いざ 大運動会! in 常世
25 第3レース、スタートしました!
神代の4人は一団となって借り物の書かれた紙の場所に到着した。
その中でも、真っ先に紙を拾い上げたのはエイカであった。
すぐさま、紙を開く。
「! こ、これは……」
と絶句し、ほんの少しの時間だけ(しかしエイカ本人にとっては永遠と思えるような一瞬)俯いて考え、
いや、考えは紙に書かれた文字を見た瞬間に考えついていたのだが、
それを実行する決断と勇気を絞り出す時間が必要だったのだ。
エイカは決断した。
さて、相手はどういう反応をするのだろう
そう、ほくそ笑みながら。
そして、その後は……、目標を視界に捉え、そして駆け出すのだった。
次に紙を拾い上げたのはカリガネだった。
「……………………………………………………………………許せない」
カリガネにしては珍しく怒気を露わにして、手にした紙を握り潰した。
投げ捨てようとしたのだが、その刹那に、大伴道臣の首を横に振る姿が見えた。
こんな茶番、辞めて西に旅立とう。
そうも思えるのだが、龍の神子がその神の力を以て自分(とサザキ)を呼び寄せたのだ。
怒りにまかせて行動して、彼女を哀しませるわけにもいかないだろう。
しかし
手の内にある紙をゆっくりと拡げ、書かれた文字をもう一度見る。
見間違いであってくれたならば
信心というものから縁遠い自分だが、今は何かに祈りたい気分だった。
しかし
見間違いなどではなかったのだ。
これを書いた者をありったけ罵倒し、呪い、切り刻んでやりたい気分だった。
怒髪天を突く
それはこういう気分のことなのだろうと、妙なところで納得した。
彼の紙に書かれた文字、それは
『龍の鱗』
隣のカリガネが何やら怒りを発している。
遠夜は足下の紙を拾うことも忘れて、自分に何か出来ないかと考えた。
しかし、良い案が浮かぶ前に、カリガネは何処かに走り去ってしまった。
仕方なく手近の紙を拾い、
次に、どこに行くべきなのかを今度は考えた。
人間、そう呼べるかは若干疑わしい土蜘蛛と日向族と共に、その場所に到着すると黒麒麟は、
瞬時に人の形に戻る。
これを人間は『女』と呼ぶ。
もう1つの『男』という種類の人の形になるより、現在守護している常世の皇子は機嫌がいい
ゆっくりと紙をつまみ上げる。
なんだ、容易いことではないか
人間が、ああもバタバタと慌てふためいているのが理解できない
これが神と人間の違いなのか
そう思うと、借り物を手に入れるために、また黒い麒麟に戻って駆け出した。
「けっこう離されちゃったね」
「勝負はまだまだだぜ。借り物競走は、何を引くかによるからな」
「ああ、難しいモノを引きませんように」
「それにしても知盛の野郎」
「ま、歩いてるだけまだマシだよ、将臣君」
「だな、OK……って言いたいケドよ、望美」
「何?」
「お前、いったいいつ平知盛と会ったんだ?」
「え? チモ……、そ、それは……」
「妙に親しそうに話しかけてるじゃねぇか」
(え〜と、このルートは大団円からのルートだから……、壇之浦は無い…よね??
あれ? 熊野の夏って、どのルートだっけ?
裏熊野で「共に一指し」って……??)
