン』で手懐けたっていう
勇者なんだろう、お前。そんなお前が、熊の1頭や2頭、どうってこと無ぇんじゃないか?」
「どこで、そんな事聞いたんだ?」
「それが、『熊手』ねぇ」
「何だよ! なにか文句でもあるのかよ」
「OKOK、別に文句は無い。ただ」
「ただ、何だよ」
「お前、意外と親父だったんだな」
「! に、兄さんほどじゃないけどな!」
「冗談ではないですね。俺は忙しいというのに」
そう言って風早はまだ『おいしいお茶』にこだわっていた。
「ああ、せっかく上手くいきそうだったのに……。急須の中で茶葉が湯に浸かり過ぎてしまったようですね。
もう一度最初からやり直しましょうか」
そう1人でブツブツ言いながら、流しに茶器を洗いに向かう風早を見ていた千尋が思わず
「!! 風h…」
そう言いかけて口を押さえた。なんと風早の左側側頭部に十円玉よりやや小さい禿ができていたのだった。
(布都彦……、ちょっとやりすぎなんじゃない?)
『おいしいお茶』にこだわりすぎて、風早のことを少々ウザイと思っていた千尋だったが
この後ろ姿には同情を禁じ得なかった。
(神様なんだし、すぐ元通りになるよね。
それより、可哀想だから教えてあげるべきなのかな……?
でもそうすると、布都彦が風早に恨まれそうだし……)
しばし悩む千尋であった。
「第5位は布都彦!」
「道臣殿、確認はなさらないのですか?」
「大丈夫ですよ布都彦、一部始終を観ていましたから」
「そ、そうですか……」
「恥ずることは何もありません。『るぅる』という規則にも抵触していないでしょう。
布都彦の懸命な姿を見て、風早殿も協力してくださったのですから」
「あ、ありがとうございます」
「ただ……」
「え?」
「しばらくの間、風早殿は辛い思いをされるかもしれませんね」
「え!」
布都彦は道臣の真意を量りかねて、名前のあがった主・風早の姿を探したのだが
風早は茶器を洗い、茶葉を捨てに校舎内に入っていたため、その姿を視界に捉える事ができなかった。
「サティ、なにをのんびりしているんだ。もうすぐこの勝負が終わってしまうぞ」
「慌てるな、アシュ。すでにお前が1位、シャニが2位。
すでに十分に常世の名誉は守られたではないか」
「『無様なマネはできんのだぞ』とか言っていたではないか。
オレとしては、お前も3位に入って、上位独占といきたかったのだがな」
「お前も欲が深いのだな」
「いいや。サティが存外、淡泊なのだ」
「そうか…。ああ、言っているうちに、噂をすればなんとやら」
そう言ってナーサティヤが指さす方向に目を向けると
「何だ? 黒い塊が蠢くように近付いてくるぞ」
それは『棺』という衣服を纏った数十人の土蜘蛛の集団であった。
「ナーサティヤ様、遅くなりまして、申し訳ありません」
「よい。で。成果は?」
「御覧の通り」
そこにはエイカが土蜘蛛を動員し、辺りの野山から採ってきた『きのこ』が堆く積まれていた。
「ははは、すごい量だな、エイカ」
「は。すべて召し上がれる種類のものでございます」
「うむ。御苦労」
「もったいない御言葉」
「ではアシュ、『ごぉる』とやらをしてくる」
「ああ」
この堆く積まれたキノコの様子に、目の色を輝かせた者が数名いた。
「すごいな。この量なら、会場の人全員に行き渡る料理ができそうだ。
ああ、そうか。そうすると、もっと大鍋が必要になるな。
誰かに言って調達してもらわないと。それから調味料も、それと…」
そう言って駆け出す譲に、将臣は苦笑いするだけであった。
「どうしてあいつは、ああも自分から面倒な仕事を引き受けちまうのかね
ま、オレ的には、キノコ料理が食えるんだからラッキー、かな」
「…………………………………………………………この時期のキノコは美味い」
「あ、カリガネさん。調味料をさらに用意できますか?」
「…………………………………………………………『ちょうみりょう』?」
「え? ああ、塩とか醤油…じゃなくて、醤醢、だったかな、
とりあえず味を付けたり整えたりするモノです」
「…………………………………………………………分かった。用意しよう」
「助かります」
「うわ、参ったね。キノコ祭だよ、やれやれ」
そう言いいながら、口元と目尻が緩む那岐であった。
確かにこの日は、那岐以下この会場にいる全員が有川譲とカリガネによって
