いざ 大運動会! in 常世







第8話  ドン!













    「では、仕切直しです! 二人三脚レース、再スタート」



再び応援の歓声が止み、一瞬の静寂。

競技に出場している全員が、400mトラックを半周した先のゴールテープを一瞥する。







    「位置について!」



望美の声に、足下のスタートラインを注視し、

望美の右手に掲げられたピストルから発せられる合図を待つ。



    「用意!」



思い思いに、すぐ飛び出せる姿勢をとる。



    「パン!!」



まず、反応良く飛び出したのは、

先程自らも「反射神経に自信がある」と言っていたヒノエ・弁慶の鎌倉朱雀チームであった。



    「フ、ヒノエ、いい感じです」


    「弁慶おっさんこそ、いい感じじゃん」





しかし、その2人をインから風早とアシュヴィンが抜いていく。



    「フハハハその調子だ、風早!」



    「しっかりついてきて下さいね、アシュヴィン」





更にインから九郎と将臣が抜き去る。



    「ほお、存外やるではないか!」





    「1、2! 1、2! 1、2! 1、2!」



    「一、二! 一、二! 一、二! 一、二!」





 《は、速い! 速いです! 鎌倉青龍チーム!》



実況放送する千尋の声も一段と大きくなる。

それにつられるかのように、場内の観客の声援も大きくなっていく。



    「1、2! 1、2! その調子だ、九郎!」



    「ああ、分かった、将臣! 一、二! 一、二!」





 《間もなく、先頭の鎌倉青龍チーム、コーナーにさしかかります!》





    「少しずつ外側の俺の方が、歩幅を大きくするぞ!」



    「分かった、将臣! 一、二! 一、二!」



    「そうそう、その調子だ!」





 《速い速い! このまま2位以下を大きく引き離してしまうのか? 鎌倉青龍!》





そこに一陣の突風が吹き抜ける。



    「うわ!!」



    「え!! 何で!」





《あ! 大変です! 鎌倉青龍チーム転倒!! どうしたのでしょう?》





    「痛ててて…」



    「くぅ…痛」



    「九郎! だから髪の毛、何とかしとけって言ったろう」



    「そうは言うが、俺の髪を踏みつけたのは、将臣、お前だろう!」



    「仕方無ぇだろう! 足に絡みついちまったんだから」



    「風は不可抗力だ。しかし、足に絡みつく前に避ければ済んだのではないか」



    「片足、お前と縛られていて避けるだぁ? できっこ無ぇだろう!」





 《おや、絶妙なチームワークを見せていた鎌倉青龍、ここにきてもめています!》





2レーンの風早とアシュヴィンが抜いていく。



    「ハハハ、お前も俺のように三つ編みにしておけばよかったのにな」



    「アシュヴィン、からかっている暇があったら、走ることに集中してください。加速しますよ」





 《その後ろから鎌倉朱雀チームが迫る!》





    「九郎、お先に」



    「弁慶! 待て!」



    「嫌ですよ、これは勝負ですからね!」



    「そう言うこと、じゃ!」



    「ヒノエ! 九郎! この足に絡みついた髪、離れねぇぞ!」



    「痛たたたた! もう少し丁寧に扱え!」





 《更に後続の集団が迫る! 神代朱雀、鎌倉玄武、鎌倉白虎、神代白虎、神代玄武、一団となって迫る!

  これはもう、鎌倉青龍、牛蒡抜かれ!》





    「葦原さん…、そんな言い方、あるのかしら?」



    「え? 梶原さん、『牛蒡抜かれ』って言いませんか?」



    「さ、さぁ?? 私はあなた達の時代の言葉には疎いから…」



    「言いますよ、大丈夫大丈夫♪」


 《2位争い! 鎌倉朱雀に神代朱雀が迫る! 朱雀対決! 制するのはどっちでしょう!》





    「ひゃっほう! 姫さんの声援! 俄然張り切っちゃうね!」



    「声援? してないから」



    「も少し加速、しちゃうぜ!」



    「サザキ…、羽広げすぎ… ! ワワワ!」


    「弁慶おっさん! 後ろ!」



    「分かってますよ、急ぎます」


    「え! タイミングが! 弁慶おっさん!!」





 《あっと! ここで鎌倉朱雀、足がもつれた! 神代朱雀、一気に抜き去った!》





    「ひゃっほぉぉぉ! どうよどうよどうよ!」





 《神代朱雀、朱雀対決を制した勢いのまま、先頭の神代青龍に迫ります!