「そ、それより、ほら、早く! 紙を拾って!」
「あ? おお、OK! 良いのが出ますように」
「どう? どうなの? 何て書いてある?」
「将臣殿、なにやら神籤を引くようだわ」
「ま、似たようなもんだろ……、来い! よっしゃ! 『桃』!」
「え〜? この季節で〜? しかもこの時代に、桃なんてあるのかな?」
「何!? そうか……。チィ! ラッキーカードだと思ったんだけどなぁ。
こっちの世界の誰かに、ちょっと聞いてくるぜ」
と将臣は本部テントの方に走って行った。
望美は少しだけホッとして、足下にまかれた紙を見て、そして朔の方を見た。
朔も同じだった。
「朔」
「ええ、望美」
2人は頷いて、同時に紙を掴み、開く。
「『花束』!」
「ああ、何かしら、これは」
「え? 朔は何だったの」
「『新しい文字』、これってどういう意味なのかしら?」
「鎌倉チームじゃ無いよね、これ書いたの」
「ええ、皆で全員の書いた物は確認したのだから、間違いないわ」
「じゃあ、神代の人だったら……。朔、耳貸して」
「え? 何? 望美」
誰もいなくなった紙の場所に、ようやく到着した知盛がつまみ上げた紙は
「ほう、これはこれは……ククク……『残り物に福』……なのだろうな」
そう言ってほくそ笑むと、突然走り出し、観客席を目指す新中納言であった。
「えぇぇ! 新中納言殿が、走っているなどと! 信じられませぬ!」
「こ、惟盛殿、私、生まれてこの方、知盛殿の走る姿など見たことがありませんでした」
「経正殿、私とて、同じですよ。
というよりも、あの方も走ることは出来たのですね。
どの戦場でも、ゆるりと歩いて行かれるので、よもや走れないのではと懸念していたのですよ」
「まさか、走れないなどと」
「いえ、本当なのですよ。
あの気の短い薩摩守でさえ、イライラを通り越して、本当に心配していたのですから」
「忠度殿が……。そんな知盛殿が、何故走っていらっしゃるのでしょう」
「分かりませんね。ただ、不吉な事の前兆なのではないのでしょうね」
「ま、まさか……」
「ナーサティヤ様」
「おお、エイカ。何か貸して欲しい物があるのか?」
「はい」
「何だ」
「先ずは、私めと一緒にお越し願えませんでしょうか」
「かまわぬが」
「ありがとう存じます」
「さては『王族』とか『皇子』とか書いてあったのだな」
「いえ」
「では……、ああ、『主人』とかか」
「いえ」
「何だ違うのか……」
「……」
「『尊敬する人』とか」
「……」
「分からん。その紙を見せてみろ」
「それは……、『ごーる』をしましたならば」
「『ごーる』してからのお楽しみ、か」
そういって2人はゴールラインを通過した。
「1番にゴールラインを通過したのはエイカ!
ちょっと意外な気もするけど、道臣さんの判定を待ちましょう!」
「確認をさせていただきます」
エイカは大伴道臣に紙を示した。
脇からナーサティヤも道臣の手にした紙を覗きこむ、と
「笹百合だと!」
と思わず叫んでしまったのだった。
「笹百合」「笹百合かぁ」「ナーサティヤ様に……」「笹百合だってよ」「え〜〜、エイカが」
観客席のざわめきが次第に大きくなっていく。
「弟殿下の真似にございます」
「お前が」
「はい」
「オレに」
「はい」
『棺』の黒衣に下でエイカが微笑する。
「アシュは中つ国の二の姫という女性にしたのであろう」
「『ごーる』認定いたします!」
割れんばかりの大歓声と拍手。
中には「エイカ、おめでとう」「ナーサティヤ様、お幸せに」などといった祝福めいた声も聞こえる。
「オ、オレは認めんぞ」
「それは……残念です」
「『笹百合』とは男が愛おしく思う女性に、だな」
「それは……、偏見です」
「認めん、断じて認めん!」
そう言ってサティは元居た席に戻って来た。
にやにや笑いながらアシュが、サティに言う。
「存外、サティも素直でないのだな」
「なにがだ、アシュ」
「エイカの告白を、どうして受け止めてやらんのだ」
「お前……」
「まぁ、これだけ公衆の面前での既成事実だ、エイカもやるじゃないか」
「認めんと言っt」
「さぞかし、エイカとて勇気が要っただろうに」
「え? ……そうなのか…」
「何故、常世の皇子が『笹百合』なのだ?」
「九郎」