この時代としては極上のキノコ料理にありつくのだが
しかし翌日以降、やはり那岐以下多くの人々に、ナーサティヤとエイカは恨まれるのであった。
なぜなら、この辺りの食べられるキノコというキノコは、本当にすべて採り尽くされてしまったのだから。
「今シーズンのキノコ、もうダメじゃん!」
「と、言うことで偽りの父上なのですよ」
「偽りの?」
「ああ! どうして理解できないのです! これだから嫌なのですよ下賤の者は」
「おいおい、大伴を名乗ってんだ。平の惟盛なんかより、よっぽど由緒正しい貴族だぜ」
「なななななんですって!」
「時代が違うから冠位や階級は無いけどな。平家が絶対のお前には分からないだろうがな」
「ふん!」
「で、どうなのでしょうか。この『ぽじしょん』という言葉が理解できませんので」
「その『ポジション』って奴ぁ、『立ち位置』とか『立場』とか、『それっぽい人』ってことだ。
で、オレは惟盛の父親って扱いをしばらく受けていたんでな」
「なぜ、そのような扱いを?」
「ま、話せば長〜〜い事情ってヤツだ」
「???」
「私は認めてなどいないのですよ。そこのところだけは強調しておきますが、
父上の若い頃に生き写しなのだそうですよ」
「それは先程もお聞きしました。
しかし、それだけのことでどうして御父上の『ぽじしょん』になれるのか、そこのところが得心致しかねるのですが」
「そうなのですよ。そうでしょうとも。
ああ、やはり貴族。『大伴』の方には私の納得できない点が分かっていただけるのですね」
「おいおい惟盛、さっきは『下賤』とかって言ってたぜ」
「うるさいですね。やはり時代は違っても貴族同士は分かってくださるのですよ」
「でも、そうすると、惟盛のゴールは無効になるんじゃねぇのか?」
「え? ああ!! なな何ということ!! 私はどうすれば……! ち、父上ぇ!!」
大伴道臣は困って千尋に
「二の姫、いかがいたしましょうか?」
「う〜〜ん。……平惟盛さんのお父さんって誰?」
「困りますね、千尋。平安末期は2学期の期末試験の範囲ですよ」
いつの間にか戻ってきた風早が、千尋の後ろに立っていた。
「風早…。そうだった?」
「そうでなくても日本人の常識として、平清盛の次に一門を率いるはずだった平重盛くらいは、知っていて欲しいですね」
そう言って、風早はまた『おいしいお茶』作りに行ってしまった。
「そうか…、惟盛さんのお父さんて平重盛さんだったんだ。どうしよう??
の、望美さん、どうなのかな?」
「OKですよ」
「え? OKでいいの?」
「はい! 惟盛さんはお父さん大好きっ子だから将臣君じゃ嫌でしょうけど、ポジション的には、
将臣君が『還り内府』っていう重盛さんの立場で平家全軍を動かしていたのは事実ですから」
「そうなんですか……。譲君のお兄さんが平家全軍を……。
え? じゃあ、源氏の人達とは……」
「うん。戦ってた。ああ、もちろん『異世界』の事だけどね」
「え? え?? 確か望美さんも梶原さんも源氏側にいたんですよね?」
「そ。だから将臣君が平家の総大将『還り内府』だって知った時は、ビックリだったよ」
「そうでしょうね……、なんとなく分かります」
そういって神代の神子、葦原千尋は今は夫となっているアシュヴィンをチラリと見てから、言った。
「道臣さん、OKです」
「かしこまりました。では、6位! 平惟盛殿!」
歓声の中、惟盛当人は
「私、こ、このようなうれしくない勝利というものは初めてです!」
「ま、これでオレの『お父さんポジション』も認められたわけだな、ラッキー」
「ま、まだ、認めてなどおr」
「おめでとうございます。私達の兄上という立場が周知のこととなったのは
私達にとっても喜ばしい限りでございます」
「し、重衡……」
「……ククク、兄上」
「と、知盛まで」
「ああ、感激でございます。是非ともこれからは『兄上』とお呼びすることをお許しください
そして是非とも私達に『弟よ』との御言葉を賜りとうございます」
背中がゾワゾワする将臣であった。
そんな将臣の様子を面白がるかのように
「あ・に・う・え……ククク…。呼んでみろよ…『弟』ってな……ククク」
「ああ、是非t」
その銀・平重衡を後ろからこづき
「さっさとゴールラインをまたぎなさい!
