いざ 大運動会! in 常世









第13話 凶器の使用も失格ですよ!











西に神代チーム。

北から第一騎馬、前にナーサティヤ、両脇がエイカと柊で、騎手はシャニ。



    「兄様! エイカと柊もいて、常世最強だね」



    「おお、常世の皇子からそのような御言葉を賜り、この柊、恐縮至極に存じます」



    「シャニ、第3皇子としての腕の程、見せてみなさい」



    「はい! 頑張ります!!」







第二騎馬は、前に忍人、両脇が布都彦と那岐で騎手は当然? 足往。



    「忍人様! おいら、がんばります!!」



    「葛城将軍! 私も全力を尽くします!」



    「布都彦、足往、心してかかれ」



    「はい!」

    「はい!」



    「あ〜あ……、何で僕がこんなことを…、やれやれ」







第三騎馬は、前に風早、脇をカリガネとサザキという日向族が固め、騎乗するのは……。



    「ヒャッホゥ〜って言いたいけど、上の女性さん、誰だ?」



    「………………………………………知らない女だ」





    「ハハハ、お前達分からないのか? 存外、冷たい連中だな」



と、愉快そうに隣の騎馬のアシュヴィンが話しかける。

そのアシュヴィンの騎馬に乗る千尋がムッとして、前のアシュヴィンの頭を叩きながら言う。



    「ええぇ!? アシュヴィンの知りあいなの〜! 誰なのよ〜!!」



    「おいおい、千尋、お前も分からないのか?」



    「知らないわよ! 誰誰誰誰誰!? アシュヴィンのバカッ!!」



    「千尋、落ち着きなさい」



    「だって風早!!」



    「別に、アシュヴィンの肩を持つつもりはありませんが、この人は、千尋もよく知っています」



    「そういうことだ」



    「え???」



千尋はマジマジと隣の騎馬に乗る女性を見つめた。

どこか無表情に千尋を見返すその顔に、確かに千尋は見覚えがあった。



    「誰だろう…???? う〜〜ん」



    「分かりませんか?」

    「分からぬのか?」



    「え? ?? …! あ! 風早に似てる……。って、風早の妹さん?」



    「どうして妹って決めつけるのですか? 少し不愉快ですね」



    「風早って、老けて、あ、えぇと、大人っぽいから、かな」



    「で、あっちが年下だと決めつけたんですか」



    「ゴメン。お姉さんなの?」



    「もう、いいですから」



    「ははは、残念だがハズレだ」



    「え〜〜」



    「惜しいところまではきていたのだがな、千尋」



    「惜しいもんですか、全然違います」



    「???」



    「昨日もこいつに乗ったではないか」



    「?? 乗った? ……って、え! 黒麒麟!?」



    「ああ、そうだ」



    「え? 黒麒麟も風早みたいに人の姿になれるんだ」



    「ま、麒麟ですからね、お互い。

     ただ黒麒麟が人に変化するなど、聞いたことはありませんでしたが」



    「俺の特訓の成果だ」



    「時空を跳ぶ特訓をしたり、人に変化するように特訓したり、無茶させますね。アシュヴィンは」



    「そうか?」



    「でも、どうして『女性』なの?」



    「『男』ではつまらんだろう。黒い風早が見たいのか?」



    「私は『女性』だから、ちょっと面白くないの!」



ポコっとアシュヴィンの頭を、千尋は小突く。



    「ハハハ、ま、俺も敢えて『女』にと命じたわけではない。こいつ自身の好みなのだろう」



    「『白』が男性で、『黒』が女性ってことなのかな? ねぇ、風早」



    「聞いたこともありませんね、麒麟に性別があるなんて?」



    「え? じゃあ、風早、女の人に変身できるの?」



    「お望みとあらば」



    「う〜〜〜〜ん、見たくない!」



    「でしょうね、やれやれ」



    「結局は、アシュヴィンの好みに黒麒麟が合わせてくれてるんじゃないの!?」



また、ポコポコっとアシュヴィンの頭を、千尋は小突く。



    「千尋、お前は存外、可愛い奴だな」



    「フンッ! アシュヴィンのバカァ!」



    「やれやれ、その怒りは、相手騎馬にぶつけて欲しいモノですね」





    「痴話喧嘩はそろそろ終わりにしてくれねぇかな、姫さんよぉ」



    「……………………………………馬に蹴られるぞ、サザキ」







第四騎馬には、アシュヴィン、脇が遠夜、リブで、騎手は千尋。



    「や、相対するのは、黒龍の神子、ですね」



    「ああ、一番無難だろうな」



    「ま、そうですね」



    「………(油断はしない方がいい)」



    「油断しない方がいいって、え? 梶原さん、強いの?」



    「………(2人の神子は似ている。強い…)」



    「望美さんに似てる??」



    「おいおい、見たところ真逆だろう」



    「『気』もちょうど正反対ですね」



    「気になると言えば、あっちの2人も『龍』の前に『白』と『黒』が付くのが」



    「そう。それは確かに最初から気になっていました。

     千尋は単に『龍の神子』、対するあちらは『白龍の神子』と『黒龍の神子』……」



    「『黒』が女性で、『白』が男性?」



    「ああ、なるほど。つまりあの春日望美は実は」



    「えぇ〜〜!!」



    「だから、違いますよ。アシュヴィン、千尋。しかも麒麟ではなく、龍の神子ですから」



    「聞こえたよ! 私が何? 男だって言いたいの!?」



    「OK!OK! その推論はあながち間違いとも…」



望美は隣の騎馬から、無言で将臣に跳び蹴りを入れた。



     オオ!!