  アシュヴィィィィィン!! 負けるなぁぁぁ!!》





    「フ、千尋も存外可愛いことを言ってくれる」



    「声援の対象があなただけ、というのが不愉快ですね」



    「ほぉ、妬いているのか? 神様が?」



    「後ろ! 来ますよ」



    「どうようどうようどうよ!」



    「サザキ! 羽! 羽!」



    「那岐! 掴まってろよ! ここは一気に!」



    「アシュ、掴まって下さい! 抜かせません!」





 《ああぁぁぁ! 先頭2組、飛んだ!! 速い速い! 第4コーナーを突き抜けて行きます!》





2組は風よりも速く飛び、ホームストレッチを音速近くまで加速したかと思うスピードで、

シャニと足往の2人を風圧で吹き飛ばし、ゴールを突き抜けて行った。



    「きゃぁぁぁ! シャニィィィ!」



    「足往ぃぃぃ! 怖いよ!!」





 《もはや陸上競技ではありません!

  しかし、速い! あっと言う間にゴールを突き抜けてしまいました!

  と言うより止まれない止まれない! 校庭を真っ直ぐ突き抜けて…

  上空へ舞い上がり、雲の彼方へ見えなくなってしまいました。 お〜い!! 戻って来ぉ〜い!


  これは早速、第1レースから写真判定です!!》





チョッピリ、風早に掴まったまま見えなくなったアシュヴィンのことが心配になる千尋であったが

観客席の歓声で我に返る。





 《! こ、後続は…? やっと第3コーナーを曲がり終わって第4コーナーへ向かっているところです!

  ここで大外の神代玄武が身体1つリード、

  続いて鎌倉朱雀、鎌倉白虎、鎌倉玄武と鎌倉勢が続き、

  その後ろから神代白虎! ああ! 柊ぃ、まったく走ろうという気力が感じられません!》





    「柊殿! もう少し頑張ってください!」



    「私はこれでも、最大限の努力を払っているつもりなのですよ」



    「ではその最大限を3倍程に増量してください!」



    「ああ、君もかなり無理な事を求めるのですね」



    「柊殿!」





 《その後ろ! まだ鎌倉青龍は絡まった髪の毛が解けない様子です!》





    「九郎! こうなったらやむを得ん!」



    「将臣、どうするつもりだ!」



    「アンラッキーだったと思えよ九郎!」



    「将臣!?」



    「切る!!」



    「え!!! ちょっと待て!!」



    「これ以上は待てねぇんだよ!」



    「ま、待て待て待て!! 落ち着け!!! 将臣!!」





 《鎌倉青龍、何やらもめているようです!

  ああ、その間に集団は、神代玄武を先頭に、ほぼ団子状態で第4コーナーを抜けた!!

  さあ! 最後の直線勝負です! みんな頑張って!》





    「ガンバレ!!」



その声は突然だった。



スターター台から誰に応援したのかは定かでなかったが

その望美の1言は、遙か3のメンバーを奮い立たせるには十分過ぎた。

鵯越でも、生田でも、熊野でも

命を賭けた戦いで、いつも先陣をきって突っ込んでいっては優しい笑顔で振り返り、そして叫ぶのだった。



    「ガンバレ!!!」



    「神子!」





 《凄い凄い! 鎌倉チーム、春日さんの応援の声に加速! ああ! 皆が先頭に迫る!!