やっと珍しく走ってきたかと思ってたのに、さっきもそこで
あそこの眼帯のおじさんに口笛の吹き方を教えながら、何だかやたらと無駄話してて」
「あちらの方とは、いかに我が愛しい姫が美しく気高くていらっしゃるかを互いに語りあっておりました
あの方の、御自身の姫を称え、喩える言葉の1つ1つに、感動を禁じ得ませんでした」
「意気投合したの?」
「滅相もございません。私などのような者と」
「意気投合、したんだ」
「あの方は私の境遇が物珍しいだけでございましょう」
「で? 口笛の方は?」
「はい。平家に代々伝わります戦場での口笛と、奥州で我が主に教えていただきました藤原式と」
「まだあるの?」
「はい。源氏式、熊野水軍式、ああ、それから南都の僧兵が使いますものも」
「でも、柊さん、一向に吹けないみたいだけど」
先程、銀と立ち話をしていた位置で、銀から教えられた様々な口笛のやり方を試していた。
「これが源氏式、フヒュゥ〜〜……、フヒュゥゥ〜〜。ああ、やはり武張ったやり方は自分には向きませんね。
この熊野水軍式というのはどうでしょう。指を2本こうして、
プピ〜〜
あ! ああ! 姫! 二の姫! お聞きいただけましたか?」
「え? 何? 柊?」
「口笛です、口笛。お聞き頂けましたか?」
「え? (まだやってたんだ)御免。聞いてなかった」
「では、お聞き下さい」
そう言って柊は恰好をつけて指を口に当てた。
「フヒュゥゥ〜〜」
「え?」
「アレ!? え〜、もう一度よろしいですか」
「……」
「フヒュゥゥ〜〜」
「頑張ってね」
そう言って千尋はグラウンドに意識を集中した。
(無視無視、気にしたらダメ)
「フヒュゥゥ〜〜。ああ、では南都式とやらで…。フゥゥゥゥ〜〜〜」
やっとのことでゴールラインをまたいだ銀は、満面の笑顔で
「ああ、神子様。お手数をおかけいたしましたが、こうして『ごおる』することができました」
「銀がさっさと走れば、もうとっくにゴールしていたわよ!」
「申し訳ございません。ああ、しかし、その叱責の御言葉すら、今の私には甘美な慈雨なのでごz」
「お話中申し訳ありませんが、どうして異世界の神子様が『甘いお菓子』となるのでしょう? 御説明いただけますか?」
そう銀の言葉に割って入った大伴道臣に
「道臣さん。どうせ大したことじゃありませんから、期待しないでください」
「私のごとき者にお気遣いをいただき、ありがとうございます」
「いえ、これが私の職務ですから。で? どうなのでしょうか」
「この神子様の華の顔を御覧下さい。
この花びらの如き愛らしい唇より出される言の葉は、この世のどんな甘美な菓子よりも甘く、
私にとって極上の甘露なのでございます」
「は? はぁ……」
「ああ、御賛同頂けないのが残念でなりません。
この愛らしさ、このしなやかさ、そしてこの清廉さ。
そのどれもが、龍の神に愛でられた女性にのみ許された至高の甘美さであり」
「ああ、あの、二の姫、この道臣、いったいどうすればよろしいのでしょうか?」
「望美さん、どうします?」
「気恥ずかしいの通り越して、ウザッ!」
「ですよね。さっさと済ませちゃいましょう。道臣さん、OKです」
「では。第7位、しろg」
その時だった。
本部テントの裏から、この世のモノとは思えないような絶叫が聞こえてきた。
「ウギャァァァァァ〜〜!!」
10/08/29 UP