場内から、望美の見事な蹴りに対する歓声と拍手、

それ以上に、味方にも容赦のない異世界の『龍の神子』に対する驚愕の声が起こる。



綺麗に着地した望美は、何事もなかったかのようにまた、自分の騎馬に乗った。



    「先輩! やりすぎですよ! 兄さんが転けたら、朔まで怪我するでしょう!」



    「あ、そうだった!朔、ごめんっ!!」



    「わ、私なら大丈夫よ、望美。それより、将臣殿が…」



    「将臣君も、女の子に言っちゃダメだよ〜〜。朔だったら『月影氷刃』かけられてるよ〜〜」



    「兄上! 余計なことは仰らないでください!」



蹴られた右顎を赤くして将臣は、それでも騎馬を崩さないよう、騎手を落とさないよう、

一瞬、遠のきかけた意識を、足を踏ん張って持ちこたえた。



    「くぅぅ……! 痛っってぇな! 望美!! 何を……」



言いかけた将臣だったが、望美の怒気に気圧されて、口をつぐんでしまった。



    「フン! 今度言ったら、本気で花断ちをお見舞いするからね! 将臣君」



    「わ、分かった……」







    「千尋は、あっちの神子2人分強いということか。お前、存外強いのだな」



    「え〜〜、そんなことないもん!」



    「おいおい、褒めたんだぞ」



    「それって褒め言葉じゃないっ!」



    「そんなものか?」



    「俺に聞かないでくれますか?」



    「………(力は3人とも同等)」



    「そうなんだ。勝ち気で活発な望美さんに比べて、梶原さんって内気でおとなしそうな人なのに」



    「ま、一瞬垣間見せた、あの兄に対する怒気はただ者ではありませんでしたからね」



    「リブさん」



    「それは俺も思いましたね」



    「や、さすが、風早殿ですな。ま、女性は見た目だけでは、分かりませんから」



    「ハハハ、リヴの女性観だそうだ。では千尋はどうなのだ、リブ?」



    「や、それは、殿下の方がお詳しいはず」



    「ああ、そうだな。……確かに、見た目だけでは分からんな」



    「アシュヴィーン どういう意味?」



    「ハハハ」











    「それでは、各騎馬の点検をさせていただきます」



大伴道臣が高らかに宣言した。



    「え!? て、点検って……」



    「聞いてないよ〜〜〜!」



    「やれやれ、だから止めておいた方が良いって言ったのに…」



宣言後、道臣は鎌倉チームの騎馬に近付いていく。



    「ヒャッホウ! そうそう、やっぱ道臣さんは分かってるねぇ〜、しっかり点検してくれよ!」



    「ああ、なにせ勝つためなら手段を選ばぬと言い切った神子の手勢だからな。

     念には念を入れて欲しいものだ」



    「その鉄扇は危険なので、一応お預かりさせていただきましょう」



と道臣は、第四騎馬・騎手の朔の扇を指摘した。



    「そうそう、紙を丸めたモンでポコポコやってる中で、鉄扇たぁ、きついぜ! お嬢ちゃん」



    「別に、私は使うつもりはありません!」



    「それから、その紙刀はダメです」



    「え〜〜どうしてどうして〜??」



    「兄上」



    「それはもはや紙と呼べる代物ではありません」



そう言って道臣は

出来る限り長く丸め、その強度の補強のためにガムテープで巻き固めた将臣特製の紙刀を没収した。



    「将臣殿、だから止めた方がよろしいのではと申しましたのに」



    「兄さん! どうするんだ!」



    「アンラッキー!! ちっ! 道臣さんよ! 刀が無くて、どうしろって言うんだよ!」



    「御安心下さい。こんなこともあろうかと、私も紙刀を作っておきましたので」



そういって、道臣手製の至極安全な、

つまりは二、三度素振りするだけでふにゃふにゃになるような紙刀が渡された。



    「無いよりはまし…、ですわ」



そう言って梶原朔は気丈に、対峙する騎馬の上に乗る葦原千尋を見据えた。





望美騎乗の第三騎馬は、道臣の点検で何の問題も無かった。



    「フフフフ……」



不敵な望美の黒い微笑を見て、アシュヴィンが言った。



    「あの笑いの裏には何かある。あちらの『白い』龍の神子は存外、危ない奴だな」



それは神代の誰もが思っていたことだった。







