いざ 大運動会! in 常世
27 判定が出るまで少々お待ちください!
多少なりとも本気になった神に、残念ながら抗う術など梶原平三景時にはなかった。
黒麒麟が楽しそうにギャロップをした(ように、周りの人々には見えた)瞬間に、
景時との距離は無くなっていた。
「嘘ぉ〜! あ〜〜!!」
黒麒麟の伸ばした首が、景時に近づいた。
よせばいいのに、直後の気配を察した景時は、振り向いてソレを確認してしまった。
その瞬間、
無表情な(神ながらの感情はあるのかもしれないが、神ならぬ景時には分からない)黒麒麟の瞳と
ほんの10数pという景時にとっては致命的な至近距離で、遭遇してしまったのだった。
トラウマと現実が混同して、
人間以外のモノに対する恐怖が景時の中で最高潮に達した。
「! #$%&'!!!」
景時が人生の終焉を予感したその時、
恐怖で閉じられない景時の眼前で、黒麒麟が女性に変化し
「共ニ、来ヨ」
と優しく微笑むのだった。
神ならぬ身ながら、人としては不幸なことに陰陽の才に長けていた景時には、しかし
美しい女性の姿の向こうに、神としての異形が見えてしまうのだった。
この様子は景時本人以上に、本部席の2人を驚かせた。
「嘘! 黒麒麟って、喋れるの!?」
マイクがあることを忘れて、千尋が叫ぶと、
「信じられませんね、黒麒麟が人語を発するなど」
千尋の湯飲みに茶を注ぎ足そうとしていた風早は、危うく急須を落とすところだった。
「ねぇ! アシュヴィン! 今の、聞いたでしょ!
アシュ…… ?? あれ? アシュヴィンはどこ?」
「無ぇな……、桃なんてホントに落ちてんのかよ?」
そう独り言を呟きながら、
消えかかってはいるが左手に持った携帯のライトで意外と平坦な足元を照らしながら進む、
有川将臣であった。
「やっべぇ……、夕べちゃんとチャージしておけばよかったぜ。
携帯の電池、あと少ししか無ぇぞ」
待ち受け画面の電池残量は1本しか示していない。
「運動会の借り物競争で、まさか黄泉比良坂に来るなんてよ! ありえねぇだろ」
ゴソ
ジャリ
「チチチチ」
「キキキキキキキ」
「! なんだ!?」
将臣は背中の大太刀の柄に右手をのばした。
しかし、そこに太刀があるはずもなく、のばした右手は虚しく宙を漂った。
「チィ! こいつぁヤバイかな……」
気を失いかけている景時を、抱えて黒麒麟はゴールに跳躍んだ。
それとほぼ同時に望美と、
望美に手をひかれた白龍、
その白龍を追うカリガネ、
更にそのカリガネを追う遠夜、
更に更にその遠夜を追う朔という奇妙な追いかけっこの一団も
望美の巧みな誘導で、ゴールラインを嵐のように駆け抜けた。
その様子を冷静に確認して、大伴道臣はあくまでも事務的に宣言した。
「黒麒麟殿、春日望美殿、カリガネ殿、遠夜殿、この順でゴールいたしました。
順位につきましては、姫様の判定を待って決定いたします。
では先ず、梶原朔殿」
「え? 私でよいのですか?」
「はい、あなたのゴールは先程で認定されておりますので。では、紙をこちらに」
「千尋さん、何か書くものをお貸し願えませんか」
「あ、は〜い」
そう言うと千尋はシャーペンと便箋を差し出した。
「ありがとうございます」
そう言うと、朔は何かを便箋に書き、『新しい文字』の紙と共に道臣に差し出した。
2枚の紙を見比べた道臣は、首を傾げ
「これが……新しい文字…ですか」
「道臣さん、その判定は遠夜にしてもらってください」
「なるほど。では遠夜殿」
そう道臣に促されて、遠夜は2枚の紙を見た。
次の瞬間に、どこから取り出したのかフルーツの入った篭を朔に差し出した。
「梶原朔殿、ゴール、認定されました!」
道臣が高らかに宣言した。
