いざ 大運動会! in 常世
26 応援は応援席でお願いします!
「桃ぉ! ラッキー」
そう叫ぶと将臣は、第4レース出場者の招集場所に走り込んできて
「敦盛!」
と叫んだ。
「将臣殿? 何か?」
「お前らの買ってきた、例のスーパーのレジ袋の中に『桃』は無ぇか?」
「桃? 桃は……」
「こんな季節だ、贅沢は言わねぇ。
こ〜んなちびっとケーキの隅っこに具として乗っかってんのでも、
「モモ天」か「ネ○ター」みたいな飲み物でもOKだ」
「いや、残念ですが」
「思い出してくれ!」
「いや、思い出せと仰られても、無い物は」
「クゥ……そうか、悪ぃ。あればラッキーだと思ったんだがな」
「お力になれなくて、申し訳ない」
「仕方無ぇな。他を当たるか」
そう言って走り出そうとした将臣に声をかける者がいた。
「有川兄」
「アシュヴィン殿下?」
「何をしている?」
「借り物競走に決まってんだろう」
「で、お探しの品は?」
「ああ、桃だ」
「なんだ『桃』か」
「『なんだ』? ラッキー! その口ぶりじゃぁ、どこにあるか知ってんだな」
「いや、俺は知らん」
「なんだよ、期待するじゃねぇかよ!」
「俺は知らんが、リブなら」
「それを先に言え! で、そのリブってぇ奴はどこにいるんだ!?」
「お前、有川と違って、存外せっかちだな」
「競技中! 競技中って言ってんだろ! 焦って当然!」
「やれやれ。リブ、いるんだろう」
「や、ここに」
「有川兄に『桃』の在処を教えてやれ」
「や、桃……ですか? あの桃のことで?」
「ああ、あの桃だ」
「……ま、かまいませんが」
「ありがてぇ」
「や、しかし、よろしいのですか」
「よろしいも何も。一刻を争ってるのは知ってるだろう。出し惜しみしないで教えてくれ」
「や、出し惜しみしているとかといった意味ではなくてですね……」
「本人がこう言っているのだ。かまわんだろう」
「や、分かりました。……ま、それに運が良ければ、ですから」
「へ? 運? 桃って、こっちの世界じゃ、運が良くないと手に入らないのか?」
「や、こっちの世界というか、こっちの世界とはちょと違うというか……
ま、運が良くないと、生きて帰っては来られないところにある、と言うべきでしょうか」
「へ!? その『桃』の在処って?」
「ま、黄泉比良坂の先をちょっと行ったところです」
「おいおい、冗談だろ?」
「冗談? 冗談などでは無い」
「それって無っ茶苦茶ハードル高くねぇか? おい」
「や、はぁどる?? ま、お教えしますから、急いだ方がいいでしょう」
「マジ!?」
そうして将臣はリブに教わった場所を目指して走り出していった。
「あの」
「や、何でしょう。弁慶殿」
「後学のためにお聞きしたいのですが、黄泉比良坂に桃の木などあるものなのでしょうか」
「や、桃の木ですか? ま、それは見たことありませんな」
「え? では、どうして将臣君にそのような場所を」
「ま、それはですな、イザサギ尊の昔より比良坂を越える時には
黄泉の眷属共の追撃を追い払うには、ま、桃の実を投げつけるというのが」
「ああ、それは知っていm……、え? その投げ捨てられた桃を拾いに行ったのですか、将臣君は?」
「ま、そういうことになります」
「大丈夫だ。黄泉比良坂の桃は不思議と腐らんから」
「僕が心配しているの、そんな事では無いのですが……」
「ま、将臣殿……」
「まあ将臣君なら大丈夫でしょう。心配は無用だと思いますよ、敦盛君」
「そうだろうか……。そうだと良いのだが」
「運動会の競技だろ! なんで命がけにならなきゃぁならねぇんだよ!
オレのだけノルマが厳しすぎるだろう!」
そう走りながら愚痴る将臣であった。
「な、何なのかな〜〜! こ、この黒い麒麟は〜」
そう言いながら、梶原平三景時は懸命に逃げていた。
自分に対して害意の無いことは分かっていた。
その上、理由も見当は付いていた。
たぶん、自分か自分の持っている何かが目当てなのだ。
借り物の紙で、それをこの黒い麒麟が引いたのだろう。
だから、立ち止まって振り返り、笑顔で
(はいは〜い。で〜、御入り用なのは何かな〜)
と友好的に尋ねればいいのだ
が、しかし
景時にはできなかったのだ。
人でない異形の姿で(例え馬に似た四つ足だったとしても)
無表情で(目つきや表情からは決して生き物としての感情が感じられない、と景時には思え)
黙々と(人には分からない言葉を発しているのかも知れないが、神ならぬ身の景時には分からない)
自分を追いかけてくるモノには、本能的に、そして精神的外傷として、恐怖を感じる景時だった。
「式!」
しかしノタリと現れた式のサンショウウオは、何の役にも立たなかった。
「あああ、そうだよね〜! と、遁甲〜!」
「げ、幻術〜!!」
「きゅ、急急如律令!」
「オンバサラウンケン!」
前を走る人間は、一見愚鈍そうで、簡単に捕らえることができると思ったのだが
人間という種類の中では足の速い方らしい。
その上、意外なことに、不思議な術を次々と繰り出してくるので、
黒麒麟の姿でもなかなか距離が縮まらないのだった。
この私を少しでも本気で走らせることになろうとは。
今現在、守護している人間と、その伴侶となった女という種類の人間以外にも、
先程の騎馬戦で相手をした長い髪の女といい、目の前の男といい、