    「こちらも第四騎馬と同じ紙刀ですので、これと交換をお願いします」



    「な、なぜだ!」



    「ま、いいんじゃん、九郎」



    「ヒノエ! お前は勝とうと思っていないのか?」



    「反則して勝っても、何の自慢にもならないからね。さ、どうぞ」



紙刀を交換しながら、道臣が付け加えた。


    「それから、その懐の石飛礫いしつぶてもお渡しください」



    「え? ……な、何のことかな」



    「とぼけても無駄です、さあ」



    「……」



    「反則して勝っても、何の自慢にもならないのではなかったのですか」



    「チッ、やれやれ。上手くいくと思ったんだけどな」



    「ヒノエ君、せこっ!」



    「神子姫様にだけは、言われたくなかったね。あ〜あ」







    「な、何ですか、これは!」



道臣にしてはめづらしい怒声に、一同は視線を第二騎馬に移した。

そこには、おどおどとして所在なさそうに小さくなっている騎手・平敦盛の姿があった。



    「このようなものを使ったら、怪我人では済まなくなりますよ!」



道臣が重くて、両手でも抱えるのを諦めて、地面に投げ捨てた『紙刀』は、

地面に落ちた瞬間に重い金属音がして、小石を粉砕して転がった。




知盛が、どこから手に入れたのかは不明だが、鉄の棒に新聞紙を巻き付けただけのものだったのだ。

敦盛があまりに軽々と片手に持っていたので、道臣も危うく見逃すところだった。

ただ騎手の敦盛の、困ったような何かを訴えかけるような必死の表情が気になって、道臣は戻ったのだった。



    「そ、そうなのだ。それは、私も申し上げたのだが……」



    「『えきさいてんぐ』……だろう、ククク」



    「何が『えきさいてんぐ』ですか! 没収です!!」



    「チッ……、つまらん…な」



遠くから千尋が



    「凄ぉ〜い。道臣さん、『エキサイティング』って言葉の意味、分かるんだ!?」



    「いえ、まったく分かりません」



    「千尋、驚くのは、そこなんですか?」



千尋と道臣の会話を聞いて、忍人達の騎馬には緊張が走った。



    「て、鉄の棒! ええぇぇ〜〜〜!!」



    「足往、もう取り上げられたから! 大丈夫だから!」



    「いくら手段を選ばないとは言っても、限度はあるだろうに!

     これはもう、戦だな。

     布都彦、足往、心してかからないと、本当に怪我をするどころでは済まなくなるぞ」



    「は、はい! 葛城将軍!」

    「え〜〜!!」



    「やれやれ……、完全に最初の陽動作戦に呑まれちゃったってところかな」



    「陽動?」

    「作戦?」



    「いくら手段を選ばなくても、あんな鉄の棒、ばれないわけないんじゃない?」



    「それは…」



    「しかもあんなに訴えかける顔までしてさ。だから、ばれるのは織り込み済みさ」



    「では」



    「戦はビビッた方が負けってこと」



    「そうか! 那岐、そういう事なのだな。分かった!」



    「やれやれ、正攻法で突っ込むだけの将軍で、良く今日まで軍が無事だったものだね」



    「何!」



    「それよりも」



    「『それよりも』? 何だ?」



    「あの騎手、オドオドしてるようだけど」



    「手の内が露呈して困っているのだろう」



    「織り込み済みの手の内がバレて、困る? あ〜あ、分かってないな」



    「だから何をだ」



    「道臣が持つのを諦めたような鉄の塊、あの子、指3本で軽々と振ってたんじゃなかったっけ?」



    「え? そうだっ……たか…、そう言えば」



    「あの子の力の方が、脅威なんじゃない?」



    「足往、負けるな!」

    「ガンバレ! 足往!!」

    「ま、祈っててあげるよ。やれやれ…」



    「え〜〜〜、無理無理無理〜〜〜!!」







    「各騎馬、用意!」



点検が終わり、試合の用意が道臣によって、高らかに告げられた。







    「無理〜!! 絶ぇ〜〜対、無理ぃ〜〜!!」



足往の叫びは、競技開始の号砲と観客の絶叫に掻き消されたのだった。











09/07/06 UP

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