いざ 大運動会! in 常世





24 間もなく第3レースのスタートです!











大伴道臣の宣言を聞いて焦ったのは、他ならぬサザキと柊であった。


    「……よぉ、よぉ! これでどうよ。
     もういい加減、勘弁してくれって。
     ホントに今までの葉っぱ、『薬草』と違うのかよ?」


    「おや、心外なことを仰りますね。
     天地神明に誓って、僕は嘘は言いませんし、ズルもしていませんよ。
     それより、あなたもいい加減、学習しない人ですね。
     同じ形の葉を分別すれば、何度も同じ葉を提示して、
     僕にその度に否定されることは、少なくとも無くなると思いますよ。
     ここにあるのは、7種類ほどの木の葉と12種類ほどの草の葉、
     それとほぼ同じ数の種類の茎や枝や根、それに僅かな種類の実や花ですからね。
     きちんと整理すれば、最悪でも40数回で終わるはずだったではないですか」


と、わざとらしく溜息をひとつついて、武蔵坊弁慶はこの上もない笑顔で言った。


    「ああ、今のあなたの御質問にお答えするのを忘れていました。
     僕としたことが、申し訳ありません。
     その、今御提示されたものも、その前と同じ葉ですからね、違います」


    「あちゃ〜〜!
     もうオレ何が何だかサッパリ分からないぜ〜!」






どこにこれ程の数の土蜘蛛がいたのだろう。
観客席の多くは、これ程の数の『棺』を纏った集団を見たことなど、生涯で初めてのことだったろう。
その黒衣の集団が去った後には、
身長の数倍はあろうかというキノコの堆く積まれた山と
何故かその山の前で腕を組み不敵な笑みを浮かべるナーサティヤの姿が、あった。


    「どうだ、アシュ。エイカは見事に任務を果たしたぞ」


    「ああ、そうだな。それにしても」


    「ん? 『それにしても』何だ?」


    「存外、土蜘蛛の連中も容赦ないな」


    「どういう事だ?」


    「分からないのなら、それでいい」


    「何だ? 奥歯にモノの挟まったような」


    「いや、別に」


    「アシュ」


    「なに、『キノコ』という指定だけなのだから、
     食えようが食えまいが、それは問題ではないのだろう。
     だったら、そこらに生えているキノコを1つ持って来ればそれで十分だったのではないか、
     と、そう思ったまでだ」


    「この山こそが、エイカの私に対する忠誠心の証であろう」


    「分かった分かった。
     では、はやいとこ、『ごーる』をまたいでくれ」


    「そうだな。では」


意味もなく堂々とナーサティヤがゴールラインを通過し、それに呼応して道臣が


    「第8位、ナーサティヤ殿」


と高らかに宣言した。






    「やっと、やっと長かった第2レースが終了しました……。
     ああ、……そっか、まだ第1レースは終わってなかったんだっけ」


そう言って、千尋は溜息まじりにゴール横を見る。
そこに見えるのは、弁慶のアドバイス(?)を受けながら、
せっせと葉や草を仕分けしているサザキの半泣き姿と





あれ?
柊は?


    「? 柊……」


    「ここに控えております」


    「え!?」


慌てて千尋が振り向くと、放送ブースの後方に顧問の先生のようにパイプ椅子に柊は座っていた。


    「いったい、いつから?」


    「先程のシャニ殿下の騒動が終わってからでしょうか」


    「それから」


    「ええ、それ以来ずっと」


    「気が付かなかった……」


    「この柊、我が君にお気づきいただけないことを、哀しく感じておりました。
     『我が君、どうかお気づきください』と、先程から心の中でずっと叫んでおりました」


    「心で叫ばなくていいから、声に出してね。で?」


    「さて? 『で?』とは?」


    「口笛よ、口笛。出来るようになったの?」


    「ハイ。何のことはございません。コツを少しだけ失念していただけのことで。
     思い出しさえすれば、もはy」


    「じゃ、お願いね」


    「我が君の御所望とあらば、この柊喜んで」


    「御所望じゃないけど、課題だから」


    「では」


    「……? どうしたの」


    「いえ、我が君はどの口笛がお好みかと、しばし思案いたしておりましたので」


    「『どの』って?」


    「はい。古来より、この中つ国での吹き方が御所望か、それとも、
     かの異世界より参られし銀殿より御教授賜った
     『源氏式』『平家式』『奥州式』『熊野水軍式』『南都式』と、さまざま取りそろえてございます」


