いざ 大運動会! in 常世









14 両チーム、頑張ってください!











競技開始の号砲が鳴る。



真っ先に駆け出したのは忍人を先頭とした足往の騎馬だった。



    「他の騎馬も俺達に続け!」



    「将軍! な、那岐殿が……」



    「那岐! 馬となる3人が呼吸をあわせなければ騎馬として駆けることができないだろう!」



    「あぁ〜あ、分かってないな。

     向こうが突っ込んで来ていないのに、こっちから単騎で飛び込んだら囲まれて終わりだからね」



    「しかし、中つ国が常世に遅れをとるなど、許されることではないだろう!」


    「はいはい。でも、騎馬戦これって早く『えびせん』を割られた方が勝ちって競技じゃないよね」



    「しかし!」



    「ま、お好きにどうぞ……。けど、君、プライドと心中するタイプだね。僕の趣味じゃない」



    「『ぷらいど』? 『たいぷ』? おい! いいから走れ!」



そう言って、真っ直ぐに正面の敦盛の騎馬を目指した。







    「恐れ知らずにも、真っ直ぐに突っ込んで来ますよ! ホホホ」



    「ククク……、おもしろい……」



    「兄上、どういたしましょう」



    「相手はまだ子供。ここは一旦、戦わず引くのも……」



    「兄弟そろって……お優しいことだ……。

     で…? 己の手は汚さずに……、誰に……その役を押しつけるのだ……?」



    「そ、そのようなことは……」



    「経正殿! 逃げるなどと、冗談ではありませんよ! 

     こんな田舎武者相手に背中を見せるなど、それこそ平家の名が廃れます!」



    「わ、私は…どうしたら……。

     ああ、騎馬を組んで対峙した時から、こうなることは分かっていたはずなのだ……、しかし」



    「……来る」



知盛がそう言い終わらない内に、騎馬全体に激しい衝撃が走る。

忍人の騎馬が、その全速力で知盛めがけてぶち当たって来たのだった。



     ガツ!!