  遠夜君! 忍人さん! 頑張って!!》





思わず実況という立場を忘れて、千尋が叫ぶ。



    (こ、これは……玄武対決だわ)


そう思う朔は、一瞬の後に叫んでいた。



    「譲殿ぉ!! 頑張って!!!!」



    「朔!」



    「兄上ぇ!! 負けたら、承知しませんよぉぉ!!!」



    「さ、朔ぅ!」











 《ただ今のレースの結果を、審判長の道臣さんから発表していただきます!》





    「はい。……コホン、え〜、では、ただ今の競技の結果を報告いたします」



気付けば高校のグラウンドに入りきらない程の観客で溢れている。

リブとその配下の者達が忙しそうに、席の場所を指示している。

その観客達が一瞬、物音一つ立てず、道臣の次の言葉を待った。



    「第1位は…、第7レーン、鎌倉玄武!」



    「せ、先生!」



    「我々は……、神子にまた助けられたのだな」



    「はい」



大観衆の歓声と悲鳴



    「え〜! しゃーって飛んでばしっと勝ったのは俺だろう!」



    「やれやれ、分かってないね」



    「那岐ぃ? どういう事だい! 道臣さんよぉ!」



再び歓声と悲鳴





 《勝者は平敦盛さんとリズヴァーンさん!! え〜〜何でぇ? アシュヴィンじゃ無いの?》




    「フハハハ、存外、可愛い奴だな、千尋おまえは」




    「コホン…えー、第2レーンと第4レーンは、空を飛んだことでコース離脱、失格となります」



    「あああ、そうですね。確かに、そうでしょうね」



    「風早、お前も存外、熱くなる『たいぷ』なのだな」



    「そんなことはありませんよ。いたって冷静です。

     それよりも、どうやら、君といると調子が狂ってしまうからでしょうね」



    「しかし、俺の黒麒麟よりは遅かった」



    「そ、それは! 人の姿では、ここまでが限度ですね。何だったら君の黒麒麟も人の姿に」


    「ほら、な。熱くなる。存外、からかい甲斐のある神様やつだ」



    「第2位」



どこから持ち出したのか、千尋がBGMにドラムロールの音を流す。



    「第8レーン」



    「第八連!! 遠夜! 我々は勝ったのだな!」



    「………(2位だから、忍人)」



    「第3位」



再々度、固唾を呑む観衆



    「これは、同着で2組となります!」



どよめく群衆。



    「写真判定の結果も同着で、第3レーンと第5レーン」



    「微妙な順位じゃん」



    「ま、表彰台には立てるのですから、良しとしましょう、ヒノエ」





    「譲君譲君譲君〜〜」



    「よかったですね景時さん、とりあえずは朔も褒めてくれますって」



    「そうかなそうかな〜〜♪」



    「兄上ぇ〜! 譲殿ぉ〜!」



    「朔ぅ〜〜」



しかし朔は景時をスルーして譲に飛びついた。

差し出した腕の所在なさに、



    「ハハハハ……」



と力無く笑う景時であった。





    「5位は第6レーン。なお、第1レーンは源九郎君からの申し出により棄権となりました」



    「九郎! お前! そんなに勝負より髪の毛が大切か!」



    「そうでは無い! 勝てる芽が残っていたなら切ったかもしれんが」



    「言い訳だろ! そんなのは!」



    「なんだと!!」



    「2人ともいい加減にしなさい!!」



後ろから望美が2人の後頭部に回し蹴りを入れる。



    「おお! 向こうの神子はなんと雄々しい!」



群衆が望美に喝采する。



    「痛ぇな! 望美! 後ろからの回し蹴りは止めろ! ヘタすりゃ死ぬだろ!」



    「そうだ! 望美! どうしてお前には、女性としてのたおやかさというものが無いのだ!」



    「へ〜んっだ! そんなに偉そうに言うのなら、次の勝負で2人して勝ちなさいよね!!」



    「おお! そうだ! 次こそは勝利してみせる!! な、将臣!」



    「ああ、この後頭部回し蹴りの礼は、次の勝負で晴らしてやる!!」



そんな様子を見ていて



    「やれやれ、これでは2人とも望美さんの掌の上ですね」



    「精神的双子だからね、九郎と将臣は」


    「おや、珍しくヒノエきみと意見が合いましたね」



    「そんなことより、次は」



    「ええ、勝ちますよ。九郎達には悪いですけどね。どんな手段を使っても」



    「へぇ、あんたじゃないけど、ホント、今日は意見が合うみたいじゃん」





    「リズ先生」



    「うむ」



    「やはり先生の仰る通り、私達八葉の神子は、得難き、優しい方なのですね」



    「うむ」







その優しい方の、次の一言で、事態がとんでもない方向に転がっていくことを

この時点で誰が想像しただろうか。











08/12/18 UP

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