「ああ、家紋か。源氏が笹竜胆を家紋とするように、常世の王族の家紋は『笹百合』なのだろう」
「違うと思いますよ、たぶん」
「弁慶、どうしてそう思うのだ? 教えてくれ」
「僕も正確なところは分かりかねますが、どうも状況から推測して、
『笹百合』とは求愛の象徴なのではないでしょうかね、こちらの世界では」
「求愛の象徴? ああ、あの給料3ヶ月分の指輪という奴か?」
「君はどうして、そういうしようもない知識だけは知っているんでしょうね」
「え? そうなのか?」
「二の姫様、エイカ殿第1位の宣言を。……? 姫様?」
今までなら間髪を入れず実況放送で着順を述べる千尋が、何も言わずにいるので
道臣は不思議に思い、放送を促したのだが
千尋は俯いたまま、何かをブツブツとは言っているのだが、それがあまりに小声なので良く分からなかった。
「姫様?」
良く見ると、千尋は耳どころか首筋まで真っ赤になって俯いている。
「何でみんなに『笹百合』のことバレてるの? どうせまた、アシュヴィンがペラペラしゃべったんでしょ。
どうせ他のみんなもおもしろがって大袈裟に言いふらしたに決まってるんだから。
だいたい、こういう事って二人だけの秘密にしておきたいのに。もう、信じらんない!」
「やれやれ、どうしたものでしょう」
「千尋、どうしたというのだ。お前の声を皆が期待しているのだぞ」
この状況にまったく頓着しないアシュヴィンが千尋に近寄って言う。
と、突然
「アシュヴィンのバカァ!!!」
とマイクをつかんで大音響で千尋が叫んだ。
あまりの声の大きさにスピーカーはハウリングを起こし、
キーンという残響音を、スピーカーからも耳の中からも、神代の人々は経験したのだった。
「そういうところが、また、可愛いのだがな」
「もう、いいかげんにしてよっ! エイカ、第1位、認定されました!」
「千尋、また声が怒ってますよ」
「だって、風早ぁ」
「まあ、このお茶でも飲んで。
アシュヴィンは、君のことが可愛いくて、もうからかいたくてしようがないんですよ」
「おいおい、オレは子供か」
「あまり違うとも思えませんがね」
ちょうどその時、ゴールラインを朔が通過した。
「あ! 梶原朔さん、2番目で通過! 道臣さん、よろしく」
「はい、確認させていただきます」
「これなので、紙と筆を」
「え? 『新しい文字』…ですか」
「はい」
「しかし、これは……。二の姫様、いかがいたしましょう」
「え〜と、その文字を新しいと認めるか認めないかは遠夜に頼むつもりだったんだけど」
「その遠夜殿は」
「まさか同じレースに出場してるって事は考えなかったから」
「つまり、遠夜殿を連れて来られよ、と…」
言い終わらないうちに朔は遠夜を探しに走り出してしまった。
「あ、朔さん。ゴールで待っていれば……。行っちゃった」
冷静さを取り戻して、千尋がグラウンドに目を向けると
何故か朔さんのお兄さんと、淡い水色の服を着た男の人が逃げ回っている。
良く見ると、朔さんのお兄さんは黒麒麟に追いかけ回されているようだ。
黒麒麟の引いた紙に、何て書いてあったんだろう?
千尋はすごく気になった。
黒麒麟は、神様なのだ。
間違いはないだろうが、それにしても、彼に関するどんなことが書かれていたというのだろう?
神代の紙に書かれたものに、特にそのようなものは無かったはずだ。
ということは鎌倉チーム側?
彼らの誰が何と書いたというのだろう?
水色の人はカリガネに追いかけ回されているのだが、その理由は少しだけ聞こえてくる。
「………………………………………………………………それを」
「これは渡せないよ」
「それ」とは、何を指しているのだろう?
その後ろから、遠夜がカリガネを追いかけている。
更にその後ろから、梶原さんが遠夜を追いかけている。
何なのだろう、この追いかけっこ?
? あれ? 望美さんと将臣君は??
見渡したが、グラウンドのどこにも見えない。
どこに行ったのだろう?
そう言えば、もう1人いたはず……、あ、平知盛さんだ。
ちょっと恐そうな人だけど、あの人も望美さん達とどこかに………
! いた、観客席。
観客席で常世や中つ国の人達と車座になって何か飲んでる??
「このレースも、どうなっちゃうんだろう!」
10/12/11 UP