今もそうなのだが、時々千尋は、この柊という男は、
向こうの世界で初めて出会った時から、わざと自分をイラッとさせて喜んでいるのではないか、
と、そう思えてならないのだった。
極力それを顔色に出さないようにしながらも、漏れ出てしまう不快感が、自分でも分かる。


    「どれでもいいから、早くして」


その不快感を知ってか知らずか、柊はフッと笑い、深々と頭を垂れてから


    「ピィィ〜!」


と高らかに口笛を吹いた。
それだけに留まらず


    「ピーーィ!」


と人差し指と親指を丸めて唇にあてがい、指笛まで披露した。


    「いかがです、我が君」


    「いいんじゃない」


    「ありがとうございます。
     先の口笛が古来よりの中つ国方式、後の指笛が銀殿より御教授


    「道臣さ〜ん、OKですよね」


    「はい、確認いたしました。
     柊殿の『ごーる』、認定されました」


     賜りました『熊野水軍式』というものでありまして。
     このように指を丸めまして」


    「柊殿、ゴールは認められました。
     これ以上は、姫の職務を妨げることになるかと存じますが」


    「ああ、これは失礼いたしました。
     なにせ、この指笛、思いの外、高らかな音色が出まして、嬉しかったものですから」


頭を垂れて、柊が観客席の方に去っていく。


    「柊……、指笛出来て、嬉しかったんだ」


千尋は、ほんの少しの罪悪感と、大部分を占める解放感とで、大きく息をして
次に、マイクに向かって言った。


    「え〜、では、次のレースのスタート前に、
     最終、第4レースに出場される者を招集しますので、
     名前を呼ばれた人は、招集ゲートに集合して下さぁい」


歩み去っていく柊は、時々まだピィィとかピーーとか鳴らしている。
溜息をつかずにはいられない千尋であった。


    「え〜、まず鎌倉チーム、弁慶さん」




    「ああ、招集がかかってしまいましたね。
     申し訳ありませんが、僕が戻るまでにこの草や葉の仕分け、終わらせておいてくださいね」


    「え、え〜! 行っちゃうのかよ」


    「仕方が無いと思いませんか。
     それに手間取ったのは、あなたであって、僕ではありませんし、ね。
     (今も、そうやって律儀に種類で分けていらっしゃいますが、
      『薬草』という指定なのですから、草以外の、花や実や樹皮や葉は仕分けなどせず
      躊躇わず捨ててしまわれれば、確実にもっと効率的でしょうに……、やれやれ)」