場内から割れんばかりの拍手と歓声が起こった。
「こ、この篭は??」
「朔さん、遠夜の気持ちですから、受け取ってあげてください」
「???」
「遠夜は、新しい文字を教えてくれた人にフルーツをプレゼントするんです」
「そうなの……。では、遠夜殿、ありがとうございます」
「(………………………………『弾けるような喜び』と『やる気にあふれた元気』を感じる)」
「ええ、そうね」
「道臣さん、遠夜は『すっごい喜び』と『やる気満々な元気』を感じるって言ってます」
「その篭が出た時点で、ある程度は察してはいました」
「え?? 遠夜とかいう奴は何か喋ったのか?」
「さぁ? オレには聞こえなかったけどね、九郎」
「ヒノエは、男の声など、耳には入らないのでしょうね」
「弁慶……。まぁね、野郎の声なんざ興味ないね」
「おや、敦盛君の前で、そんなことを言ってもいいのでしょうかね」
「!」
「ところで朔さん、何を書いたんですか?」
朔は便箋に書いた ヾ(≧∇≦*)ゝ と 0 (^_^) 0 の顔文字を見せた。
「あ! 千尋さんにとっては新しい文字では無いわ!」
「大丈夫です。もう遠夜が認めたんですから。『新しい文字』でOKです」
「それでいいのかしら?」
「懐かしいな、顔文字。向こうにいた頃は毎日、携帯でメールしてたな」
「この顔文字は、毎日のように望美がメールで送ってくるので、覚えてしまって」
「アハハ、望美さんらしい」
「では、続きまして、黒麒麟殿! 紙をこちらへ」
黒麒麟は無言で道臣に紙を渡す。
「『護符』?? ? この方は護符ではないと思いますが」
その道臣の言葉を聞きつけた景時が、その場にへたり込み
「ご、護符ぅ〜〜!?
なんだ〜〜、それなら、そう言ってくれればいいのに〜〜 アハハ〜〜〜」
腰が抜けたのか、気が抜けたのか、その場にへたり込んだまま、
それでも景時は懐から護符を数枚取り出して、道臣に差し出した。
「これが護符? ですか?
申し訳ありませんが、我々の世界のモノとは違いますので、私には判断しかねます。
姫様、いかがいたしましょう?」
「それっぽい気もするけど、私も見たことないからなぁ」
「ああ、それは破邪符ですね」
「風早、分かるの?」
「これでも一応、日本史の教員ですからね」
「へぇ、日本史の教員だと陰陽の護符が分かるんだ、初耳だね。
他の日本史担当の山口たちが知ってるとは思えないけどね」
「那岐、先生を呼び捨てにするのは、どうかとおもいますよ」
「いつまで先生ぶってるの? やれやれ……。ま、どうでもいいけど」
「黒麒麟殿、ゴール、認定されました」
場内から割れんばかりの拍手が起こった。
「兄ちゃんもそろそろ戻った方がいいんじゃねぇか?」
「さて………、ククク、面倒だな……」
「ほれ、この酒、持ってってええから」
「いや……、結構……」
「だってよ、兄ちゃんのそれにゃ『酒』って書いてあんじゃねぇけ」
「ククク、……気遣い、痛み入る…」
「だったらよ」
「されど……、気遣いは無用……ククク」
そう言うと、新中納言は大儀そうに立ち上がり、ゴールに向かって歩き出した。
「大丈夫なのかのぉ、あの兄ちゃん」
「ま、本人がああ言っとんだから」
「あれ?」
「どうしたんじゃ?」
「酒、無ぉなっとるぞ」
「バカ言え、こっちの瓶子はまだ開けとら…?……開いとる……な」
「こっちもだ」
「これも」
「おい! 全部、空じゃぞ!」
「あの兄ちゃん」
「あいつ、何が『気遣いは無用』じゃい! 全部、飲んでいきよって!」
「なんじゃい! 飲むモンが無ぉなったから帰っただけじゃないのか!」
「それにしても……凄ぇ」
「ああ、……ウワバミじゃな……」
11/09/09 UP