鈍い激突音がした。しかし、知盛はその衝撃と圧力に耐えた。



    「3人がかりの全力での体当たりに耐えるとは、なかなかやるな!」



    「……さあな…」



鳩尾に肩から突っ込まれる事など、知盛の生涯でも初めてといえる。

この屈辱に対し知盛の性格からすれば、間髪入れず、術の2、3発はぶち込みたいところだったが

生憎と右手は惟盛と、左手は経正と騎馬を組んで繋いでいるためにできなかった。



    「ちっ……面倒だな……」



これを挑発と受け取った忍人は



    「ならば! これはどうだ!」



と騎馬3人の勢いを込めて突進し、知盛の鳩尾めがけて膝を蹴り込んできた。



    「踏み込みが……甘い」



知盛は自らの腹筋で忍人の膝蹴りを受け止めると、そのままの姿勢から忍人の軸足を薙ぎ払った。

しかしその知盛の足蹴を忍人は踏ん張って耐えたのだった。



    「ほお……、…おもしろい…」



    「そんな蹴りごときで膝を着くとでも思ったのか」



    「……ククク、いいさ……楽しみはこれからだ……」







    「忍人様も頑張られているんだ! おいらだって!! えい! えい! えい!」


足往が闇雲に振り回す新聞紙かたなを、敦盛は軽くいなしはするものの、しかし、それ以上の為す術を見つけられずにいた。



    「わ、私は……、どうすれば……」











    「千尋」



    「何?」



    「鎌倉の連中は、何故かかってこぬのだ?」



    「多分、躊躇ってるんじゃないかな」



    「ホォ、どういう事だ?」



    「私とシャニと足往じゃない、上に乗ってるの。ま、黒麒麟は分からないけど。

     向こうの上に比べてかなり戦力的に落ちると思う」



    「まぁ、そうだろうな。しかし、『どんな手を使っても勝ちにいく』神子の軍としては、存外、お優しいことだな」



    「あと考えられるのは」



    「何だ」



    「集団戦法……」



    「なるほどな。その方が真実味がある」



    「源の義経さんはいるし、運動会の騎馬戦経験者も3人いるから」



    「こちらとてお前と那岐、それに風早で3人だが…。フフフ、まぁそうだろうな」











    「やれやれ、見ていられないね」



    「ヒノエ! よそ見をしているな! こっちも来るぞ!」



    「九郎、言われなくても分かってるって」



    「何か策があるのかもしれません。御用心下さい」



    「銀」



    「これはさしでがましい事を申しました。御容赦下さい」



    「ここは、御曹子と熊野別当殿のお手並みを拝見させていただこう」



ナーサティヤの騎馬が激しく九郎の騎馬に激突する。

というより、騎馬の先頭のナーサティヤが、相手騎馬の先頭の九郎に激しく体当たりをしたのだった。



     ガツッ!!



