いざ 大運動会! in 常世
第7話 用意!
「道臣さん配下の方々が、レーン審判についてくれるって」
「でも望美さん、神代の人達にレーン審判なんてできるのかしら?」
「大丈夫、今、譲君が説明してくれてるから」
「本当に、有川君って大活躍ね」
「そだね。いつもそうだからピンと来ないけど、確かにね」
「弓の腕は一流で、料理もできて、いろんな事知ってて、働き者で、真面目。
高校2年の男の子にしては、すっごく大人よね、彼。
私の高校にはいなかったタイプだな」
「だってさ。朔」
「もう2人とも、あまりからかわないで」
「そう言えば千尋ちゃん、アシュヴィンさんと結婚してんだよね」
「うん、アシュヴィンったら強引に妻問するものだから……」
「えぇ、それは以前、私達の世界にいらした際に、アシュヴィン殿からお聞きしました」
「ああ、あの時ね……。ネィズミーランド…私も行きたかったな……。アシュヴィンったら…許さないんだから!!」
「だったら、今度は千尋ちゃんが平成に来ればいいんだよ」
「そうか……。うん、そうだね! 絶対、行くから!」
「待ってるね。そしたら、朔と3人で、ネィズミーや横浜やお台場にも行こうよ。
案内する、って言えるほどには詳しく無いけど」
「お姉ちゃん! いつまで、この『てーぷ』っていう紐、持っていればいいの?」
「あ、シャニ。ゴメンゴメン。もうちょっと待ってね」
「もう! 疲れちゃったよ」
「シャニ、頑張ろう」
「え〜〜足往、もう嫌だよ〜〜」
「はいはい、もう少し! 終わったら朔が御馳走してくれるって」
「え♪ ホント!!」
「はい」
「疲れたのなら、私が代わるわよ。その代わり、朔さんの御馳走は私のもの♪」
「嫌だなぁ、二の姫。疲れてなんかいるわけないじゃないか!
ほら、足往! 頑張るんだよ。しっかり持たなくちゃダメじゃないか!」
「…シャニ〜〜、ひどいよ〜〜〜」
「では」
「そだね、またシャニがぐずり始める前に」
「ええ」
「紙雷管、詰めたよ」
「朔、やる?」
「え? わ、私は…やり方が分からないわ。できれば、望美か千尋さんに手本を見せて欲しい」
「じゃ、ここはやっぱりこの世界の姫、どうぞ」
「私……私は…アナウンスがいいな。大きい音には慣れてるけど」
「え? これ、大きい音がするものなの、望美?」
「そだよ、スタートの合図だから」
「兄上の銃に似ているから、何か出るのだろうとは思っていたけど…」
「じゃ、千尋ちゃん、アナウンスやって。私がスターターやるよ」
「お願い」
「うん、じゃ朔、やり方、見ててね」
「ええ、いいわ。望美」
と、望美はスターターピストルを持って、スタートラインに向かって走って行く。
望美がスターターの位置に到着したのを見届けて、千尋はマイクを握りしめる。
軽く息を吸い込み、
「選手の皆さぁ〜ん! 足はしっかり結びましたか!?」
選手一同、頷く。
「望美さん、用意いいですか?」
望美の声は聞こえないが両腕で大きくマルを描き、大丈夫であることを示している。
それを確認して、千尋はゆっくりと宣言するようにマイクに向かって言った。
「では、始めます! 第一競技、二人三脚レース!」
応援の歓声が止み、一瞬の静寂。
競技に出場している全員が、400mトラックを半周した先のゴールテープを一瞥する。
「位置について!」
望美の声に、足下のスタートラインを注視し、
望美の右手に掲げられたピストルから発せられる合図を待つ。
「用意!」
思い思いに、すぐ飛び出せる姿勢をとる。
「パン!」
「パン!」
何故2度鳴ったのか分からず、そのまま走り続けたのが、6レーンの布都彦と柊、8レーンの遠夜と忍人。
「? なぜですか? 『すたぁと』という開始の合図は、
『ぴすとる』とかいう物から発せられる音のはずではなかったでしょうか?」
「ああ、俺もそう聞いた。どうして競技が中断したのだ!?」
「どうしたというのでしょうか? 将軍?」
「………(忍人、足が痛い)」
片方が分かって止まったのだが、相方が理解せず派手に2人して転けたのが、
4レーンのサザキと那岐、5レーンの譲と景時だった。
「痛たたたた〜〜〜」
「景時さん、焦らないでください」
「だってだって譲君〜〜ん、ぱ〜〜んって音がしたからさ〜〜〜」
「2度目がすぐに鳴ったということは、誰かがフライングをしたんですよ」
「誰か、合図より先に始めてしまうって、アレかい〜?」
「ええ」
「やれやれ、誰かな〜〜、そんな人騒がせなのは〜〜」
「サザキ、羽根だけじゃなく脚も邪魔…」
「しょうがねぇだろう! 何たってパンって鳴ってドンって出たら、ガクッだもんでさ」
「やれやれ、まいったね」
2レーンの風早とアシュ、3レーンのヒノエと弁慶、7レーンの敦盛とリズヴァーンは、まだスタートしていなかった。
「左隣が合図より先に動きましたからね」
「合図を待てないとは、存外せっかちな奴だな」
「ヒノエ、まさか合図に反応出来なかったのではないですよね」
「やだな〜、見損なって貰っちゃ困るね。弁慶こそ大丈夫かい?」
「ええ、こう見えても反射神経はいいんですよ」
「じゃ、1位はいただきだね」
「ええ、君がヘマをしなければ」
「先生…」
「 亦 不 楽 乎 」
望美が、ゆっくりと、しかし断固とした態度で指さす。
「将臣君、フライング!」
「望美! お前の『用意』から『ドン』の間のタメが長すぎるんだよ!」
「問答無用! 還内府、フライングだからね!」
「はいはい」
「将臣、『ふらいんぐ』とは、マズイのではないか?」
「大丈夫だ、九郎。次でぶっちぎって勝てばいいだけのことだ」
「そうなのか? そうならば、分かった。全力を尽くす」
「OK、他の連中に対するハンディってことで」
「ああ、勝つのは俺達だ!」
(そう! 勝つのは自分たちだ)
どのチームもそう思い、もう一度、各々のスタートラインに着いたのだった。
08/11/28 UP