人間とはなかなか面白い生き物だ。
なるほど白麒麟が入れ込むわけだ
そう思うと、黒麒麟はのんびりとスキップでもするように、
しかし傍目には恐ろしいほどの加速をした。
「千尋ちゃん、ちょっと協力して」
本部テントに駆け込んできた望美に、千尋は
「何でしょう?」
と、風早から渡された茶を啜りながら尋ねた。
「その髪飾りのお花、ちょっと貸して欲しいんだけど」
「え? ええ、いいですよ。はい」
「ありがと! 後できっと返すからね」
そう言い、慌ただしく走り去っていく望美に
「あ! 望美さん! そっちはゴールじゃないですよ!」
「いいのいいの!」
春日望美は、なぜか千尋の髪飾りを手にしたまま、
鎌倉側の人々が集まって声援を送っている応援席の一隅に向かって、走っていった。
「あんた、いい飲みっぷりだね」
「まあ、な……ククク」
「こんなところで酒飲んでて、いいのかい?」
「あんたのお仲間、けっこう走り回ってるぜ」
「仲間? ……さあな」
「おいおい、もう飲み干しちまったのかい?」
「ひえ〜、ホント、酒ぇ強いね」
「ククク、こちらの酒も……なかなか、いける」
「お、分かるかい。こいつぁ常世1の銘酒だぜ」
「それにしても、『れぇす』とかいうの、大丈夫なのかい?」
「これがオレの……借り物の『れぇす』さ……」
「またまた」
「よく言うよ。あんた、顔マジだから信じちまうよ」
「ククク……マジ……なのだがな」
望美は千尋から髪飾りを貰い受けると、次に
「惟盛さん!」
と平惟盛のところに駆け寄った。
「何ですか。田舎娘が容易く人の名を呼ぶなどと」
「その髪飾りの花を貸して下さい」
「断ります。これだから雅を解さぬ下賤の板東娘は嫌なのです。
それにこれは髪飾りではなく烏帽子飾r」
「ごめんなさい! 緊急事態なんです」
そう言うと望美は、有無を言わす間もなく惟盛の烏帽子から梅桜を奪い取っていった。
「ヒイ〜〜! こ、これだから!! ゆ、許しませんよ、田舎娘!」
「惟盛殿、どうかお気をお鎮めください。神子様も懸命なのです。
まぁ、やり方は少々乱暴でしたが」
「そうでしょう、経正殿」
「しかし、これは競争という名の戦です」
「戦……」
「お味方をお助けするのは、やはり、武門の長であるあなたにしか、できないのでなございませんか?」
「そ、そうでしょうか……」
「ええ、だからこそ、神子様も惟盛殿のところに加勢を求めに参られたのでしょうね」
「そ、そうでしょうね。ホホホ、そうならそうと、はっきりと申せばよいものを」
千尋の髪飾りの花と惟盛の烏帽子飾り?の梅桜を手に、次に望美が向かったのは
「九郎さん!」
「何だ?」
「手を貸して!」
「ああ、俺に出来ることなら何なりと」
「その髪紐、貸してください」
「え、こ、これは」
九郎の返事を待たず
「御免なさい! 急いでるの!」
とやはり惟盛の時と同様に、有無を言わさず
後頭部を鷲掴みにして髷を束ねていた紐を奪い取って行った。
「痛! 望美! 髪の毛までむしり取る気か!」
「ごめん! 後で返すから!」
そう言って走り去る望美を見送る九郎の頭は……
「九郎、これを使うといいでしょう」
弁慶がそっと走り寄って、薬袋を締める紐を抜き取って渡した。
「髪の毛、爆発したように、凄いことになっていますからね」
「ヒュ〜、まるでペルセウスに襲い掛かるメデューサみたいじゃん」
「め、めでゆさ? 何だそれは?」
「つまらないチャチャを入れないでください、ヒノエ。
さ、九郎も早くまとめてしまってください」
「すまん弁慶、恩に着る。
しかし、望美の奴、情け容赦の欠片も無い!
まったく、あれでは嫁のもらい手などおらんぞ」
「それが神子姫の魅力の1つじゃん」
「ま、君も人が良いというか、何というか」
「どういうことだ? 弁慶」
「如何に望美さんでも、本気で君が抗ったら、
こうも容易く髪紐を手に入れることはできなかったでしょうからね」
「競技中だからな」
「やれやれ。それにしても、二人三脚競技の時も思いましたが、
君も髪の毛に妙にこだわっていますね。伸ばしすぎではありませんか?」
「坊主の弁慶が、その髪で言う?」
「おいおい弁慶、お前が言うのか?」
「おや、お2人、仲が良いですね」
「遠夜殿! お待ちを! 遠夜殿!」
朔は遠夜に『新しい文字』を見てもらおうと懸命に遠夜の後を追いかけた。
しかし、その遠夜は
「(カリガネ、大きな鍋を貸して。……ああ、私の声はカリガネに届かない)」
と、カリガネから『大鍋』を借りようと、声にならない声で叫び続けていた。
しかし、そのカリガネは
「………………………………………………………………それを」
と、目の前の白龍の喉に見える逆鱗を求めていた。
しかし、その白龍は
「無理無理、逆鱗は絶対に渡せないよ〜!」
と、逆鱗を取られるわけにはいかないので、それこそ必死で逃げ回っていた。
そこに、白龍の目の前を横切った望美が叫んだ。
「白龍、こっち!」
「神子! ああ、私の神子! 助けて〜」
「一緒にゴールするよ! 私の傍を離れないで!」
「分かった!」
「おいおい、どんどん暗くなってねぇか?
こんな携帯のライトくらいじゃ、足下すら分からねぇぞ」
リブに教えられた近道で黄泉比良坂を、桃の落ちていそうな所へと下って行った。
そんな将臣を見つめる無数の怪しげな目が……
11/05/21 UP