    「ん? 何ンか言ったかい?」


    「え? いえ、何も。
     では、行って参りますので、くれぐれも僕が戻るまでに」


    「分ぁったって!」




    「梶原景時さん」




    「ワァオ! いよいよだねぇ〜」


    「景時さん、頑張ってください」


    「譲君〜! 応援ありがとっ! 頑張っちゃうからね〜」




    「藤原泰衡さん」




    「銀、出る」


    「はは、御武運を」


    「お前と御曹子の前だ。無様なまねなどできようか」


    「はい。いざとなりましたら、この銀、及ばずながら御助力申し上げる所存で」


    「ホオ、偉くなったものだな。このオレが、7位のお前に助けてもらうだと」


    「申し訳ございません。出過ぎたまねを」


    「その通りだ。手出しなど一切無用」


    「御意」




    「そして平敦盛さん。
     すご〜い、ホントに日本史の教科書に出てくる人達ばっかりだ」




    「敦盛、オレは1位だったからね。お前も1位でゴールしてくれよ」


    「ヒノエ…」


    「敦盛、最善を尽くすのですよ」


    「兄上…。分かりました。私とて武門の子。最善を尽くしましょう。
     いざ! 平敦盛、参る!」




    「続いて神代チーム、リブさん」




    「や、いよいよですな」


    「ああ、リブ。1位になれよ」


    「や、殿下、それは、ちと始める前から荷の重い御言葉」


    「応援してやるから」


    「は、出来る限り、頑張りますので」


    「ああ、期待している」




    「足往」




    「うわぁぁ! いよいよだよ! 神様、変な紙、引きませんようにぃ」


    「足往、頑張れぇ!」


    「シャニ、ありがとう」




    「そして、那岐」


    「わざわざ、そんなにマイクを通して言わなくてもいいんじゃない。
     もう、僕しか残ってないんだからね」


    「そんなこと無いもん」


    「え?」


    「最後は、葦原千尋」


会場内から『龍の神子様』コールが沸き起こる。


    「やっぱり出るんだ」


    「当然」


    「あ〜ぁ、なんか嫌な予感がするな」


    「那岐、どういうこと?」


    「別に。あ〜ぁ、ホントに何やってんだろ、ボク」


    「私は第3レースの実況が終わり次第そっちに行きますから。
     それ以外の人は大至急、招集ゲートに集合してください。
     では、お待たせしました。間もなく第3レースのスタート……あ!
     スターター……」




    「そうだ、どうしよう、朔。朔もあたしもこのレースに出場するから」


    「そうね、どうしましょう、望美」


    「誰か……。って将臣君も一緒だし」


    「困ったわね」


    「将臣君、スターターやってからレースに参加しない?」


    「無茶言うな、いきなり、なんてぇハンデにするんだよ」


    「あれ? 勝つつもりなんだ」


    「おいおい、お前な。そもそもはお前が賭けに負けたことを認め無ぇから」


    「あ、大丈夫みたい」


    「こら! 人の話を聞け!」


    「え? あ、譲殿」


    「こんなことだろうと思いましたからね」


    「ありがとう、譲君」




    「ホント、良くいろんな事に気がつくよね、有川君。
     梶原さん、いい彼氏で羨ましいです」




    「だってさ、朔」


    「もう、葦原さんも望美も。知りません」




    「私の旦那様アシュヴィンなんて、気がきかないというか鈍感というか」




    「おいおい、とんだところでこっちに矛先が向いたものだな」


    「ま、愛されておられる証拠ですな」


    「うるさいぞ、リブ。いいからお前は早く招集場所に行け」


    「や、ハハハ」






    「では、準備、いいですか」


全員がスタートラインで頷く。


    「第3レース、走者をもう一度紹介します。
     鎌倉チーム 春日望美さん、梶原朔さん、有川将臣君、平知盛さん

     神代チーム エイカさん、黒麒麟さん、遠夜、カリガネ、

     以上の八名によって争われます。
     それでは、譲君、お願いします」


    「はい。じゃぁ……いきます。位置について」


会場が静まる。


    「用意」


     パン!


    「号砲一発で綺麗に全員がスタートし……てない!」
何故か、会場から声援に混じって、失笑が聞こえる。


    「知盛さん、歩いてるの?」


    「これだ! 知盛! 走れ!」
    「知盛!」
    「知盛殿!」


スタートの合図である紙雷管の破裂音と同時に、勢いよく飛び出した鎌倉チームの望美と将臣、朔は、
千尋の実況と同時に、振り向いて叫んだ。


    「走るのは……、性に…合わない……。ククク」


鎌倉チームが知盛を諦めて前を向くと、そこには
いつの間にか女性から本来の姿に戻っている黒麒麟と、
羽を拡げて飛ぶでもなく走るでもなく、敢えて言えば跳ぶようにして走るカリガネが
エイカと遠夜を左右から抱え、すでにコーナーを曲がり終えて紙を目前にした状況だった。


    「チィ! 迂闊だったぜ」


    「まだまだ! 勝負はこれからよ!」



    「ええ、望美!」


    「ククク……」















10/12/07 UP

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