    「グゥッ!」



    「ほぉ、オレの体当たりをまともに受け止めるとは、お前も少しはできるのだな」



    「なかなか良い一撃だ。だが、まだまだ甘い!!!!」



そう言うと九郎はその場で一歩踏み込み、ナーサティヤの鳩尾に肩から当たった。



    「やれやれ、策もなにもあったもんじゃないね。騎馬が熱くなっちゃダメじゃん」


と九郎を見下ろして溜息をついたヒノエを狙って、新聞紙かたなが振り下ろされた。



    「えい!」



シャニの渾身の一撃は、それでも軽くヒノエにかわされる。



    「えい! えい!! 逃げるな! 当たれ!」



    「シャニ! 頑張れ! 常世の皇子としての力を示すのだ!」



九郎と肩と胸をぶつけ合いながら、ナーサティヤがシャニを鼓舞する。



    「はい、兄様! 頑張ります!」


シャニは一層激しく新聞紙かたなを振り下ろす。



    「やれやれ」



    「ヒノエ! 何を躊躇っているのだ! これは戦なのだろう! 情けはかえって相手への侮辱だ」



    「ホォ、常世以外にも骨のある奴がいるのだな」



    「ああ、そういう貴公こそ、なかなか!」



    「我が名はナーサティヤ、常世の第1皇子だ」



    「皇族か。俺の元いた世界の皇族より余程、骨がある」



    「お前の名は?」



    「俺は源九郎義経!」



    「名乗りなんか上げてないでくれるかな。じゃ、九郎、終わりにしていい?」



    「そう、さっきから言っている!」



    「と、言うことなんで。悪いね、坊や」



    「えい! えい! お前なんかに! え?」


シャニが驚いたのは、ヒノエが新聞紙かたなを投げ捨てたからだった。



    「ハンデってことで、許してくれるかい」



    「『は、はんで』?? バ、バカにするな!!」


シャニが何十回めか新聞紙かたなを振り下ろした瞬間、

ヒノエの右手が伸び、シャニの額の『えびせん』を綺麗に割った。まるで、デコピンをするように。



  パリッ



    「あ! ……兄様、やられた……」



    「シャニ、急いでもう1つの『えびせん』を付けるのだ!」







    「え!? それって……」



    「き、聞いてないぞ!」



鎌倉のすべての騎馬に動揺が走った。







すかさず道臣が、マイクを手に説明し始める。



    「え〜、常世騎馬のシャニと足往の2人につきましては、身長的に不利と判断いたしまして、

     二の姫、並びに鎌倉の両龍神の神子とも相談の結果、

     『えびせん』の追加使用を1枚認めることとなっております」



    「おいおい! 神子姫!」



    「望美! そういう事は先に言っておけ!」



    「甘い! 九郎さんもヒノエ君も! これは戦よ! 相手の戦力をなめたら負けるの!」


    「って言っても、これじゃ、鎌倉こっちに不利じゃん!」



    「このぐらいのハンデ、どうってこと無いでしょ、ヒノエ君!」


    「分かった分かった。やれやれ、こんな事なら新聞紙かたな、カッコつけて捨てなきゃ良かったかな」







    「ククク、相変わらず……面白い女……だ。そうは……思わないか……、大夫殿」



    「わ、私は……」



    「これだから源氏の田舎娘は嫌なのですよ」



    「こ、惟盛殿……」



    「敦盛、安心なさい。

     言葉ではこのように仰られていても、実は惟盛殿も神子様が気になってしかたないのですよ」



    「ああ、そうなのですか。分かりました、兄上」



    「じょ、冗談ではありませんよ! 経正殿」



    「ほら、お顔が紅くなられた」



    「経正殿!」







    「シャニ! 勝機だ! 早くもう1つの『えびせん』を」



    「……兄様、ごめんなさい」



    「シャニ!?」



    「ナーサティヤ様、どうかシャニをお叱りになられませぬよう」



    「柊……? どうして」



    「兄様、この『えびせん』、すっごく香ばしい匂いがしてて、その……食べるとパリパリしてて、美味しかったんだ」



    「く、食ってしまったのか」



    「うん、足往と2人で……」







道臣が再びマイクに向かう。



    「シャニは『ハンディキャップ』を自ら放棄したものと判断いたします。

     よってシャニの騎馬は敗退となります」



    「な、何故だ!」



    「兄様、ごめん……なさい」



    「ナーサティヤ様、ここは潔く諦めましょう」



    「無念……」











    「神子姫、これでサプライズなハンデは無くなったね。ま、最初は驚いたけど」



    「面白かったでしょ」



    「やれやれ、我らが神子姫様はキツイ冗談がお好みだ。ま、そこも魅力の一つだけれどね」



    「信じてるからね、ヒノエ君。頑張って」



    「ああ、姫君のご期待に答えなくちゃね」



    「ヒノエ、そろそろ集中してくださいな」


    「分かったよ、弁慶おっさん。ヤキモチ焼きの男ってモテないぜ」



    「何か言いましたか? ヒノエ」







    「何で!? 何でこいつに当たらないんだ? 当たれ!!」



    「あ、当たれと言われても……。す、すまない」



    「謝るな! えい! えい!」



    「大夫殿も……楽しんでいらっしゃる……ククク」



    「い、いや、楽しんでなど…、ああ…」



    「えい! えい!」











    「望美さん、構えて。来ます! 先生!」



    「うむ」



    「弁慶も神子も、ワクワクしている。私には分かる。私の神子……」



    「白龍も、集中してくださいね」



    「弁慶…。分かった」







    「ヒャァッホウ! そんじゃー行くぜ行くぜ行くぜぇ!!」



    「…………………………………サザキ、黙って走れ」



    「俺も手加減は、しませんので」







    「望美!」



    「朔! よそ見してる暇は無ぇぜ! ラッキー! こっちもおいでなすった!」



    「来るよ来るよ〜〜! 朔ぅ〜、気を付けてね〜」



    「兄上こそしっかりして下さい!」



    「御意ぃ〜〜ってね! ハハハ、ア〜ァ」







    「リブ、遠夜、右に回り込むぞ」



    「や、了解」



    「…………………(アシュヴィン、楽しそうだ)」



    「遠夜が、アシュは楽しそうだって」



    「だろう。千尋、お前は楽しく無いのか!?」



    「ヘヘヘ、すっごく楽しい」



    「ま、似たもの夫婦ですね」



    「行くぞ!」







    「左! 譲殿! 左に回り込んできます」



    「朔! 構えて」



    「ああ、こんな事になるのが分かっていたら、望美に花断ちを習っておけば良かったわ」



    「大丈夫、君は強いから!」



    「譲殿、その御言葉はうれしくありません!」



    「おいおい、痴話喧嘩は後にしてくれ」



    「将臣殿 ク!」



意外な程の衝撃で、朔は落とされそうになるのを堪えた。



    「左! あ、兄上、大丈夫ですか!?」



    「大丈夫大丈夫〜〜!」



    「朔! 気を付けて!」



    「えい!」



    「は!」



    「や!」



    「とう!」



    「は!」



    「や、あ〜姫様」



    「かけ声だけ聞いてると凄〜〜い攻防をしているようだけどね〜〜」



    「OKOK、本人達は精一杯頑張ってるのさ」



    「……………………(千尋は頑張っている)」



    「遠夜、ありがと!」



    「朔! 負けるな!」



    「はい! 譲殿!」



    「弓なら千尋が存外あっさり勝つ、だろうがな」



    「アシュヴィン♪」



    「扇でなら朔の楽勝ですよ!」



    「譲殿」



    「バカップルは後でやれって!」

    「や、のろけは後にして欲しいですな」











09/09/02 UP

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