いざ 大運動会! in 常世
29 召集場所では、コース審判の邪魔にならないよう、腰を下ろしていてください
「ハァァァ〜、もう何が何やら俺様にはサァァァアァッツパリ、分からねェ!!」
そう言うとサザキは投げやりに、草や木の葉や茎や樹皮が堆く積まれた山の上に、仰向けに倒れこんだ。
「まず、草以外はすべて捨ててください! いいですか!」
「……ぁぁ」
仰向いたまま、サザキは力なく右手を挙げて合図した。
すると
「ああ、そうですね。それなら『薬草』として認められますね」
「へ??」
サザキ自身は、自分をいたぶって楽しんでいるのだとばかり思っていた金の髪の男が、
唐突に承認宣言をしたために、一瞬、何のことか分からなかった。
「サザキ、おめでとう。道臣さん、判定を」
実は挙げた右手の甲に、意外と大きな草の葉が一枚貼り付いていたのだった。
「分かりました。
弁慶殿、間違いありませんね」
「ええ、間違いありませんね。あれはツワブキです。
火にあぶって柔らかくしてから、細かく刻んだり揉み出した汁は、
打撲や切り傷、湿疹、吹きでものに効き目があります。
これは、葉に含まれたヘキセナールによる抗菌作用のためです。
また、乾燥した根茎を煎じて飲めば、食あたりや下痢に効k
「わ、分かりました。薬効についてはまた別の機会にお願いします。
今のお話だけでも十分に薬草だということは理解いたしましたので。
では、サザキ殿の『ごぉる』、認定されました」
「へ? い、いいの? ホント!?
やったぜぇ!! ヒャッホウ! 姫さん、どうよどうよ!」
「おめでとう、サザキ。でも、今度からはもっと手際良くしてね」
「了解、了解ぃってね、ハハハ」
「………………………………………………バカサザキ、お前は『第1れぇす』だ」
「続きまして、遠夜殿。……遠夜殿? どうされました?」
「…………(ああ、俺の声は千尋以外には届かない。神子、助けて)」
「遠夜、紙には何と書いてあるの?」
と、千尋が放送席から叫んだ。
「…………(ああ千尋、『大鍋』と)」
「だから、一番可能性の高いカリガネを追いかけていたのね。
カリガネ、大鍋を貸して!」
「………………………………………………他から借りるために有川が書いた。
………………………………………………借りていないから、オレは持っていない」
「え〜、困ったな。譲君、「大鍋」持ってませんか」
「計画が裏目に出ましたね。困ったな。
俺が欲しかったんで書いたから、当然持ってないんですよ」
「そうかぁ……」
「じゃぁ、こうすればいいんだよ」
そう、千尋の横から望美の手がのびて、マイクを掴むと
「会場の皆さぁ〜ん! こちらの世界の神子が困ってます!
大きな鍋が必要です!
大〜っきな鍋をお持ちの方は、大至急、千尋ちゃんの処に持ってきてあげてくださ〜い!」
「いいのかなぁ?」
「いいの、いいの。さっきも言ったけど、ギャラリーの協力はOKだから」
「じゃあ、鍋が届くまで待ってようか、遠夜」
「…………(分かった)」
「道臣さん、遠夜の順位は鍋が届いた時に決定するっていうことにしませんか?」
「ニの姫、御異存はありませんか?」
「はい、そうしましょう」
「分かりました。それでは、遠夜殿の順位は鍋が届いた時点で決定いたします」
観客達は「鍋ぇ、早ょぉ持ってきてやれや!」とか「姫様のためじゃぞ!」とか「中つ国万歳!」とか、
思い思いに叫んでいた。
武蔵坊弁慶は考え込んでいた。
(確か、鎌倉側の書いた借り物は、ほとんどが引かれたと思いますが……)
この借り物競争が始まる前に、鎌倉側で集まって書いたものを、弁慶は指折り数えて思い出していたのだ。
(……と、なると、まだ出ていないのは、望美さんの『甘い物』と朔殿の『菓子』……。
でも、これは確か意味が被るからと言って、何やら相談されていましたね。
どう変えたのかが分からないのは、困ったものです。
後は……、ああ、リズ先生の『種』がまだでしたね。こちらの世界に『種』ですか……。
どういう種類の『種』がどこにあるのかすら、皆目見当もつきませんね。
……いや……、
……ああ、その手がありましたか。僕としたことが……)
傍から見ると横になって微睡んでいるようにしか見えないが、那岐は考えていた。
(ナーサティヤの『ナマズ』は、忍人が、
リブの『美味しいお茶』は、風早が、
アシュヴィンの『笹百合』は、エイカが、
黒麒麟、というよりアシュヴィンが書いた『白麒麟のたてがみ』は、布都彦が、
自分で書いた『キノコ』すらナーサティヤが引いた。
これじゃホントに自分たちで自分たちの首を絞めてるようなもんじゃない、やれやれ。
他のは……、シャニの……『熊』、ああ、これは有川がダジャレで『クマデ』だったっけ。
布都彦の『琴』は、あのリズ先生とかいうデッカイおっさんが引いたんだっけ。
遠夜の『文字』も、千尋の「甘いお菓子」も、エイカの『一番愛らしい方』も終わってる。
じゃぁ、後、残ってるのっていうと、
……サザキの「舟」、シャニの「えびせん」、風早の「花器」、それと、カリガネの「卵」か。
那岐はもう一度、指折り数えてみて、
(あれ? もう一つ……。
ああ、忍人の「一番強い者」……か。
でも、これってどういう基準? 嫌だなぁ、これ引いちゃったら……。あ〜あ、面倒だ)
会場全体が鍋待ちの様子でくつろいでいた。
「御くつろぎのところ……、悪いのだがな……、
……オレも『ごぉる』とやらを……させてもらおうか。ククク」
「で、あなたの紙は何でしょう?」
「紙? ……ああ、これのこと……か?」
と知盛はクシャクシャになった紙を道臣に渡した。
道臣は、その紙のしわを丁寧に掌でのばし、眺めて
「『酒』ですか。で? 品物はどちらでしょう」
「品物……か……ククク」
「見たところ、何もお持ちではないようですが」
「……まあ、な」
「それでは、ゴールの認定は出来かねますが」
「持ってはいないが……、ここに……ある」
と、知盛は自分の腹を指さした。
「『ここ』とは、腹の中、ということでしょうか」
「ククク、中つ国の酒も、……甘露……だったぜ」
「ニの姫、いかがいたしましょうか?」
「え〜、借り物競争って実際の品物がないとダメでしょう」
「当たり前! 知盛! さっさとお酒、持ってらっしゃい!」
「信じてもらえない……のか。……つれないことを言う女どもだ……」
「姫の仰るとおり、品m、な、何をなさr」
「ハァァァ……」
と、知盛は道臣に酒臭い息を吐きかけて
「腹の中にあるのが匂いで……、分かるだろう……ククク」
「う、酒臭……」
「……お前も……認め、グ!」
「知盛! 道臣さんになんてことするの!」
走り寄った望美に殴られて、知盛は片膝をついた。
それを見た源氏側は、知盛が望美に逆襲することを恐れた。
「ま、まずいよぉ〜望美ちゃぁ〜ん…
平知盛って言えばさぁ〜、平家にその人ありと知られた剛の者でしょぉ〜。
そんな人を後ろから殴るなんてさ〜」
「そうだ、望美! お前という女はどうしてそうガサツなんだ!」
「九郎。景時が言っているのは、そんな事ではないと思いますよ。
それにしても……、望美さんは、新中納言殿と何時、ああも親しい間柄になったのでしょうね」
逆に平家側は、
「新中納言殿は、一度たりとも敵に後ろを取られたことないお方のはず。
ああ、やはり龍神の神子さまは人智を超えたお方なのですね、敦盛」
「いや、あれは『人智を超えた』というよりは『限度を知らない』と言うのではないだろうか。
ああ、やはり神子はこういうことには容赦の無いお方なのだな」
「ク……、獣のような女………だな」
「あんたのせいで敦盛さんに『容赦無い』って言われちゃったじゃない!」
「ああ、……大夫殿は上手いことを言う……」
「いいから、とっとと『酒』を持って来なさい!」
「やれやれ……、面倒だな……ククク」
そう言いながら、新中納言平知盛は、先ほどとは反対側の応援席に歩いて行くのだった。
「なななんと! 知盛殿ともあろうお方が、なにも仕返しを為さる事無く引き下がるなど
信じられません。……あの小娘、知盛殿とどのような……」
と踊り場探索から戻ってきたばかりの惟盛は、
前後の事情が分からないだけに、この状況に驚きを隠せなかった。
「の、望美ちゃぁ〜ん。だ、大丈夫なのかい〜??」
「大丈夫です。まったく知盛の奴、相変わらず」
「『相変わらず』ですか?
はて? 僕の記憶では、望美さんが八葉以外の平家方と接触したことは無かったかと」
「え? え〜と……(裏熊野は…弁慶さんは知らないんだっけ? この話のルートって、え〜っと)」
「望美さぁん! お話し中ごめんなさい! でも、どうします?」
弁慶との会話に割り込むのを躊躇いながら、千尋は知盛を見やって言った。
「放っておいていいよ、千尋ちゃん。
ちゃんと運動会をやらせようとする方が無理だと思うから」
「えぇ!? そうなんですかぁ?」
「いいの、いいの。
向こう側の応援席でも飲んだくれるだけで、借り物競争なんて、はなっからやる気無いんだろうし」
「じゃぁ、知盛さんは、万一、お酒を持って戻って来たらゴールを認定するってことで」
「千尋ちゃん、優しいね。どうせ知盛、戻って来る気ないとおもうけど」
「ああ、オレの千尋は、存外優しい女だ」
「え〜、存外ってどういう意味? って言うよりどこに行ってたの、アシュヴィン?」
「寂しかったか?」
「おいおい、のろけるのは後にしてくれ」
「兄さん!」
「将臣君!」
「将臣!」
「還内府殿!」
「へへへ、真打のご帰還だぜ」
13/01/13 UP